不空廃墟(ふくうはいきょ) その2~異変~
その後、絹子、芙空子ともに音信不通の状態が続き、針男とも何となく気まずくて疎遠になった。
半年後には高校を卒業し、オレは地元を離れ、大学やバイトで忙しい日々を過ごすうちに、頭の片隅では気にしながらも、このことは忘れつつあった。
さらに三年の月日がたち、地元に帰った際、飯を食いながら母親に何気なく高校時代の友人たちの近況をたずねてみると
「針男くんはF県の大学に進んだのは知ってるでしょ?」
さすがにそれは知ってるのでウンと頷く。
「芙空子ちゃんと絹子ちゃんのね、変な噂を聞いたの。あんた、二人と仲が良かったでしょ?」
「どんな噂?」
「あんたが、家を出て一年目の夏にね、二人とも同じぐらいの時期にね、出産したらしいの!」
突然の思いもよらない報告に驚きすぎて唖然として
「は?!マジ?
二人とも結婚してたの?」
母親はウウンと首を横に振り眉をひそめ
「父親は誰だかもはっきりしないし、それよりも、その、生まれた子がね、正常じゃなくてね、産んだ絹子ちゃんも精神を病んでしまって、どこかの病院に入院してるらしいの。
絹子ちゃんのご家族も落ち込んでるらしくて、奧さんも引きこもり状態でね、ほとんど外出してないみたい。
芙空子ちゃんの産んだ子もちょっと普通じゃなかったって聞いてるわ。」
家の中なのに、内緒話でもするかのように声をおとした。
絹子と芙空子の近況に驚きすぎてジッとしていられず、二人と仲が良かった女子にメッセージを送った。
『久しぶり!
突然で悪い!
ビックリしたんだけど、絹子と芙空子が同じ時期に出産したってホント?』
すぐに返事が来た。
『そうそう!
でもあんまりいい話じゃないの。
そこの病院の看護師に友達がいるって子が言ってたんだけどね、絹子の産んだ子がね、その・・・奇形?で、目が三つあったとか、手が四本あったとか。
芙空子の産んだ子は長い尻尾が生えてたとか。
あくまで噂だけどね?
ホントかどうかは知らない。
でも二人とも高3の夏休み以降、学校に来なかったでしょ?
夏休みに何かあったんじゃないかってもっぱらの噂なの!
あなたたち四人で仲がよかったから何か知ってるんじゃないの?』
文字のやり取りがめんどくさくなったので電話して、廃墟の病院に肝試しに出かけたことを伝えた。
「マジ?!怖っ!!呪いの病院っ?!
じゃあ、その廃病院で死んだ人の呪い?とか霊が乗り移ったとか?
それとも、その強い光が宇宙船で、宇宙人に誘拐されて変な物を埋め込まれて、二人の身体がおかしくなったの?
獣の唸り声?が聞こえたなら、隣が神社でしょ?!狐の霊?が憑りついて変な子が産まれたの?
あっ!SNSで絹子が、その後もその心霊スポットに行ったって書いてたでしょ?
猿の化け物か何か?に魔法とか妖術とか?かけられて操られて、頭がおかしくなってその猿の子をお腹に宿したとか?
やだぁ~~~~~っ!!
ゾッとする!
いっしょに行ったのよね?
あなたと針男の身体に異変は無いの?」
オレはいたって健康だと伝えて、まだ何か言いたそうだったが、やることがあるからと無理やり電話を切った。
ネットであの廃病院について調べることにした。
廃墟の看板にあった名前をググる。
『医学博士 益渡△△ 産婦人科』
検索にはSNSがヒットした。
アイコンはデフォルトの人影画像で、最近の投稿にある画像には、五・六十代ぐらいの白髪頭や禿げ頭のスーツ姿の男性たちの写真があった。
最近の投稿でも、五年前で、それ以降は更新されていなかった。
過去にさかのぼって投稿を読むと、ひとり息子の誕生日の話や、その息子の大学院卒業、博士号取得について、誇らしいとか感慨深いものがあるというようなことが書いてあった。
廃病院の院長だと思われる、益渡△△の投稿を一通り読んでも、五・六十代の産婦人科の医師であることは分かったが、五年前から投稿は途切れていて、現在の状況は分からない。
ひらめいて今度は
『益渡 博士』
と入れてググり、検索でヒットした、三十代後半から四十代ぐらいの男性のSNSをかたっぱしから調べた。
益渡△△の息子を探そうと思った。
興味を引かれ手をとめた投稿はひと月前のもので、そこには、
『喜ばしいことに、またひとり新しい家族を迎えた。
この世界を刷新する、人知を超えた存在になるだろう。
新しい世界と新しい秩序、その創造の旅は、まだまだ続く。』
とあった。
その男性の過去をさかのぼって投稿を読む。
面白かったアニメの話や、うまかった飯の話の合間に、研究の難しさについてボヤキのような投稿もある。
特に知りたいのは、三年半前の夏、あの肝試し付近の投稿だ。
しかし、絹子や芙空子に関係のありそうな投稿は特に無く、期待外れでがっかりした。
さらにさかのぼって読むと、五年ほど前からさかのぼって一年間ぐらいは雰囲気ががらりと変わっていた。
(その3へつづく)




