第4話:「チャイムは君でできている」
放課後の教室。
誰もいなくなった空間に、乾いた風がすべり込む。
机をふく当番の手も止まるような沈黙の中、
俺は、志乃の不自然な“静けさ”に気づいた。
「なあ、志乃……なんか、今日のチャイム、変じゃなかったか?」
「え? そうかな。私には、すっごく……心地良かったけど?」
笑ってる。
音楽室の機材を盗んだ猫みたいな顔で、笑ってる。
昼休みのチャイム。
いつもは「キーンコーンカーンコーン」なのに、
今日は妙に優しく、丸みのある音だった。
しかも……どこか聞き覚えのある“リズム”。
──カリ、パタン、ふぅ。
(……これ、俺の音じゃねえか!?)
「志乃、お前……チャイム、いじった?」
「うん♡」
即答。
「何“うん♡”って!? いや、え、どこでどうやって?」
「放送室。ちょっと忍び込んで、音源を差し替えたの。
“標準チャイム.wav”ってファイルがあったから、“KuuyaRemix1.mp3”に変えたの」
「ファイル名が俺の名前でリミックスって書いてあるの怖すぎんだが!?
しかも形式違ってるし!」
「空也くんの音、もっと広い世界で響くべきだと思って」
(おいやめろ、その発言、洗脳の導入ナレーションでしかない)
「ちゃんと放送室の鍵は戻したし、校内システムには被害ないから大丈夫だよ。
むしろ、感謝されるべき。ね?」
「“ね?”じゃねぇよ、ね? じゃねぇよ!」
志乃は、校内チャイムすら
「個人的に気に入らないから自分好みにアレンジする系ヒロイン」になってしまった。
俺:「じゃあ今後ずっとあのチャイムが流れるのか……?」
志乃:「ううん、明日は別のバージョンにするよ。
次は、“空也くんの歩く音×カバン置く音”のミックス版にしてみようかなって♪」
「勘弁してくれ……全国で一番パーソナルなチャイム流れてるの俺の学校だろこれ……」
その日の帰り道。
俺のスマホには、志乃から音声ファイルが1通届いていた。
件名:NewSchoolBell_2025v2.mp3
本文:
“今日もいい音だったね。明日は、靴を脱ぐ音をお願い♡”
佐々木空也(16)、校内チャイムの公式音源に任命。
俺の音で、昼が始まり、授業が終わる。
学校の時間、俺ベースで運用中。