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この世界の『女神の御使い』による有り難いお話
あ、良かった。目が覚めた…。
ここは、そうだね。
所謂、死後の世界。君たち人類が天国と呼ぶ場所であり―――僕達管理者側からすれば保管庫、が人間の言葉で言うならば1番近いかな。
バイオレットとパスカルが無事か?
無事だよ。大きな後遺症も無い。
自分が死んだ事よりも第一声に友人の生死を気にかけるだなんて、我らが女神イシュトー様の創り上げた世界の聖女に相応しい反応だね。
僕?僕はノルンティーネ。歯車の魔女。
キミが生まれた世界の人間が女神様の御使いと呼ぶ存在だね。
実際には王道も王道の平民聖女が身分を隠してずっと傍にいた大国の王子に溺愛される、なんて物語な訳であって、だから、キミが聖女として見出された後に様々な艱難辛苦を乗り越えるのは物語のエッセンスとして必要不可欠だからキミが苦労を背負う事自体は問題無いし、可能性の分岐もいくらか用意されていた訳だけれども。
―――主人公が物語が動き出す前に世界から退場する、なんて分岐は本来あってはならないんだよ。
歯車の魔女である僕の役目はね、原作者の意に反する分岐が誕生してしまった時、軌道を調整する事。
キミが死んだ事によって大国の王子は愛を知る事無く生涯独身を貫くかもしれない。
キミに成り済ましたセシリアによって、本来多少の苦難はあれど乗り越える事が出来た筈の様々な問題が解決せず、最悪の結末を迎えるかもしれない。
セシリア、―――の中にいる異世界人アーデルハイトは自分の知る物語から大きく軌道が逸れる事を心配していたみたいだけれど、生きたいだけならバイオレットの友人になれば何の問題も無かったのに。
4歳で前世を思い出したのだから、ワーグナー伯爵家が没落する未来だって変える事が出来た筈なのに、
『セシリア・ワーグナー伯爵令嬢は8歳で落盤事故に巻き込まれて死ぬ』
と言う分岐は変わらないと言う思い込みで自分の知る『セシリア・ワーグナー』を演じた上で『アリシアに成り済ます』と言う暴挙に出た訳だから、バイオレットが放って置かないよ。
―――バイオレットは、優しい子だよ。
優しい人間を怒らせると恐ろしい、を体現している人物だとも言える。
あの王家の血筋を引く公爵令嬢だ、身内をコケにされた時の激情はしっかり受け継いでいる。
自分が幼いから、落盤事故で亡くなったのはセシリアでは無いと言っても信じて貰えない事を利用して、今迄嫌悪や不快を感じた時におじい様達が速やかに処理していた事を、例え何年掛かってでも自分の手でケリを付ける覚悟でいるね。
うん、…キミが、復讐を望まないのは物語を創り上げたイシュトー様も僕達も、もちろん、バイオレットやパスカルだって理解しているよ。
王道の聖女とはそういうものだ。
僕が思うに、バイオレットはセシリアの生命を奪う様な真似はしないよ。
王家の血筋のバイオレットが身分偽証に聖女殺しの容疑のあるセシリアに最高刑を言い渡す事は簡単だけれど、それはつまり、いつでも出来る事だ。
だから恐らく―――生命を奪う以外の事であれば全て、許可する道を選ぶんじゃないかな。
バイオレットは絶対に怒らせてはならないのは、その辺に保管されている可能性の物語を見たら分かると思うから、興味があるのなら見てもいいよ。




