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第42話 知りたい昨日より築きたい明日

「……悪い、聞いてなんだが途方もなさすぎて俺の頭では理解できない」

「だよねー。私も初めてここに来た時同じリアクションだったし」


 アインはこめかみを指で押さえながら、ライセたちの言葉の咀嚼に必死だった。

 彼に語られた話はおおよそライセがノアから聞かされた内容と同じなのだが、ライセはかつての日本での生活でSF小説などでこの手の話を消化するための前提となる酵素を持っていたため比較的理解も早かった。

 しかしアインはそうではなく、話されたのがあまりにも現実離れした――相手がライセとノアでなければ狂人の戯言と一笑に付していたところだ。


「大神エデンは実在したがそれは神ではなくエデン・エンデバーという星を渡る船で、今もなお月の傍らで地上を見守っている……か。俺からするとそれは神とどう違うのかわからん」

「アインさん……できればエデン・エンデバーのことは他言無用でお願いします」

「大丈夫だ。普通の人間はそんな与太話を信じない。信じる人間はよほど頭がイカレてるのだろう。それに――日々を生きるのに精一杯な人間にはそんな与太話をいちいち気にする必要がない。だから心配ない」


 アインはそう断言する。

 例え大神エデンの正体がこの世界の人間が想像するようなものと違っていても、理解の及ばぬ存在であることは変わらないのだ。

 それで信仰が揺らぐとすればただの不信心者でしかない。アインはそう考えた。


 他に――ライセがまだノアに聞いてなくて今回のアインとの話で初出の話題といえば聖印と聖符だろうか。

 聖印はライセの想像通りQRコードのようなもので、聖符はこの星の人類の情報を一括管理するためのIDようなものらしい。


「私だったら常に見られているようなもので少し気持ち悪いかなあ……と思うけどね」

「そうか? 要は神のご加護とやらがはっきりと目に見えて存在している証拠じゃないのか?」


 アインはそう返す。その視点はライセにとって新鮮だった。確かに神の加護を常に受けているという証しとして考えると悪い気はしないかもしれない。

 言うなればお天道様が見ている(物理)だ。

 そこにすぐにディストピア小説的な邪悪な意図を見出してしまうのは、自分の中の宗教観が偏っているせいなのだろうか。ライセはそう自問する。


「俺の理解の及ばぬ世界の話だが……一つだけ解せないことがある。ノア、お前はライセが知っている以上のことをどこまで識っている?」

「えっ――?」

「大神の分身であるノア――この表現が正しいのかわからんが、お前に与えられた大神の知識とやらはどこまで正確だ? 例えばだ。千年前、世界を救う時の聖女ライセリアと大神との間でどんなやりとりがあった? ああそうだ、大神は何を意図して聖女の写し身としてのライセを生み出した?」


 アインの怒涛の質問に、ノアは明らかに動揺していた。

 彼女の口が僅かに震える。何かを言おうとして言葉が出ないようだった。


「……わかりません、言われるまでわたしは考えもしませんでした。この姿になってエデン・エンデバーのシステムから切り離されたことで全ての情報にアクセスできないことは自覚してましたけど……どの情報にアクセスできないかまでは把握できていない……いや把握できないことを把握するという考えすらなかったんです。ライセさん……あなたがこの世界に生み出された理由を前のわたしは何と言ってましたか……」

「えっ? えーと確かあの時ノアは――人類は魔物の脅威から人々を守るための救世主を待ち望んでいて、大神エデンはそれに応えて私を遣わせた――みたいなこと言ってたけど」

「わたし……そんなこと言ってたんですか……?」

「もしかして覚えてないの?」

「覚えてないわけではないんですが……エデン・エンデバーが直接人間に干渉してくるなんて何がしかの重大な理由がないとおかしいのに……そんな理由でライセさんを……?」


 何かがおかしい、システムの一部であるドローンだった時はそんなことに疑問すら抱かなかったのに。

 しかし人間の姿になった途端に、ノアは自分がシステムから分離した存在であることを強く意識させられた。

 千年前、エデン・エンデバーと何ら関係のない理由で科学を封印した人類に対してもその意思を尊重すると静観を貫いたエデン・エンデバーが、わざわざライセという聖女のクローンを生み出すなんてことがあるだろうか。


「……その様子だと神の意思決定に関わる部分はノアは知らないということか」


 アインの言う通りだ。エデン・エンデバーには何か意図が隠されている。ノアはそう強く確信する。

 だが何の意図があるのか、何を意図してライセを聖女の写し身として生み出す必要があったのか、ノアには全くわからない。

 そして――やはり、自分は何らかの意図を持ってエデン・エンデバーにアクセスできないだけで、向こうはこちらの動向を常に把握しているという可能性に真実味が帯びてくる。

 そんな不安の渦に飲み込まれそうなノアを見て、ライセは両手をパンッと打ち鳴らした。


「あの宇宙船が何考えているかなんて、それこそ直接問いただせばいいのよ」

「直接問いただすって……月の側にいる船までどうやって行く気だ?」

「今のは言葉のあやってやつよ! わからないことをいつまでも考えてもしょうがないでしょ? もしかしてエデン・エンデバーに直接乗り込む方法があったり?」

「もしかしたら――初期入植者が使った転送ポータルがどこかにあるのかもしれません」

「えっ! あるんだ!? どこどこっ?」

「今のわたしはではどこにそれがあるのかわからないです。……でも、あるとすれば初期入植者が最初にエレウシス4に降り立った場所、聖都エデニアかも――」


 聖都エデニア――エデン教会の総本山にして、このアルシオネを含む国家である神聖エデニア帝国連邦の首都。

 その地こそ、ライセがこの世界に転生してきた最初の場所でもある。そこに転送ポータルがあるかもしれないという。

 だがそれはあくまでノアの推測でしかなく、実際に存在するかは定かでない。


「……ライセ、お前そこから逃げ出して今ここにいるんだろ? 戻るのは不味いんじゃないのか?」

「あはは……まあ、そうなんだけど。まあ冒険者やってりゃあそのうち行く機会もできるでしょ」

「この街の司祭――ルシルもお前を暗に探っているような素振りがあるわけだが……」


 ライセは痛いところを突かれて思わずウッ、と言葉を詰まらせた。ルシルが自分の素性をそれとなく探っているのは薄々勘付いていた。

 下手に関わると自分が聖女のクローンで失敗作として処分されそうになって逃げだしたことがバレてしまうかもしれない。

 もしかしたらもうバレていて、ルシルは教会からの監視役という可能性も考えられる。


「ま、まあその時はその時よ! 私は聖女の生まれ変わりでノアは大神の分身なんだからそんな追っ手なんてけちょんけちょんにしてやるんだから!」

「ほんとお前は楽観的だな……俺は心配になってきたぞ……」


 強がるライセにアインは不安げな視線を送り、ノアはそんな二人を見てクスクスと笑う。

 ライセにとってエデン・エンデバーの真意なんて二の次だ。

 この世界でどうやって生きるかのほうがずっと大事だ。ノアもアインもいる。髑髏亭のネーヴィアもいる。

 不安に思うとすれば教会との関係だけ。できればルシルと敵対するなんてことが訪れなければいいのだが。


「今は目の前のクエストに集中よ! 冒険者たる者はまず目の前の仕事をこなさないとね!」

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