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―――リベルタ公爵領、新聞社。
「バイオレット様が、卒業パーティーで婚約破棄されたそうだ」
「―――正気ですか、我が国の第2王子殿下は」
新人記者のマックスは思わずそう漏らしてしまった。
無理もない、バイオレット嬢と言えば大国スピネルの王家の血を引くオニキスの王室よりも家格が格上の公爵令嬢だ。
「婚約破棄の理由が、バイオレット様の体型にあるそうだ」
「いや、馬鹿なんですか?スピネル国民の平均的体質くらい把握するもんじゃないですか?王族の血筋ともなれば、もっとふとましい方が望ましいくらいなのに?」
視察で市街地の住民と交流のあるバイオレットはリベルタ公爵領でもアイドル的人気がある。
子供達や、仕事を失った者達が普通の暮らしを送ることが出来る様に公爵領での仕事を手配し、平民の識字率をあげる為に学校を創り、時には自ら読み書きを教える姿は未来の王子妃としてあるべき姿だと国内外問わず賞賛されている。
父エルマー、母カールミルラの遺伝子をしっかり受け継いだ聡明な令嬢だ。
カールミルラの魔力過剰症の遺伝が心配された事もあったが、バイオレットと、弟ロバートには魔力過剰症は遺伝せず健康体そのものである。
神殿での魔力調査の結果によると、『聖女』よりも高い魔力を保有している。
「聖女様を側妃か妾にするなら兎も角、聖女様を正妃にするつもりでの婚約破棄なんて、第2王子殿下は何の為に学園内での自由恋愛は許されているのかすら理解してないんですか?」
正妃ひとりだけでは、子どもが望めないかもしれない。
学園内で側妃や妾として相応しい口の固い、子を望める人材を吟味する為でもあり、また王子自身に生殖不能が見られた時に正妃として選ばれた婚約者に自身の後釜として相応しい婚約者を見繕う為のシステムの筈だが、まさかそれを理解していないのだろうか。
「何しに学園に行ったんですか、あの王子は?」
「むかしからドミニク・アングル王太子殿下に対して劣等感を抱いていた御方だ、『平民出身の稀代の魔力持ちの聖女』を手元におく事で劣等感を払拭したかったのかもしれん」
「『聖女』って言っても魔力の保有量自体はバイオレット様に及ばないでしょ?それに、バイオレット様は元よりあちらさんの末姫のカールミルラ様の家名に泥を塗ったともなれば、どうなる事かは平民でも理解出来るでしょうに…」
「―――スピネル国王は可愛い姪の卒業と新しい人生の門出を祝う為にルーズベルト王太子殿下含め4人の王族をパーティーに参列させている。一般枠で参列した我が社の記者曰く、ルーズベルト王太子殿下はそれはそれはイイ笑顔をしていたそうだ」
あ、終わったわ、第2王子殿下。
新聞社の新人社員マックスは震え上がった。
「編集長、リベルタ公爵領に逗留中のスピネル前国王夫妻とスピネル現国王夫妻からの正式な声明が発表されました。曰く、
バイオレット・リベルタ公爵令嬢に対する不当な扱いに対して遺憾の意を表し、強く抗議する。
そして女神と御使いの名のもとに、直ちに制裁を加えるであろう、と―――」
「…事実上の宣戦布告、か…」
クロード王は息子の不義理に対する誠意として現リベルタ公爵領と銀鉱山、大規模農園地域を返還する姿勢を見せている。
現リベルタ公爵領を手にして以降、領土争いの戦争においてオニキスが常勝しているのは現リベルタ公爵領と言う自然の要塞に護られているからだ。
その自然要塞が無くなれば、オニキスはどうなるのか。
「ほんっとに、馬鹿な真似をしてくれたよ、あの王子は…!!」




