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『霧島志乃は音で愛を語る』  作者: 斎賀久遠
第二章:魔女の日常
22/22

第二十一話:「デート(※ただし作戦会議)」

夏休み。

駅前の大通りは、照り返しでクラクラするほど暑かった。


「空也ー! こっちこっち!」


人混みの中で、手を高く振る明美がいた。

白いワンピースに麦わら帽子。

ちょっと小麦色の肌に、白い歯がよく映える。

挿絵(By みてみん)

「お、おう!」

俺は思わず手を振り返して、走り寄った。


「ごめんね、待った?」

「いや、全然!」

「良かったー。じゃあ行こっか!」


その笑顔は、太陽みたいに眩しかった。


待ち合わせからずっと、明美は明るかった。

観光地みたいな駅前商店街を、きゃっきゃと笑いながら覗き込む。


「見てこれー! 超可愛い雑貨!」

「え、あ、可愛いね!」

「ねー空也もなんか買いなよー。お揃いとか(笑)」

「……お、お揃い!?」


俺は内心、変な声を上げそうになるのを必死でこらえた。


(……やばい、これ、マジでデートだろ……)

(やばいやばいやばい)


頭の中は恋愛シミュレーションゲームのBGM状態だった。


途中で寄ったカフェでも、明美はずっと喋ってた。

店員にやたらフレンドリーに話しかけたり、写真撮ろうとスマホを向けてきたり。


「はい、空也笑ってー!」

「え、ちょ、待っ──」

「いーじゃん、今日の思い出だよ!」

「……マジかよ」


俺は変な顔のままシャッターを切られたけど、明美は満足そうに笑った。

その笑顔を見るたび、心臓が変な動きをした。


(これ、本当に……俺、モテてるんじゃないか?)

(人生で初めて……デート……)


頭の中がずっとお祭り騒ぎだった。

志乃のことは、意図的に思い出さないようにした。


夕方、駅前のファミレス。

ちょっと歩き疲れて、涼しい店内に座る。


ボックス席で向かい合った明美は、いつもよりちょっとだけ黙ってた。

ドリンクバーで取ってきたメロンソーダの氷をストローでカラカラ回す。


「……ねぇ、空也」


その声は、今日一番落ち着いたトーンだった。

俺は気圧されるように、背筋を伸ばした。


「な、なに?」


「今日、誘ったの……遊びたかっただけじゃなくてさ」

「……え?」


「……ちょっと、相談したいことがあったんだ」


明美は小さく笑ったけど、目は笑っていなかった。


「……霧島さんのこと、だよ」


空気が、急に重くなった気がした。

ファミレスの喧騒も遠く感じる。


「志乃……?」


「……空也、最近よく話してるよね」

「う、うん……まぁ、最近は……」

「普通に話せる、の?」

「……え?」


明美は息を整えるように、一度だけ目を伏せた。

それから、絞り出すように言った。


「私、霧島さん……怖いんだ」


「この間さ……神城くんのこと、知ってるよね?

 明るくて人気者だったのに、最近ずっと無口になっちゃって。

 声が、出ないみたいに……」


「……え」


「クラスじゃ“体調不良”ってことになってるけど……。

 私、志乃さんが何かしたんじゃないかって思ってる」


俺は冷たい水を飲もうとしたけど、喉がカラカラで飲み込めなかった。


「……だって、私も少しだけ……変なこと、あったから」


「前に、志乃さんと二人で話してたとき……

 周りの音が全部、消えたの」


「……消えた?」


「人の声も、車も風も……私たちの声だけがやけに大きくて。

 私、すごく怖くなって。

 そしたら霧島さん、ニコって笑ってさ……

 “静かだと、よく聞こえるでしょ”って」


俺は何も言えなかった。

心臓が、すごい勢いで脈打ってた。


「空也も、夏休みに一緒に旅行に行くでしょ。

 そこで……ちゃんと確かめたいの。

 本当に霧島さんが危ない人なら、止めたい。

 ……お願い、協力してくれない?」


明美は、両手でコップを包むように握っていた。

その指が、かすかに震えていた。


俺は喉が張り付いて、言葉が出なかった。

さっきまで“デートだ!”と舞い上がっていた自分が、信じられなかった。


「……わ、わかった。俺も……考える」


そう言った瞬間──


スマホが震えた。


ポン、と軽い通知音。

無意識に取り出して画面を見た俺は、息が止まった。


《霧島志乃》


そして、メッセージは一行。


《どこにいるの? 私もソフトクリーム食べたいな》


手が滑ってスマホを落としそうになった。

それを見た明美が顔を曇らせる。


「……空也、どうしたの?」


「……これ、志乃から」


画面を差し出すと、明美の顔から血の気が引いた。


さっきまでの明るさが、全部消えた。


俺は慌てて周りを見回す。

ファミレスの賑やかな音が、妙に耳障りだった。

でもその音さえ、いつ途切れるか分からない。


胸が締め付けられるように、嫌な予感がした。


(……聞かれてる)


(どこにいるのかも、何を話してるのかも……全部──)


息をするのも怖かった。


明美は震えた声で、か細く囁いた。


「……空也、やっぱり、霧島さん……」


俺は言葉を探したけど、何も言えなかった。


そのタイミングで、スマホがぶるっと震えた。


画面を覗くと、一行だけ。


《もうすぐ着くよ。隣、ちゃんと空けておいてね》


空気が一気に凍りついた。


明美は言葉を失ったまま、真っ青な顔で俺を見つめていた。

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