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「―――それでね、ロベール様から婚約破棄されてしまったの」
シュークリームを頬張りながら卒業パーティーでの顛末を伝えるバイオレットは「次のお菓子は何かしら?」くらいのノリでそう言った。
「わたくしは気にしないけれど、お母様のおじい様やおばあ様達は凄く怒ると思うのよ。だって、いつも
『バイオレットに不快な思いをさせる輩がいれば、直ぐに私達が助けてあげるからね』
と仰って。…わたくしが歩き辛いと言えば次の日には道路の舗装をして、わたくしの髪飾りを隠したサロンにいらしていた伯爵令嬢は突然ご実家が没落してご家族で炭鉱業に従事していらっしゃるもの…」
少しやり過ぎではないかしら、とバイオレットは言うが、5人の兄姉から時を開けて生まれ長年魔力過剰症に悩まされた末姫カールミルラとその娘であるバイオレット、息子ロバートに過保護になるのは仕方ない事だと思う。
「公衆の面前で、王族の血に連なる者が恥をかかされた、となれば、戦争になるでしょう?ルー兄様は既にそのおつもりみたいだけれど、オニキスはわたくしの生まれた国でもあるし、お友達もたくさんいるのよ。戦争になったら、みんな大変だわ…」
「バイオレットが悲しむ事はしない、と思うよ」
魔力識別でバイオレットと交友関係にあった民家や住民は外して魔術による空爆を行うと思う。
僕の知るスピネルの王族はそうする。絶対。
「そうだねバイオレット。戦争は避けられないけれど、オニキスには『聖女』がいる。流石に聖女相手に善戦は出来ないかも、だ」
「ルー兄様」
『聖女』よりもバイオレットの方が魔力保有量が高いと知ってその発言ですか、ルーズベルト王太子殿下…
「でも聖女様、ぼくより弱いじゃないですか」
「ロバート、しー」
「しー」
リベルタ公爵領である元スピネル北部地域一帯と銀鉱山、それから、バイオレットの誕生祝いに贈られた大規模農園地域。
スピネルとの国境に面した自然要塞によりこの30年オニキスは大躍進してきた訳だが、不義理に対する誠意としてそれらを手放す事になると、―――オニキスは背後から突かれる形になる。
元平民の『聖女』アリシア・キーズ男爵令嬢との噂はスピネル王族の知るところでもあったし、数百年前の何処かの王族がやらかしたと言う公衆の面前での婚約破棄の可能性を鑑みて、ウチの領地にスピネル王族が大集結している。
彼等の悪い予感は、大的中してしまった、と言う訳だ。
「公式声明は既におじい様とお父様が用意している訳ですが、―――おじ様はどうなさいますか?」
「貴国には返しきれない恩がある。それに、可愛い娘が公衆の面前で恥をかかされて平気でいられる程、僕は器が大きくないからね」
「では、リベルタ公爵領と、南の農園地域を拠点として進軍を開始しましょう」
「うん、流石に公式声明を発布してからだよ?」
「当たり前ではないですか。我が国を宣戦布告も無しに攻め入る野蛮民族と同じにしないでいただきたい」
耳が痛いな。
さて、第2王子殿下はどう出る事やら。




