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冬の童話祭2026

王様とさくらんぼ

作者: 六福亭

 王様が自分のお部屋に入ると、さくらんぼの鉢がありました。


 極東から取り寄せた白磁の深い器に、こんもりとたくさんのさくらんぼが入っています。まんまるなさくらんぼは、どれもつやつやと真っ赤に輝いていました。


 王様は、思わずごくりとつばをのみました。


 そして、へたをつまみ、さくらんぼを一つ、ぽんと口の中に放りこみました。


「うーむ、美味しい!」


 さくらんぼがあまりにも甘く、さわやかで、汁気たっぷりだったので、王様は舌鼓を打ちながら次々とさくらんぼを食べました。そしてはっと気がつくと、器に入っているのは種ばかり。


 ばたばたとにぎやかな足音がして、末のお姫様がお部屋に駆け込んできました。そして、空っぽの器を見ると大声で泣き出しました。


「わあああーん、お父様が、さくらんぼをみんな食べちゃった!」


 王様はうろたえました。このさくらんぼは、お姫様のおやつだったのでしょうか?


 お姫様を追いかけてきた召使いが、器を見て真っ青になり、王様に謝りました。


「申し訳ございません、お姫様のおやつを、間違えて王様のお部屋に運んでしまいました」


 泣きじゃくるお姫様のそばで、召使いもわんわんと泣きだしました。とんでもない失敗をして、首をはねられたらどうしようと怖くてたまらなくなったのです。そんなかわいそうな二人を見ていると、なんだか王様も泣きたくなってしまいました。


 王様はお部屋を出て、宝物倉ほうもつぐらに走りました。そして、ありったけのルビーをかき集め、さくらんぼが入っていたのと同じ白磁の鉢に盛り上げます。


 お部屋に戻り、王様はお姫様に言いました。

「姫や、泣き止んでおくれ。さくらんぼは食べてしまったが、これでどうかな」


 お姫様は、鉢いっぱいのルビーを見て、また泣きました。ルビーがいかにきらきらと美しく、あざやかに輝いていようと、お姫様が今ほしいのはさくらんぼだけだったのです。


「さくらんぼ、さくらんぼが食べたいよう」


 王様は、しょんぼりと肩を落とし、ルビーの鉢を持ってお部屋を出ていきました。


 それから、お城を出て、さくらんぼの果樹園に向かいました。さくらんぼを分けてもらおうと思ったのです。


 けれど、果樹園のさくらんぼは、もうみんな収穫してしまった後でした。籠いっぱい、たくさんの袋にいっぱいのさくらんぼは、これから国中の人々に届けられるのです。


 まだ果樹園に残っているさくらんぼもあるにはありましたが、それは果樹園で働いている人たちの分でした。彼らも、このおいしいくだものを食べることを、一年の間それはそれは楽しみにしていたのです。


「お姫様に、分けてあげたいところですが……」


 親切な果樹園の人々は、やってきた王様にそう言いかけました。けれど王様は、首を振りました。


「いいのだ。皆が食べる分を奪うわけにはいかない」


 王様がとぼとぼとお城に帰りかけた時、誰かが王様の肩をとんとんと叩きました。


 振り向くと、よく日焼けした、すり傷だらけの少年がにこにこ笑っています。


「王様、まださくらんぼは残っていますよ」

「なに? 本当かね」


 少年は、頭上高く指さしました。

「さくらの木の、一番高いところです。だれもそこまで登ることができないから、まだたくさんさくらんぼがあります。後で僕が挑戦しようと思ってたけど、王様にゆずってあげる」

「ありがとう!」

 王様は、少年の手を握りました。そして、立派な上着をさっとぬいで、袖をまくり、木に飛びかかりました。


 どしん! 王様は、木から落ちて(というか、はね返されて)尻もちをつきました。少年が笑います。


「王様、木登りには、こつがあるのですよ。ほら、目の前の太い枝をぎゅっとつかんで、下の方の枝に足をかけてください。それから、腕でぐっと体を持ち上げるんです」

 少年に教えてもらいながら、王様は木を登りました。子どもたちが寄ってきて、周りの木で実演してくれます。それを見て、王様も足と手を踏ん張りました。


 何度も、王様は地面に落ちてしまいました。かなり高いところまで来て、枝が不吉な音をたてたこともありました。それでも王様は、一歩ずつ高い枝に移っていき、とうとうさくらんぼがたわわに実る枝にたどり着きました。


 見守る子どもたちが、わっと歓声を上げます。王様がさくらんぼを一つ一つとって投げると、彼らは籠で受け止めてくれました。


 だいたい取り終えると、王様はそろりそろりと慎重に降りてきました。

「地面に降りるまで、油断しないでね。あと少しって時が一番危ないんだから」

 あの少年が、そう忠告しました。王様は、緩みかけていた気持ちをぐっと引き締め、地面に足を下ろします。


 ようやく降り立った時、王様は安心のあまり地面にへたり込みました。少年たちが集まってきて、籠いっぱいのさくらんぼを見せてくれました。


 王様は、少年たちに言いました。

「もらうのは、鉢いっぱいで十分だ。あとは、皆で分けておくれ」

 そして、今日のお礼に、持っていたルビーを一つずつ、少年たちに贈りました。

 

 お城にもどってきた王様は、まだべそをかいていたお姫様を見つけ、さくらんぼがこんもりと入った鉢を差し出しました。

「姫や、さくらんぼだよ」


 本物のさくらんぼを見たお姫様の顔は、みるみるうちに明るく輝きます。

「わーい、ありがとう、お父様!」

 王様はほっとして、姫にキスをしました。そして、おどおどしている召使いにも笑いかけ、さくらんぼを一つこっそりあげました。


 お姫様は、さくらんぼを早速食べようとしましたが、ふと一粒のさくらんぼをつまみ、王様に差し出します。


「お父様、あげる」


 王様はうれしくなりましたが、やさしく首を振りました。

「余はもうたくさん食べたから、これは姫がお食べ」

 そして、真っ赤でつやつやしたさくらんぼを、お姫様の口に入れてあげました。 


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― 新着の感想 ―
王様が家来の首を刎ねるような性格でなくみんなを大切にする人だから、高いところにあるさくらんぼのことを教えてもらえたのかも知れませんね。 さくらんぼ、お姫様が食べられて良かったです! 王様が収穫したさく…
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