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30年前。
14で嫁入りする事が慣例のスピネルの王族としては珍しく、18歳でオニキスの公爵家に嫁いで来たカールミルラ様はそれは美しかった、と婚礼に参列した父上から聞いた事がある。
王侯貴族の女性と言えば、肌が白ければ白い程、腰周りが細ければ細い程美しいとされる社交界の華だと、当時の貴族令嬢はみんなカールミルラ様に憧れたものだし、殿方達は『カールミルラ王女殿下の相手が、あのバケモノ公爵のエルマーならば自分にも可能性はあるのでは無いか?』とリベルタ公爵の当主を若くして引き継いだエルマー様に王女殿下を妻に迎えるに当たって相応しくない瑕疵が無いかと、小箱の中身を針でつつく程詮索したものだ。
カールミルラ様の持参金であり彼女の療養地でもあるスピネル北部地域にエルマー様は少人数の使用人を連れ立って移住し、先ずは魔力過剰症の治療を、と発見されたばかりの魔石の研究に打ち込んだ。
扱いの難しい魔石である事もあり、カールミルラ様の魔力過剰症が寛解するには12年にわたる試行錯誤があった。
魔石研究に詳しいダラム国から移住したヴァール伯爵家の技術提供が無ければ、更に時間が掛かっただろう。
リベルタ夫妻は、「子供を持てなくとも、愛する貴女/貴方が共にいてくれるのならば」と、半ば諦めかけていたが、魔力過剰症の寛解後直ぐに第1子のバイオレットが、その5年後には後継となる第2子ロバートが誕生した。
カールミルラ様は己れの魔力過剰症が愛する我が子に遺伝してはいまいかと心配していたが、―――お2人共、乳母が10人いても足りないくらいの健康体だった。
スピネル国民の体質に適応した魔力を豊富に含んだ食料がいつでも手に入る様にと、バイオレット様の誕生祝いに南部の大規模農園地域が贈られた。
―――双子の兄のリチャードは、「是非ともバイオレット嬢を妻に迎えたい!」と父上に言っていた。
既にオニキスの第2王子ロベール・ブレッソンと婚約が内定している、と聞いて酷く落胆していた姿を覚えている。
…ディアムンドには、優秀な魔術師が不足している。
兄が妻としてバイオレット様を求めたのはそう言った事情がある。
『顔立ちは両親譲りに整っているし、優秀な魔術師に成長する事は間違いないし、良いと思ったのだが…』
オニキス側が早々に第2王子との婚約を纏めたのは、スピネルと言う大国とこれからも末永い付き合いを求めたからだろう。
カールミルラ様の持参金として持ち込まれたスピネル北部地域と言う領地と銀鉱山、バイオレット様の誕生祝いに贈られた南部大規模農園地域の存在により、オニキスは自然の要塞を手に入れた。
身内の為なら労力を惜しまないスピネルの後ろ盾があれば、当時敵対関係にあったルピアやサフィールも簡単には手出しが出来ない。
実際、オニキスはカールミルラ様が嫁いだ頃、そしてバイオレット様が誕生した頃にルピアやサフィールに侵攻して勝利を収めている。
その事実を知らない訳では無いだろうに、第2王子はバイオレット様との婚約を破棄した。
それも、スピネルの王族も参列する学園の卒業パーティーで、だ。
「わたくし、ほんとうにロベール様との婚約破棄は気にしていないのよ。
だからロベール様との婚約破棄をすんなり受け入れたの。
―――そうすれば、ルー兄様達も動きやすいでしょう?」
この国の人間は大なり小なり、バイオレット様には恩義がある。
9日、と言う短期間で首都を陥落せしめたのは何故かスピネル軍の侵攻に抵抗する者はいなかったからだ。
ヘンリー王の子供達による魔術による空爆で被害を受けた地域の殆どは、スピネル国民の体質を良く理解せず、スピネル王家に唾を吐く様な領主のいる地域だと聞いている。
「行くわよ、パスカル」
ロベール第2王子と、哀れにも新たな婚約者として婚約を結んだキーズ男爵令嬢の捕えられた幽閉塔へと、バイオレット様は軽やかな足取りで進む。
―――私も、その後ろに続いたのだった。




