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わたしはお母様と流行りの『悪役令嬢モノ』の演劇を見に行く途中で事故に遭って死んだ。
次に目を覚ました時、わたしは見に行こうとしていた演劇とは別の演劇に出ていた『セシリア・ワーグナー伯爵令嬢』に転生していた。
所謂『聖女モノ』で、聖女アリシア・キーズ男爵令嬢の過去回想にのみ出て来る端役で、わたしの死が、アリシアが聖女として覚醒するキッカケになった―――と言う、『死』が役割の役だったと覚えている。
セシリアは大国の王族に連なる血筋の公爵令嬢に暴言を吐き、令嬢が誕生祝いに大国の王から贈られた髪飾りを奪った事で家族諸共炭鉱業に従事する事となる。
平民に落とされたセシリアは当初こそやさぐれていたものの、6歳と言う幼さからくる好奇心もあり自暴自棄になっている両親とは違い、逞しく生きている女の子だ。
8歳になった年に、鉱石山の近くに住む主人公のアリシアと出会い、その心の清らかさに己れの行動を心から後悔した。
そして、自分の働く鉱石山に父親の視察に付いて来ていた件の公爵令嬢と再会し、仲直りする。
公爵令嬢が差し入れたお弁当を、アリシアと公爵令嬢、そしてセシリアの3人で食べている時に不運な事に落盤事故に巻き込まれてセシリアは死んでしまう。
「―――冗談じゃないわ」
前世で、たったの12歳で儚くなって。
今のわたしが4歳だから、残りの時間が4年しかない、だなんて、認められる訳が無い。
『わたしと良く似た顔立ちの、わたしが唯一助ける事が出来なかったお友達』
そのセリフを思い出した時、わたしは思い付いたのだ。
物語通りに進むとは限らないのだから、もしかしたら、―――アリシアに成り代わる事が出来るんじゃないか、って。
聖女アリシアは平民でありながら、女神様の石碑を読み解いた事で右手に聖痕が刻まれ、物語の中で数々襲い掛かる災厄を退け、―――身分を隠してずっと傍らにいた大国の王子ヴィクトルと結ばれる。
平和になった世界で、天寿を全うし。
その名は後世に末永く語り継がれる。
「わたし、アリシアになりたい」
好きだった演劇。内容は全て覚えてる。
―――うまく事が運んで、セシリアからアリシアになったわたしは、アリシアとして幸せな人生を送る事が出来たのなら、それで満足だった。
1度の成功体験から、次から次へと欲が出て。
―――公爵令嬢の婚約者の方が、好みだったから。
そう。
わたしはほんの少しだけ、―――魔が差したのだ。
わたしには、聖女に聞こえるべき女神の声は聞こえない。
物語として知っていたから、今迄聖女として女神の神託を口にする事が出来た。だから、神殿の人間はわたしがアリシアだと誤認した。
「アリシア・キーズ男爵令嬢。貴女には、身分偽証と聖女殺しの容疑がある」
たった9日で首都を陥落せしめた大国の王子が冷ややかにそうわたしに告げた。
嗚呼。
わたしはどこで、何を間違えてしまったのだろう?




