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短編(シリアス)

ドナー

作者: 裏道昇

思いついたので、もう一本。

良ければ読んでみてください。

 私はいつものベッドで、いつも通りに目を開けた。


「あれ? 私……」

「あゆみちゃん! 大丈夫? 意識はしっかりしてる? 今、先生を呼ぶからね」


 近くにいた看護師さんがすぐに走り寄って、私の容態を確認する。

 その姿を見て、ようやく実感が湧いた。


 ――ああ。

 ――私、助かったんだ。



 私、坂上あゆみは五歳の頃に内臓の病気で入院することになった。

 問題は私の病気は、ドナー? さんが見つからなければ助からないということだった。

 しかも、待っている人がたくさんいるらしくて、十五年以上待つかも知れないと言われていた。

 にも関わらず、数日前にドナーさんが見つかったのだ。


 そして私は緊急手術を受けて……無事に目覚めた。

 術後の倦怠感はあるが、体の苦しさは嘘のように消えていた。


 すぐにお父さんが病室へとやって来た。

 高い背にぼさぼさの髭。大きな瞳と口。男手一人で私を育ててくれて、高い医療費も出し続けてくれた人だ。

 でも、お医者さんよりも早いのはどうかと思う。


「おお、良かった! あゆみ!」

「声が大きいよ、ここは病室だよ?」


 結局、お医者さんが来るまでお父さんは叫ぶことを止めなかった。



 私はすぐに回復していった。

 すぐに立てるようになり、歩けるようになり、走ることも当たり前に出来るようになった。

 お医者さんも驚いた様子で「来月には退院して良い」なんて言っている。

 もうすぐ私は自分の家に帰るのだ。


 その頃からだった。私は白昼夢を見るようになった。

 最初に見たのは、学校だと思う。私は行ったことがないけど、テレビで見た覚えがあった。


 私は女の子と話している。同級生だろうか。

 数人で話しているとチャイムが鳴って、私達はゆっくりと席に着いた。


 このことをお医者さんに話すと、術後の負荷が原因だろうと言っていた。



 自分の部屋で過ごしている時間。

 学校でスポーツをしている時間。

 授業中に寝ている時間。


 色々な白昼夢を見ている内に気が付いた。

 いや、認めざるを得なかった。これはドナーさんの夢だ。



 退院の日。

 看護師さんに見送られながら、私は病院を出た。

 家はすぐ近くだった。お父さんは病院のすぐ近くへと引っ越したのだ。


 自宅までの帰り道。

 私は元気に飛び跳ねながら、お父さんの手を引いて歩いた。


「ははは、本当にあゆみは元気になったなぁ」

「でしょ?」


 お父さんが嬉しそうに笑っている。

 私も笑って返す。


「あれ?」


 この帰り道に見覚えがある気がした。

 そんなはずはない。私は病院の外の記憶はないんだから。


「あゆみ?」


 また白昼夢だ。

 日が暮れた部活の帰り道。

 私は何かから逃げている。この通学路を走る、走る。

 走りながら後ろを振り返る――その途端、がしっと、首を掴まれて物陰へと引きずり込まれた。

 同時に口を押さえられて、声も出ない。

 急速に意識が遠くなる。変な匂いがする。口を押さえている布に何か混じっているのか。

 相手の顔を見ようとするが、暗闇で見えなかった。

 意識が消える瞬間、すぐ隣を車が通った。ライトが路地裏を照らす。


 ――犯人の顔が見えた。



 目が覚める。


「あゆみ? 大丈夫か?」

 お父さんが心配そうに繰り返した。


「……大丈夫」

 私は震える声で何とか答えて、見上げた。


 ――高い背にぼさぼさの髭。大きな瞳と口。

 ――白昼夢で見た、その顔を。

 

 恐る恐る口を開く。


 ――私の為に、ドナーを増やしたの?


 訊けなかった。


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