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『霧島志乃は音で愛を語る』  作者: 斎賀久遠
第一章:霧島志乃の日常
3/22

第2話:「ティッシュと朝の女王」

朝。


春の風にカーテンが揺れるような、なんてことない時間だった。


だけど俺は、足を止めた。


校門前が、妙にざわついていた。


騒がしいんじゃない。不自然に“騒ぎを抑えた空気”が漂ってた。


集団ヒソヒソ。視線が一点に集中してる。


視線の先には――


霧島志乃。


ジャージ姿。


学校指定の、くたっとしたダサいジャージ。


それを着て、校門に、立っていた。


笑顔で。


無表情より怖い、爽やかすぎる笑顔で。


彼女は、通学中の生徒たちに向けて、謎の広告付きのティッシュを差し出していた。


「おはようございます、 今日の湿度は72パーセントです」


「ティッシュどうぞ〜、 裏に“音のメモ”つけてます」


は? 音の……メモ?


お前それもう配布物というより怪文書だろ。


俺は自然と歩幅を速めた。


これは関わっちゃいけないやつ。地雷。むしろ空爆。


視線合わせたら最後。


今の霧島志乃は、爆心地そのものだ。


けど、関わらなかった。


関わらなかったのに――


「空也くん!」


俺の名を、彼女は教会の鐘のような声で呼んだ。


その瞬間、周囲の生徒たちが一斉に俺を見た。


俺、霧島、校門、朝、ジャージ、ティッシュ。


終わった。


「今日のティッシュは“サウンドテーマ:春”だよ」

挿絵(By みてみん)


もう意味がわからない。


テーマで渡されても困るし、なにより校門でサウンドテーマつけんな。


拒否しようとしたその時――


ポスッ。


ティッシュが、俺の胸に狙ったかのようにヒットした。


霧島しののコントロール力、無駄に高い。ていうか当てんな。


「じゃ、今日も一緒に教室行こっか」


いや、行こっか、じゃねぇよ!?


俺は声も出せず固まってたが――そこに、最悪の“追加イベント”が発生した。


「おはよう。霧島さん?」


低めの声。


ちょっと鼻にかかった甘さ。


生徒たちの中から一歩前に出たのは――


神城レン。


学校イチのイケメン。


立ってるだけで女子の体温が上がるやつ。


髪も制服もキマりすぎて、もうアニメから出てきたのか?ってレベルの存在感。


「霧島さん、朝から元気だね。俺にもティッシュ、くれる?」


にこやか。声も優しい。完璧すぎて漫画の実写化。


だが、霧島しのは――


完全に無視した。


目も向けない。


声も返さない。


ティッシュも出さない。


無表情のまま、


俺の腕を、そっと取って。


「空也くん、行こ?」


え? は? ちょ、え???


お前、神城無視して俺!?


人類の選択ミスってない!?!?


女子:「ねぇ今の見た!?レンくん、完全スルーだよ!?霧島やば……」


男子:「え?お前なにしたの?なんで霧島さんに引っ張られてんの?」


レン:「……いや、俺、今スルーされた?マジで?」


そんな空気を背中に感じながら、


俺は霧島に連行される形で、靴音を響かせて教室へ向かった。


――昼休み。


机の上に、霧島が置いていったティッシュの裏を見た。


《今朝の“登校音”、とっても落ち着いてた。


ティッシュもらってくれてありがとう。


君の生活音が、私の朝ごはんなんだよ》


…いや、意味がわからん。


なんで俺、音を摂取されてんの?


佐々木空也、16歳。


今、俺の存在は**“生活音系ヒロイン”の主食ポジション**になっていた。

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