手紙
陰陽寮では、方違えの方角やら、季節の星の巡りやら、なにやらかにやらめんどくさそうな仕事をしているのだが、この中に雨乞いとか怨霊退散とか呪術でもって働く一団がいるのだが、陰陽師として鬼のようなと言われた中田正明という者がいた。
鬼のようなと皆が恐れ、しかし実力もあるので恐る恐る従うという、めんどくさい陰陽師ではあった。
2ヶ月ほど前のこと、この正明が忽然と消え失せたのだ。
陰陽寮のほうから人をやり、屋敷に行ったのだが
家司もなにも知らず、ただ跡取りという若いおとこがいたので、連れ帰ってきた。
家司は確かに正明さまのお子さまです。というのでまずは
雨乞いの儀式に参加させたのであるが、呪文はすらすらと唱えることができる、しかし
なにもおこらない……。
たまたま偶然に、亜相の典侍が書類を持ってきて、前庭を覗いたとたん、唱えていた呪文が糸のように亜相に向かって伸びてきて、亜相の体を通り抜けると噴水のように弾けとんだ。
雷鳴がとどろき、どしゃ降りの雨になり、
呆然とした亜相と呆然とした男を皆がこれまた呆然と見ていた。
その顛末を真砂さまに手紙で知らせておいたのだが、その返事が今日とどいたのだった。
陰陽寮からの手紙は
明日の祈祷に馳せ参じよ
というふざけたものだったので亜相顔が歪んだのだが……。
真砂さまからは
あなたには教えておかねばならぬこともあり、近々宿下がりできぬものかと思っております。
予定が立ったら教えて下さい、他にも立ち合ってもらわねばならぬ人がおりますので。
という、なにやらはっきりしないものだった。
手紙を懐に
白ゆりの尚侍のもとへと向かった亜相だったが、
声をかけると、またもや3人いるのであった。
「主上、お暇なのですか?」
つい、ため息混じりに言ってしまった。