落城
本陣に戻る馬車の横を鎧を身に付けていない兵士の早馬が通った。
あれは前線から来た伝達兵だと分かった。
可能性として考えられる事は城壁を落とされた為に戦わずして、降伏を行ったのだろう。
それにしても、城壁を落とされたくらいで降伏するには早すぎる。
壊れた城門の瓦礫の中に人らしき影はなかったから戦う前に降伏は決っていた感じがしてならなかった。
「戦いが終わったな。
アルト、ゆっくりしよう」
馬車の横を馬で並走しているハアルス卿の顔が少し優しくなった。
フードを動かして顔を見せるアルトは嬉しそうにハアルス卿を見ている。
「ハアルス様、お家に帰れるでしょうか?」
フードから覗くアルトの顔はまだ子供だった。
「デリルアデ共和国との戦いが終わった訳じゃないから帰れないけど、移動続きでテント暮らしだったからきちんとした部屋で寝れる手配はしておく。
それと時間があれば、勉強と剣術の練習をしないとな」
アルトは頷くとフードを深く被った。
この戦争は開戦から2年が過ぎている。
我々が暮らしているパトアリア王国にデリルアデ共和国が軍を動かして、石龍の遺体を奪おうとした事が始めだった。
デリルアデ共和国に石龍が山から下りてきて、その巨大な身体と旺盛な食欲で畑や村、街を破壊しながら移動をした。
この地域はデリルアデ共和国の首都から離れている事と元は戦争の降伏で共和国入りした小国だった為に主要な兵を送らずに石龍が山に帰るまで防衛戦術をとった。
しかし、石龍はパトアリア王国に向かって進路を変えると自国の被害を最小限に抑えるために領土内へ侵入した石龍を待機していた五英雄の2名の騎士団で討伐した。
デリルアデ共和国は石龍が領土内に残存している状態で攻撃を仕掛けたと主張し、石龍の遺体の引き渡しと侵略行為の賠償を求めてきた。
パトアリア王国は石龍が領土内に入っており、遺体も領土内に在ると主張した。
侵略行為も石龍の討伐は自国の平和の為であり、デリルアデ共和国の村や街、兵に攻撃を行なっていない事は明白であるとした。
聞く耳を持たないデリルアデ共和国は石龍の遺体を奪い返す為に軍を動かし、パトアリア王国が対抗した事により戦争に発展した。
戦争が始まるとアンテム帝国がデリルアデ共和国に協力の意向を表明した為に戦争が拡大し、長引いている。
ハアルス卿は本陣に着くと騎士達が剣を胸元に掲げて待っている。
敬意と尊敬を表す時に行う行動の1つだった。
天幕の中で騎士が数名座っており、セルアト将軍が一番奥で上機嫌に勝利の歌を歌っている。
セルアト将軍はハアルス卿に近くの席へ座るように促した。
どの戦場でも立体魔法を使用した後は同じ反応だった。
「ハアルス卿、この度の活躍は称賛に値する。
王家の血を引く者は優秀ですな」
セルアト将軍の言葉に悪意がないのが分かっていても心に残り続ける。
先祖が1回交わった王家の血が王家の責任と義務を与え、ハアルス一族を縛り付けている。
父と兄を見ているから逃れられない事も分かっているし、受け入れる事で生かされている自分を知っていた。