マフラーもってけ
紅葉は、ベッドの上で、何もすることが無いと。いってごろごろしていた。今日、こんなにも寝坊したことを振り替えてみようとしたが、持ち前(?)の記憶力の無さで全然覚えていなかった。
「ま、どうでもいっか(笑)」
紅葉は枕を抱いてもう一度寝た。
が、すでに熟睡してしまっていて。寝ように眠れない状態であることに気付き、
「んだめだぁ、寝すぎて。ねむれねぇ。」
仕方なく、ベッドから起きた。
もう、冬も迎えた昼過ぎは、夏のような炎天下のようなものではなく、サンサンとした、太陽が気持ちよく感じられるほど。若干寒いであろう予感をしていた紅葉だったが、思い切って空気の入れ替えをすることにした。
窓の取っ手に手を伸ばす。---冷たい。
予想の範囲内。けど、やっぱり冷たい。
これはもしや、外はきっと、自分が想像しているよりもずっと寒いのではないのだろうかという思いが横切ったが。このけだるさを吹き飛ばすのも兼ね、思い切って窓バッと窓を。
ビュウッ!
「さ、さみいいいいいいいいいいいいい!!!」
半場絶叫、一時的にご近所の視線が気になります。
無意味にそわそわしていることに気付いた紅葉は、開いた口を閉じた。
「暇だ。どうしよう」
まだ自分のぬくもりを感じられる、ベッドに再び突っ伏し。
「今日も、平和だなー!」
紅葉は、何も知らない無邪気な子供のような表情で、上を向いた。
ん?そういえばやけに寒いよね僕の部屋。
―――あ、ドア。
***
―――一方。学校では。
(……うーん、紅葉さん今日来なかったなぁ……)
ここは、高校の屋上。
黄昏し、少女A―――仮に名前を藤戸薫。ということにしておこう。
昼下がり、6時限目とLHRをつなぐ、休み時間(なぜそんなところに休み時間があるかは知らない。)あと数十分で、4時も過ぎる頃。夕焼けに照らされた薫は火照って見えるその頬を、転落防止の柵に肘を置きながら、小さな掌で支えていた。
一度、大きく息を吸い、そのあと、大きく息を吐き出した。
「ハァ……」
悩める少女は、そのため息のせいで一時的に老けて見えた。
「あれから……話もしてないし、目も合わせてないっていうか……」
前々の陰鬱さはなくなったっポイねこの人。時間帯で、人柄が変わる人なのかな。
「明日は…来るかな…紅葉さん……私のこと……思い出して……くれるかな。ハァ」
思いはせる少女は、また、ため息をして下の階へと向かった。
「はい、遅刻」
教室に入って言われたこれが第一声。息を切らして肩を弾ませている少女。
顔を上げるとニヤニヤ顔の人物が見下ろしていた。
「藤戸さん、また屋上ですかぁ?これで何度目ですかぁ?屋上は上がっちゃいけないんですよ?」
若干サド口調で、語尾がウザったいこの人は薫の担任「富武」
ステータス:女教師 普通乳 非眼鏡 若干お嬢様気取り 目つきが少し悪くその態度も重なって、黒い噂があるとの噂。生徒のみんなから毒ダケと呼ばれている。理由は先ほどの通り。
「す、すみません……毒……じゃなくて、富武先生。」
「え?毒?え?毒えぇ?」
「な、何にもないです。気にしないでください。」
「いやいや、おかしいでしょ、毒ってなんだよどくって!」
「あ、えーと。すみませんでした。」
「……ま、まぁいいわまた今度にしましょうほかの生徒の視線がしたいですしね。いいですね?今後は遅刻することはないように!」
「………はい」
(……帰りの学活だし、別にいなくたっていいんじゃないか……)
などと、まったく心の中では反省の意を示していなかった薫だったが、表情だけは「本当に反省してます。」と、上目使いバリバリぶりっこ。隠し通せるのがすごい。(自分はそんなつもりはない。)
「はい、では、先ほどの話の続きをします。明日は、―――――」
(くだらない…。学校なんてつまんないよ。紅葉さん……明日は来てほしいな。)
若干先ほどの火照りの余韻を残しているその頬にまた掌を添えて、グダーっと、毒ダケの話を聞く薫だった。
長すぎる先生のHR、まさにLHR。ついさっきまで、3時過ぎだったはずなのに、もう4時を過ぎてしまっていた。
日はだいぶ落ちてしまい、あたりはもう薄暗くなっていた。
「ねーねー今日、どこかへ寄って帰る?」
今話しかけてきたのは、薫のお友達、園崎歌奈。(ソノザキ カナ)いわゆるマブダチの位置づけにいるのだろう。
「ん?あぁ、ごめんね今日はちょっと家で用事があるんだぁ。マジごめんちゃ☆」
「くっ、くぁいいから許すぜ……」
「じゃぁ、明日はどっかいこうね♪」
ばいばーいと手をフリフリ可愛らしくぶんぶん腕を振り、「今日はさようなら」な合図を体全体でかもしだして、先に帰っていく。
置き去りの園崎は、まだ終わっていなかった仕度を終え、放課後の暇な時間をゲーセンでつぶすことにした。
「うし、今日はやるぜ、超やるぜ新作アーケード、『鉄骨5』まずは腕試しに、百円でどこまでいけるか挑戦だ!」
固い決意をバッグの持つ部分をギュッと握ることで表し、階段をダダッと駆け下りていった。
「紅葉さん……」
一人寂しい家路は(自分からそうしたのだが)、独り言の遊び場。
空を、怪しい目つきで見上げて、薫は、
「明日はきますように…」
願い事をした。