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「バイオレット・リベルタ公爵令嬢!!貴女にはほとほと愛想が尽きた!!
貴女との婚約を破棄し、私はこの―――アリシア・キーズ男爵令嬢と婚約を結ぶ!!」
学園の卒業を祝うパーティーで、ロベール・ブレッソン第2王子殿下はバイオレット・リベルタ公爵令嬢にそう告げた。
傍らでは、噂の『聖女』が瞳を潤ませながらその腕を殿下に絡ませて立っている。
「―――正気ですか?」
もぐもぐと食事を続行しているバイオレットに代わり、スピネル国国王名代として訪れていたスピネル国王太子ルーズベルトが口を開いた。
「貴方は、バイオレットの従兄弟でしたか。ええ、私は正気です。再三、自己管理を怠るなと忠告を受けたにも関わらず、今日に至るまでその豚の様な体型にまったく変化の無い者など、王子妃として相応しく無いでしょう?」
殿下はルーズベルト王太子殿下をジロジロと見る。
スピネルの美醜の基準が世界一般的では無いとは言え仮にも他国の、それも大国の王太子に向ける態度では無い。
30年以上前に熱烈な恋愛結婚をした末のカールミルラ姫の娘の新しい人生の門出の晴れ舞台だとスピネルではその話題で持ち切りなのだが、どうやら我が国の第2王子殿下にとってはそうではなかったらしい。
カールミルラ姫の嫁入りの持参金として、現在のリベルタ公爵領があるのも知らないと言うから、「我が愚弟は何のために学園に行っているのか」とドミニク・アングル王太子殿下は嘆いていた。
カールミルラ元王女殿下は魔力過剰症でスピネルではあまり見られない、世界一般的には普通の体格をしている。
エルマー公爵閣下は学生時代スピネルで魔術による火傷に対する最先端医療を受けて現在では「すこし肌の色が違う?」くらいに快復し、カールミルラ元王女殿下は現在のリベルタ公爵領での魔力過剰症に対する療養の結果「標準体型」よりは少しふくよかな体型になっている。
健康体であるバイオレット・リベルタ公爵令嬢はスピネル国民の特徴とも呼べる魔力を肉体に溜め込む体質であり、スピネルではあの肉体は幸福の象徴、王家の血筋ならば、もっと大きくなる方が好ましいとカールミルラ元王女殿下のご実家であるスピネル王室から大量の食料を贈られ、いつもそれらの贈り物を幸せそうに平らげると言う。
「ルー兄様、わたくし、別に構わないわ。だって、フィリア王妃様もロベール様ではわたくしと釣り合わないと仰っていらしたし…」
「そうか。それが『スピネルの至宝』に対する、オニキスの国としての意向、総意なんだね?」
笑顔は崩れてはいないが、背後にドス黒い闇を背負っているルーズベルト王太子殿下はバイオレット嬢にチェリータルトを渡す。
「貴方がたがそうやって甘やかすから~」と何か言っているロベール・ブレッソン第2王子殿下はもう口を開かないで欲しい。
「フィリア王妃様、ロベール・ブレッソン第2王子殿下と我が従姉妹が釣り合わない、とはどの様なお考えの元に発言されたものでしょうか?」
卒業パーティーに参列したら愚息のやらかしを目にする事になった上にバイオレット嬢の発言によって飛び火を受けた王妃様は顔面蒼白で必死にルーズベルト王太子殿下に取り繕おうとしている。
―――どういう意図で王妃様がバイオレット嬢に発言したのかは、『影』を使って把握しているだろうに、怖い御方だ。




