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リベルタ公爵領及び南部農園地域の防衛結界の消失を確認。
スピネル国正規軍20万、義勇兵1万2000。
スピネル国による国境付近の村50の占領完了を確認。
「―――これが、スピネルの公式声明発布から僅か6時間の出来事な訳だが」
オニキスの軍司令部から齎された「事実」をドミニク・アングル王太子殿下は淡々と告げた。
「こちらには聖女がいます。防衛結界は張り直して軍略を練る程度の時間は十分ありますよ、兄上」
「バイオレット嬢は、そこの『聖女』の保有魔力を遥かに凌ぐ魔力の持ち主だ。リベルタ夫人とバイオレット嬢が組み立てた防衛結界を維持する為にどれ程の魔力が必要なのか分かっているのか?」
防衛結界の要である魔力炉に定期的に魔力を注ぎ込む。
それくらいならば、多少バイオレットより魔力保有量が劣るアリシアでも問題ない筈だ、とロベールは言った。
「―――愚か愚かだとは思ってはいたが、そこまでとは」
ムッと顔を顰めたロベールに
「―――防衛結界一基に付き総魔力1万。此度機能停止した防衛結界は25基です」
と、ドミニクの妻であるリステルが口にする。
「防衛結界一基を維持する為に必要となる魔力量が1万です。己の肉体に膨大な魔力を溜め込む事の出来る体質であるスピネル人であるからこそ出来る業です。
キーズ男爵令嬢がひと月魔力炉に魔力を注いで漸く、防衛結界を維持出来る計算です」
魔力炉に魔力を注ぎ込んだ後のバイオレットは
「嗚呼、こんなに骸骨の如く痩せ細ってしまって…」
とリベルタ夫人の親族一同に心配される程に消耗する。スピネル人は膨大な魔力の消費を起こすと魔力が回復するまでは他国における「標準体型」となる。
バイオレットは防衛結界維持の為の魔力を注ぎ込む度に、スピネルでは「やや細め」の体型である為に寝込んでしまう。
「魔力消費後の姿が42kgだなんて!!
さあ、たくさん食べて、はやく快復するのですよ!!」
膨大な魔力を溜め込む体質のスピネル人にとって、魔力消費後の体重が42kgと言うのは生死に関わるレベルである。
それなのにこの愚義弟は、とリステルは冷ややかな目でロベールを見た。
「え。バイオレット様はそんなにたくさん魔力を使って大丈夫なのですか?」
「…把握している限り、貴女にバイオレット様を名前で呼ぶ権利はありませんよ、キーズ男爵令嬢。とは言え、これから貴方がたが直面する問題を乗り越えるべきと考えて答えましょう。
―――貴女の魔力保有量が25万。バイオレット様は250万、或いはそれ以上の魔力を保有しています」
貴方が「豚の様」とこき下ろしたバイオレット様の体型はその全てが体内で保有している魔力によるものですよ、と冷たい声音でリステルは告げる。
「スピネル人は身内を傷付ける相手に対して情けなぞ持たん。
―――喜べロベール。
父上が、お前をこの戦争の指揮官として任命して下さるそうだ」
ずっと指揮官をやりたがっていただろう?とドミニクに言われ、ロベールは顔を青くする。
それはつまり、今回のバイオレットに対する不義理の結果であるスピネルのオニキス国内への進軍の全責任を自らが取らなければならない、と言う事だ。
バイオレットはスピネル王家の血を引くとは言え、他国に嫁いだ王妹の娘であり、オニキス貴族として生まれた公爵令嬢である以上、オニキスの王族である自分がバイオレットをどう扱おうと何の問題は無いだろう、と、ロベールは考えていた。
万が一スピネルを怒らせたとして、父上がどうにか事を丸く治めてくれるだろう、と楽観視していた。
「お前とキーズ男爵令嬢の関係はとうの昔にスピネル王室の耳に入っていた。…学園内での自由恋愛が許されるきっかけともなった数百年前のある国の王子の行動と、お前達の関係があまりにも類似している事を危惧したスピネルは、卒業パーティーの数ヶ月前から
『バイオレット・リベルタ公爵令嬢が、公衆の面前で婚約破棄される様な事態』
に備えて、いつでも進軍出来る体制を整えていたそうだぞ」
この30年で、オニキスは自然の要塞を手にした事から領地獲得の為に攻め入る事には慣れてはいるが、防衛戦は不得意だ。
それでも、こちらには『聖女』がいるのだ、と、―――結末を薄らと理解していながら、ロベールは呟いた。




