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「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃ、イタズラする――」


バンッ! 


と音がするほど強く開けられた扉の向こうで真っ赤なフードをかぶった可愛らしい少女がその顔に似合わないほど顔を顰め侵入者を見た。


男の身長は183.0cm位はあろうか。


コートの上からでも分かる小麦色に焼けている引き締まった身体、短いオレンジ色の髪には焦げ茶色の動物の耳が風に吹かれているわけでもないのに揺れている。


切れ長で冷たい印象を受けるパープルの瞳は今、目の前にいる少女の為だけに垂れており、その表情は堪らなく、甘い。


普通の女の子だったら男のルックスに『恋する乙女』状態になるのだろうが、この少女は嫌そうな顔一つ変えることなく冷たく言い放った。


「止めろ、寄るな触るな喋るな出て行け。お前の相手をしている暇はない」


その顔に似つかわしくない程乱暴な言葉が少女の口から漏れ、全身から『消えろ』オーラを醸し出している。


「ちょ、酷! 犬よけの超音波のやつ向けないで!! 俺、いちお狼人間だよ?!」


とかなんとか言いつつも耳を塞ぎ後退る男に少女は溜め息を漏らす。

何故この男はこんなにもしつこいのだろう、と。


「だから何だ。実際効いているじゃないか。それに、狼ニンゲン? 聞いてないし、全く興味ない……というか早くここから立ち去れ、本気で言うが今日はお前に構っている暇など欠片もないんだ」


だから早く、と続けようとした少女の言葉を待たず男は心底驚いたように叫んだ。


「何!? 年中この汚い家から出ずにいつも変なことやっているアンタに何か用事でもあんの!?」


「……」(カチ)


これだから空気の読めない奴は、と思いながら音波の量を上げた。


「ぎゃァァァァァ!! スイマセンでしたァァァ!! 謝る、謝るから! 超音波強くするのだけはぁぁぁ!!!」


「汚いと思うんだったら今、すぐに私の視界から消え失せろ。この下狼げろうが」


「……ぁぅ。本当にすみませんでした」


「私の友達が来るんだ。だから今すぐ去――」


「えぇぇぇぇ!!! アンタに友達!? ありえねー!」


本当に止せばいいのに、土下座したままの姿勢で項垂れていた男が先程よりも大きな声を上げる。


「……」(カチ)


黙ってスイッチを入れる少女の表情には最早怒りの色すらない。


「ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


「……学習することが出来ねぇのか。脳みそ空っぽだな、てめーはよぉ」


本来の愛らしい顔を180度変えたような少女の極上の笑顔が堪らなく怖かった。


「ヒィィィィィィィィィィィィィ!!!!!」



  *  *  *



ヒクヒクと耳を押さえ悶絶する男を一瞥し、溜め息をついた。


「……うちで飼っているヴェル(ジャーマンシェパード:♂:2歳)の方が一千倍も頭いいな」


「――は? 何ソレ。初耳なんですけど」


ボソリ、と呟いた少女に男が直ぐさま反応する。

しかも今さっきまでの垂れた目ではなく、本来の鋭い目になっている。


「あれだけ痛がっておいて何故そこで反応する!? ――ヴェル!!」


初めて見る男の表情に気圧されながら愛犬の名を呼んだ。

すると直ぐさま家の中の家具(男曰くゴミ、または障害物)を飛び越えて大きな獣が少女を守るようにして男の前に立ちはばかった。


「グルルル……」


主人の声音がいつもと違うことに気付いてか、すっかり戦闘モードになった獣を前にして男の表情も硬い。


「オス犬!? しかも大型犬!? 完璧俺への嫌がらせじゃん!!」


悲痛な声を上げる男の視線は少女に向けられており若干怨みがましい。


「言っている意味が一ミリたりとも理解できない」


何故か妙な悪寒を感じて少女は腕をさすった。


「っていうか、犬嫌いじゃなかったの? そんな超音波のなんか買って……」


それ、と見るのもおぞましいとでも言わんばかりに指さした機械に目もくれず、少女は「ああ」と言った。


「これを使用するのはお前ただ一人だけだ」


「えっ……」(ポッ)


少女の言葉を聞いて嫌そうに顰められている男の顔にサッと朱が走る。


「何故そこで頬を染める!!? ただお前みたいにしつこいストーカーにだけこういう金が掛かった装備が必要だと言っているんだ!」


少女の叫びはその大きなお耳にシャットアウトされてしまったらしく、男は「俺だけ、俺一人だけ……特別」とどこか虚ろな目で繰り返していて、その表情は恍惚に近い。

すっかり戦闘モードを挫かれた獣が暇つぶしにその足に噛み付いているが、本人は気付いていないようだ。


「おーい……ダメだ。――ヴェル、家に戻ろう。風も冷たくなってきてしまったし、風を引いてしまうかもしれないから」


カーキのズボンは擦れ血が滲んでいるというのに痛みの表情を見せない男に呆れつつ愛犬を家の中へ戻し、小さく詠唱して消毒薬と包帯を取り寄せる。

今度こそ大きな溜め息をついて少女は独り言のように呟きを漏らした。


「……何か放っておけないんだよな」


そして少女は慣れた手つきで男の足に包帯を巻き上げ、レンガでできた道の上に魔方陣を描き上げる。


「……うーん、少し歪になっちゃったけど……まぁ、いっか。家には着く……筈」


凹凸の激しい場所に描いたお蔭で少し不格好になってしまった魔方陣を見下ろしながら「……危険かな」と呟いていた少女だったが、未だ意識の戻らない男を一瞥して(……こいつなら大丈夫だろう)と何の根拠もなく太鼓判を押して男を引きずって魔法陣の上に乗せる。


「――我、この者を元在るべき場所に送り届けん」


少女の詠唱が終わった時既に男の姿はなく、西の空に太陽が沈もうとしていた。

それを見ながら、さぁ早く客人を迎える準備をしなければと少女も家の中へ戻っていった。




――もうすぐ、夜が来る。




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