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第14話 Last 5 minutes - (minus) x

 殆ど手中にしていた筈の勝利がこぼれ落ちる? そんな窮地に立たされた所へプリドール、ロイド、リタ、そして外での激戦を終えたベランドナとファグナレンが合流した。


 その異様な雰囲気。途端に飲まれてしまう面々。


「おぅ、お前等。他の敵はどうした?」

「そんな連中、アタシ等が後ろから串刺しにしてやったさっ!」


 脇腹から血を流し青ざめた顔で質問するランチアにプリドールが応えた。


(本当はあのリタって子の奇跡の(眠りの)術がやたらと効いただけなんだけどな)


 プリドールは実際の所は面倒だし、終わった事をどうこう言っている時ではないので割愛した。

 実際そうだった。1回目にリタが使った眠りの奇跡『天使之休息レソデンジェロ』がやたらと効力を発揮した。

 彼女はもしやと感じさらに続けた所、敵はバタバタと眠っていくか、起きていられたとしても意識朦朧となった。

 後は容易な作業であった。ついでに言うとこの奇跡、本来なら眠る事が出来ない者へ治療法として使うのだ。


 しかし感覚の増した敵にとってこの術は抜群の効果を発揮したという次第だ。


 さて、そんな事よりもカーヴァリアレである。まるでローダが『狂戦士バーサーカー』と化した時と同じ様な状況に見える。


 カーヴァリアレもカルベロッソ兄妹同様に『扉』の能力に目覚めたのであろうか?


 ジェリドは恐らくそうではないと認識する。現在のカーヴァリアレは改造された肉体を全力運転させている。もし扉のスキルを持っていたなら、こんな回りくどいやり方はしない筈だ。


 そしてもう一つ、認識している事があった。


「ランチア、今の彼の状態。せいぜい持って5分程度。そう考える」

「どういう事だっ?」

「アレは人間の動きじゃない。身体の方が持つ筈がなかろう。そして君の負わせた手傷も必ず無駄にはならん」


 ジェリドはカーヴァリアレ含め、あえて聞こえる様に推論を述べた。まあ正直な所5分というのは本当に適当である。

 しかしカーヴァリアレの顔色が少し変わった所を見ると、賭けたヤマはあながち外れでもなさそうだ。


「剣の出所でどころも判らねえ相手に5分か……なげぇ、なげえよ」

「しかしそれしか勝機はないっ」

「………っ!」


 先程まで自分の叩いた算盤そろばん通りに事が運んでいたランチアは、ジェリドに言い渡された覚悟に唇を噛んだ。


「風の精霊達よ、あの者に自由の翼を」

戦之女神エディウスよ、この者にどうぞ貴女の御慈悲を。湧き出よ『生命之泉プリマべラ』」


 リタのお陰で少し聴力を回復したベランドナが風の精霊に呼び掛ける。そのリタが今度はランチアに回復の奇跡を使った。


「お、おおっ!?」

「す、すいませんっ! とてもリイナ様のように全回復には至りませんし、それに回復出来るのはあと1人が限度でした」

「ランチアさん、貴方は初めてだと思うけど必ず使いこなせるわ。その翼を」


 ランチアの脇腹の傷。完全に塞がってはいないが出血は停止した。そしてベランドナも残り僅かな魔法力マナを消費して、ランチアに自由の翼を託した。


 ここまでされて不燃ごみの様になる男ではない。


 早速、空へと舞い上がり、宙で静止して見せる。そしてハルバードで相手の方を指した。


「この死にぞこない野郎っ! ぜってぇにテメエはこの俺様ランチアが引導を渡してやるぜッ!」

「ほぅ、いよいよ()()のでなく()()のですか。しかしまさかそこまで私の剣が届かないとでも?」

「やれビアット! 出し惜しみナシだっ!」


 カーヴァリアレの挑発をガン無視して、天井に向かい指示を送った。


 石造の天井が突然の轟音と共に粉砕した。砕かれた石で煙が上がり、中にいる者は咳込んだり、目に粒が入ったりと色んな形で狼狽える。

 巨大な穴が開いた所から、火薬の匂いが運ばれてくるが、真下にいたカーヴァリアレにはさらなら物が降り注ぐ。

 それは砕石と豪雨であった。


「全くっ! この雨の中ダイナマイトをしけらせない様に待ってるの大変だったんだぞっ!」

「おおっ、(わり)ィなビアット」


 そしてビアットは一目散に逃げだした。彼は採掘用のダイナマイトを所持していたのだ。もしランチアが彼の言う事を聞かず、崖を下らなければ脅す気だったらしい。


 宙に静止したランチアに飛びかかろうとしたカーヴァリアレは、濡れた砕石に足元を取られるという信じがたい愚を犯す。


 そして天井に刺さっていた分のワイヤージャベリンが全て落ち、ワイヤーがカーヴァリアレの身体に絡みついた。

 冷静さを欠き、ワイヤーを無理矢理振り解こうとするカーヴァリアレ。なれどやればやるほど絡んでゆく。


 ランチアはいつの間にか他の兵が落としたジャベリンを2本、空からカーヴァリアレ目掛けて投げつける。同時に自らもジャベリンを追った。


 周囲の者達、特にここまで一緒に戦ったジェリドが唖然とする。いや、もっと愕然とした者がここに横たわっている。


 ジャベリン2本を両手首を深々と突き刺され、床に磔の状態となりつつ、首筋にハルバードの切っ先を突き付けらた男だ。


「こんな馬鹿な話があるか。この砦の屋上に着地したその時から既に貴様は、全て計算づくだった。私は完全に貴方の手の平で踊っていたと?」

「言ったろ? 俺様は何から何まで計算づくだってな……って言えれば格好がつくんだが、アンタの最後の力。アレにやられた俺は正直絶望していた」

「ではこの不様な結果は何だっ!」

「あの少女の回復術、ハイエルフから貰った翼。そして何より……」

「何だ?」

「俺様はあの女が此処に戻ってきたのなら、負ける姿は見せらんねえのよ。そういう事だ……不満か?」


 ランチアは言いながら、リタ、ベランドナ、そして絶対に弱みを見せたくない女、プリドールの顔を順に眺めてから告げた。

 そこに自信の塊である男の姿はなかった。


「不満ですか……そうですね、そんな訳の判らないものに私が破れるとは。しかもこの最後の力を使ってまで」

「悪ィ……いや、それは流石に嘘だ。例えどんな力を借りてでも仲間のかたきだからな」

「勝負は時の運です。運を引き寄せる力が貴方にはあったのでしょう。お陰でこの力を使ったというのに遺言めいた事を残せます。もし5分を使い切っていたなら、私は何れにせよもの言えぬ廃人でした」


 最期の不満をぶちまけるつもりであった筈なのに、気がつけばおかしな感謝を伝えている自分にカーヴァリアレは苦笑するのであった。

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