注意事項1 前を向いて歩こう
なんだったんだろう、あの取扱注意の札を背中にはりつけた少女は・・・いや、うちの制服か。うん、あの背丈、見た目で高一なのか・・・ふーん。可愛いじゃないか
少女は明るくニコッとこちらに笑いかけ、背中にはりつけた「割れ物取扱注意」の札を揺らしながら走っていく
***
「ふぁー」
退屈だな、と言わんばかりの大きなあくびをして、これまた大きな伸びをした。3に針を合した、教室には場違い過ぎる大きくて、装飾の凝った時計が「ゴーン」とこれまた場違いな音を放つ。
面倒なホームルームを寝て過ごし、帰宅の準備を済ませてサッサと廊下に出ていき、ズサズサと足をすりながら、階段をだるーく下りていく、途中つまずきそうになった。
ガチャとドアノブをひねってとっとと帰ろうと思ったが、靴を替えるのを忘れていた。
靴を履き替えて、めんどくさそうに半開きになったドアをデコで押す。ズリズリと髪の毛が引っ掛かっていくがそんなことは気にしなかった。
誰も隣に居ない。まぁいつもと同じことだから慣れた。
寒くなっていく10月の3時過ぎの今日の空は鈍い鼠色、ちょっとそこらの自販でコーヒーをかい、近くの公園のベンチにどっかり座り、コーヒーを一口飲んだ・・・あ、これブラックだ。口全体に苦い液体が広がる、少しうっとなったが買ったものはしょうがない、ちゃんと飲む。
無駄にだだっ広い、この公園。今座ってるのベンチのすぐ横にあるごみ箱にわざわざ少し遠くまで行きポイとフリースローの真似をしてみる。ガ、入った。
小さく「うし」とガッツポーズをとり、公園から出ていく。
帰り道の大通り、何時もなら車が行きかうけど、今日は一台もない。
寂し過ぎる大通り、ま、そんなこと思わないけど。鈍い色した鼠色の空は、鈍い色の灰いろに変った。
そう思っているうちに、家に着いた。まぁ今の時間帯は誰もいないんだけどね。けど一様「ただいま」ぼそりとつぶやいとく。
「ねむい」さっきまで眠ってたけど。もう1回寝よう
***
ねぇ、おきて。
真っ暗な視界から僕の耳に届くか細い声。
その小く反響する声を頼りに、少しずつ、一歩一歩、ゆっくりと。声との距離が近くなっていく。
――突然、声が途切れた。
何故かはわからない。僕は酷く悲しみを覚えた。
それを感情として理解する前に僕は叫んでいた「――行かないで!!――僕を独りにしないで!!」
第三人称視点で泣き崩れる僕が、僕の瞳に映った。
***
「っん・・・」
なんか変な夢見たな・・・。そう思ってるうちにほとんど、奇声じみた叫び声が耳を襲った
「紅葉!!――ご飯ーーー!!!!!」
うるさい、聞こえてるっつの。
「あ、今うるさいって思ったでしょ!!?思ったでしょ!!?」
今、人の部屋を無断+ドアに蹴りを入れて。入ってきたのはうちの元気過ぎる「馬鹿妹」ドア・・・戻すの面倒だな・・・。
「早く来ないと晩御飯な抜きだからね!!」
また耳が痛くなるほどの奇声じみた声が耳を劈く。もう耳がキーンってなってる
僕は耳を弄りながら階段を一段飛ばしで降りて行き最後の二段を特に理由はないがぴょんと飛んだ。が、着地に失敗足を挫いた。あんまし痛く――痛かった
「ホントお兄ちゃん馬鹿だよね。」
薄く蔑むちょい痛いものを見るような眼で俺を目線で罵倒した。突っ込むと逆にたたかれるので止めておいた。
さてさて今日の晩御飯は何だろうか、鼻をクンクンひくつかせてみたが結構おいしそうな匂いが鼻を刺激した。
「今日わね!ハンバーグ作ったんだ」
先ほどとは打って変わって、天使のような笑顔を見せていた。・・・だが残念なことに僕には向けていない。どうやら今日は親が居ないことをいいことに、彼氏さんを連れてきたようだ。このリア充め!!!・・・
「あ、今リア充が!!とかって思ったでしょ!!でしょ!!」
うるさい。
「あ、こんばんわんわ!!紅葉さんお邪魔してます、あのー小百合が食べていけっていうから来たんですけど迷惑じゃないですか?」
すっごく迷惑!!・・・と言いたいとこだが。普通ならね。けど生憎こんな妹でも一様自分の妹だからね。
「いや、大丈夫だよ、純人そんなこと言うと逆に小百合に怒られるよ?」
少し優しめの言葉を振ってやった。
「すみません(照れ」
ちょっと可愛い。とか思ってみたりした
「ねー紅葉?、可愛い妹の為にならアッチで食べてくれるよね?」
だったらここに呼ぶなよ・・・
「あー!!今、呼ぶなよとか思ったでしょ!!」
面倒なので適当にあしらって、自分でご飯を盛り、ハンバーグを3つほどご飯の上に置いてリビングへと向かった。おっと箸忘れた。
「おぉー!!うめー!!」
叫んだのは、純人。そうかそうか。うまいか。うしじゃ俺も一口
「ぬおぉ!!うめぇえ!!」
うまい、コイツの作る料理は何時も絶品だからな・・・お母さんよりもうまい。はっきり言って。
「でしょー!!?」と奇声じみた甲高い声で小百合が叫ぶ。
たらふく食って、水を一杯飲んで、キッチンへと足を運んだ。
「いやー何時たべても小百合の料理は上手いよなー。誰に教わってんだ?」
僕だよ。僕
「えーとね、イタリアの知人のマルコ・ポーロニさん!!」
コイツ大嘘吐きやがった。
「僕だよ、コイツに料理教えたの」
そういうと何故か小百合はこっちを少しにらんだ
「そうなのか?」
純人は尋ねる
「・・・うん、まぁそう」
「へー!!凄いじゃんか!!小百合はいいなこんな良いお兄ちゃんが居て!!」
まぁな、そうだろ。うんそうだろ。
「別に・・・」
冷たく、素っ気無く言われて、若干傷ついた。
「紅葉!!、今度ケーキ教えて・・・!!」
ビシッ、とこちらを人差し指で差して奇声じみた声でまた叫ぶ・・・良くこいつといて壊れないもんだ・・・僕の耳は
「あぁ、いいよ」
「ありがとうお兄ちゃん!!」
時折聞くこの「お兄ちゃん」という呼び方妙に優しくて、言われ慣れない、呼び方の為に若干嬉しくて頬が赤らんだ。これがあるからコイツを嫌いになれない。
―――「あ、じゃ僕もう帰りますね」
純人は、帰ろうとしたが、何故か俺が引き留めた
「まぁ、泊まっていきなよ」
「良いんですか?」
「明日の夜まで、親、旅行で居ないし。ほら明日土曜日だし。遠慮しないで」
意外な行動に小百合は頬を赤くしていた。
「あ、もちろん3人で寝るけどな」
「い、いいもん、3人でも!!」
緊張しすぎているのか、声が引き攣っている。つくづく可愛い妹だ。
と言うことで、純人は泊まることになった。
パジャマを貸してやり僕と純人が一緒にお風呂に入ることになった。先に湯船につかる。
シャワーを浴びる純人に声をかけた。
「なぁ、純人、小百合の事大事にしろよ?」
「え?は、はい!!もちろんです」
良い反応だ。ありふれた会話をしながら
風呂を上がった。身体が温まったせいか眠くなったので、リビングに布団を敷いて枕を3つ、紙に名前を書いて枕にはりつけた左から順に僕、小百合、純人、だ。
流石に真ん中に行こうかと思ったが、こんな近くで変なことはしないだろう(考え過ぎじゃないか?
掛け布団を、かけて先に寝た
***
――ねぇ、―――私をここから連れ出して―――
私に優しくして―――独りにしたりしないで―――
か細い声が聞こえる、今度は前よりはっきり聞こえる。
その声を頼りに、少しだけ早歩きをした
徐々に声は大きくなっていき、より鮮明になる
ねぇ、私を助けて、私を独りにしないで
私をここから連れ出して、私に優しくして。
独りにしないで、私を――愛して――――
すすり泣くような声が鼓膜を震わす。
スピードを上げて、駆け寄る、ふっ声が止んだ。
――す―――た――――た――だ
また泣き叫ぶ僕を僕が見ている
***
また夢か・・・最近よく見るようになった。この夢は何だろう。まぁどうでもいいか。
隣を見ると小百合が居なくなっていた、純人がスースーと寝息を立てて眠っている。本当に可愛いな。
チュー、シュッシュ、ジュー
どうやら、小百合は朝ごはんを作っているよようだ
時計を見ると・・・長い針が12、短い針が8を差していた
「あぁ!!やばい学校遅れる!!」
今日は土曜日なのだが、実は今日は文化祭なのだ。まぁ1時から始まるのだが色々と準備があるため、さっと着替えた。小百合はそれを察知していたかのようにちょっとおきめのおにぎりを僕に渡す、「行ってらっしゃい!!」
優しい声が僕の鼓膜を撫でる
「あぁ、行ってくる」
「あ、お兄ちゃん、ギター忘れてる」
「悪いな」
はい、よ。ギターを背中に掛けられてドアを押した。僕はおにぎりをかじりながら、眩しいそらの太陽を少し見上げて、学校へと歩き出した。
―――あ、ドア直すの忘れた。
文化祭当日