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『霧島志乃は音で愛を語る』  作者: 斎賀久遠
第一章:霧島志乃の日常
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第5話:「静寂のクラス委員会」

「それじゃあ、今日のHRも終わりに──」


その瞬間、教室中に響く甲高い声。


「はいはーい! 連絡事項はまだありますから! みんな静かにしてくださいね! 静かにっ!」


(……静かにしたいのはこっちなんだけど)


俺――佐々木空也は、耳を塞ぎたくなるのをぐっと堪えた。


横を見ると、霧島志乃が眉間にしわを寄せていた。


それでも白い肌にふわりとかかる黒髪が、今日もまぶしい。


彼女の視線は、騒がしいクラス委員のほうに鋭く突き刺さっている。



「ねえ、空也くん」


いつの間にか隣にいた志乃が、囁くような声で話しかけてきた。


「委員長、うるさいよね?」


「ああ、まだ新学期も始まったばかりで仮の委員長だし、張り切っちゃってるのかもな」


「空也くんが委員長だったら、絶対静かになると思うんだよね」


 


「なんで俺……?」


「空也くんの声、すごく落ち着くから」


「ねえ、クラス委員、やってみない?」


「絶対に嫌」

「じゃあ、やるね」


空也の意志は秒で無視された。


 


数日後、クラス委員を決める日がやってきた。


「前期のクラス委員を決めまーす! 立候補いませんか?」


シーン……。


霧島志乃がスッと手を挙げる。


大人しくしてくれたら間違いなく、学校カーストの頂点に君臨する容姿である。


「推薦します! 佐々木空也くん!」


(おい、やめろ! なんで俺なんだよ……)


ざわめく教室。

「え? あの佐々木?」


「委員長向きじゃなくない?」

担任も一瞬、変な顔をしたが──


「霧島さんが、副委員長やれるなら大丈夫かもね。どう?」


「やります! ね? 空也くん」


志乃が、にっこりと笑った。

天使のように。いや、たぶん“あえて”そう見せている。

挿絵(By みてみん)

無音圧の支配者は、可愛い顔して人の運命をひとつ握りつぶした。


(マジでかわいい……無理……勝てる気がしない)


笑顔の殺傷力が高すぎて、何も言えなかった。

言えたとしても、たぶん「はい……」とか言ってる。


(……俺、今“見た目で物言わされる現代人”ってやつだよな?)


あれよあれよという間に、クラス委員会は“静寂の二人”体制に刷新された。

異議申し立ては受け付けられず、全ては霧島志乃の予定通りに進行していた。


 


数日後、クラスの空気が変わっていた。

ざわつきのない朝、紙をめくる音、椅子を引く音、微かに聞こえる鳥の声――

まるで教室ごと図書館になったかのような静けさだった。


誰も文句を言わない。むしろ、無言のまま席につき、静かにプリントの準備をする生徒たち。

必要以上の言葉はいらない。今のクラスには、沈黙という名のルールがあった。


志乃はその空気を、まるで澄んだ空気を肺いっぱいに吸い込むように味わっていた。

完璧だった。世界がやっと音量を下げてくれたようだった。


  


「……じゃ、連絡事項。配布プリントは後ろに回してください」


新委員長である空也の低めの声が、教室に柔らかく響く。


「(いい……すごくいい……)」


隣で志乃は、うっとりした顔で空也の声に聞き入っている。


(……俺、これから毎朝“音フェチ副委員長”の監視下で過ごすのか?)


静かなHR、落ち着いた教室。

けれど志乃の音フェチだけは、日々強まる一方だった――。

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