表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

戦争開始

 朝日が出ているのに薄暗く、雨が降りしきっていた。


 馬に乗って、白旗を持った兵が城門に駆け寄った。

 城門近くで白旗を振った。


「最終警告を行う。

 城門を開け、降伏を願う。

 降伏を行えば、攻撃の意思はない」


 城門内から反応はなく、兵士が動く音すら雨音でかき消されている。


 3日前の降伏勧告からトトラ城門のデリルアデ共和国の国旗の横に赤旗が掲げられている。

 赤旗は戦いの意思表示であり、城門は固く閉ざされたままだった。

 1時間は待ったが城門が開かず、濡れた赤旗が風でなびいている。

 降伏の意思がない事を確認した兵士は部隊へ馬を走らせる。


「降伏の確認出来ず。


 セルアト将軍に伝達、トトラ城は降伏の意思なし。

 トトラ城は降伏の意思なし」


 兵士の声は天幕内にいる鎧を身にまとった騎士達にも聞こえている。

 皆が初老の騎士を見ている。


「トトラ城は降伏の意思なしとして、攻撃を始めます。

 各部隊は配置について、ハアルス卿の立体魔法攻撃まで待機する。

 立体魔法の攻撃後に一斉攻撃を行う。


 ハアルス卿、準備をお願いします」


 入口の近くにいる騎士が黄金の大鷲の飾りが付いた剣を持ち上げると出て行った。

 入口の近くに薄汚れたローブを着て、顔を隠している少年が騎士の後を着いて歩く。


「アルトよ。

 無駄な戦争が始まる」



 城門から続く街道に待機をしている部隊にハアルス卿が到着する。


「降伏の意思なしとして、攻撃を開始します。

 立体魔法で城門の破し、他の部隊が一斉攻撃に移ります。


 立体魔法完成まで騎士隊は周辺の警戒態勢を魔法師隊は対魔法結界の展開を行う。


 多重魔法を展開後に立体魔法に組み立て、発動を行う。

 立体魔法の組み立て開始後は城門側の騎士と魔法師は退去して、魔法の発射進路の確保を行う」


 話が終わると騎士は散々となり、 魔法師はハアルス卿を囲んだ。

 魔法師は両手を組んで祈る態勢を取ると呪文の詠唱を始め、空気の層が出来た様に景色が揺らいでいる。

 ハアルス卿の後ろにアルトが立つ。


「アルト、魔力供給を開始してくれ」


 アルトは左手でハアルス卿の背中に触れ、触れた部分が光り出す。

 光りは背中全体に広がったままで止まった。

 それを察したハアルス卿は剣を抜き、地面に刺した。


「"女神の宝石箱"のスキルを使い、魔法石を取り出します」


 ハアルス卿の前に紫色の箱が現れ、箱を開いた。

 箱の中から宝石が飛び出し、宝石は空中に浮かんでいる。


「緑陽の森 銀糸の風

 群れ遊ぶ風の精霊達よ。

 宝石を持ちて、定めし理を示せ」


 優しい風が吹き始めると宝石が城門に向かって、一礼に並んだ。


「女神の宝石に刻まれし、記憶を解き放ち

 真なる形に戻りたまえ」


 赤い宝石は白線の魔法陣と変わった。

 次に青い宝石、緑の宝石と花が咲くように魔法陣に変わった。

 そして、全ての宝石が魔法陣へと変わった。


「魔力充填を行う」


 手前の魔法陣がゆっくりと宝石と同じ色に光り出した。

 ハアルス卿の背中の光りが強くなった。


 騎士が剣の塚で盾を叩き始め、鈍い"バンバン"と言う音が鳴り響く。

 城門側の騎士と魔法師は退去した。


 魔法陣が次々と光り出すとハアルス卿の背中の光りが小さくなっていく。

 それを見ていた魔法師はアルトの横に駆け寄った。


「アルト様、わが魔力を」


 魔法師は跪き、アルトの右手を掴んだ。

 アルトの右手が光り出し、ハアルス卿の背中の光りが大きく広がりだした。

 それを見ていた魔法師が数人アルトの元へ駆け寄る。

 右手を掴んでいた魔法師は地面に倒れ落ち、次の魔法師がアルトの右手を掴む。


「我々は大丈夫です。

 アルト様、今一時の辛抱をお願いします」


 右手を掴んだ魔法師が同じ様に倒れ落ちると、次の魔法師が右手を掴む。

 集まった魔法師は躊躇いもなく、アルトの右手を掴む。


 数分後に魔法陣の全てに魔力が行き渡るとハアルス卿の前にある魔法陣から岩の塊が飛び出した。

 岩の塊は次の魔法陣をぬけると火をまとい、魔法陣をぬけていく度に火は大きくなり、次に早さが増し、最終的に城門の高さと同じ大きさとなった。

 城門に当たると城壁は紙で出来ているかの様に曲がり、積み上げた石材は崩れ、街中の建物を押し潰しながら城の近くで止まった。

 破壊された城壁と建物は原形がなく、一瞬の事で恐怖が込み上げてくる。


 これが立体魔法の破壊力だった。

 多重魔法は複数の魔法攻撃で、立体魔法は1つの魔法に複数の魔法を上書きして強化する。

 立体魔力の定義は数百年前に完成していたが、複数の魔法陣の維持と多くの魔力を必要とした為に実現はしなかった。

 ハアルス卿の固有スキルで複数の魔法陣の発動と維持を可能にし、アルトの固有スキルで魔力の供給が可能になった。


 アルトはハアルス卿に触れていた左手は離れ、膝と両手を地面に付けた。

 ハアルス卿は地面に突き刺した剣を引き抜くと冷静に周りを見渡した。

 過去の戦いはこんなに無抵抗な状態で立体魔法を発動する事はなかった。

 城内から兵士の声が聞こえないし、気配が感じられない。

 これまでと何かが違っている。


「立体魔法は成功した。

 警戒を強め、早急に本陣まで後退する。


 魔力切れの魔法師は荷馬車に乗せろ」


 魔力切れの魔法師を担ぎ乗せ、アルトが荷馬車に乗り込むと動きだした。

 騎士団は馬車を囲む様に移動している。


 城の方から味方の兵団の怒号が沸き上がっている。

 一斉攻撃が始まった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ