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第30話 心を燃やせ。

「へー、わざわざ自分から死にに来てくれるなんて嬉しいよ。」

「......。」


 結衣は、目の前に立つ"第六天魔王"に手を伸ばした。


「ダメ......のぶ、なが。これは遊びでもなんでもない。危険な場所......だから。早く......逃げて。」


 結衣の小さな声は信長に届かなかった。いや、聞こえないふりをしているだけなのかもしれない。

 とにかく、結衣の言葉では信長がその場から動くことは無かった。


 男は信長へ向けてナイフを向けた。


「死んでよ。」


 男がそう呟くと月の光が信長を襲った。

 

「にげ...て、信長、逃げてぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 結衣の叫び声が響いた。

 その次の瞬間、またしても光が消えた。いや、消えたのでは無い。斬り落とされたのだ。


「なん、だと!?」


 男は何が起きたのかを理解できなかった。

 その時、ようやくあの"第六天魔王"が喋りだした。


「うーん。うたた寝している間にこんな事態になっていようとは!! よもやよもやだ。柱として不甲斐なし!!」


 "第六天魔王"はそう言うと、腰にある刀を抜いた。

 男はもう一度、光で信長を襲わせた。それも光の乱反射による無差別なあの光の攻撃で。


「穴があったら入りたい!!」


 だが、"第六天魔王"がそう叫んだ時、地面が揺れた。信長が地面を思いっきり踏み込み前へと飛び出したことによる揺れだ。その揺れと共に光の全てが消滅した。

 信長の刀から放たれた炎によって。


「炎に飲み込まれた、だと!?」


 男は、考える。

 炎に俺の光が通じなかった、て事か。そんな馬鹿な。

 いや待て。あれはただの炎なんかじゃない。炎を超えた、その先にあるものだ。

 本能に直接、恐怖を植え込む、そんな炎だ。

 まるで、地獄にでも引きずり込まれたかのような、そんな炎だ。


「......獄炎。」


 おとぎ話の中で登場する、人間には扱えない地獄の中に存在する炎。それが獄炎。

 信長の放つ炎はそれに近い感覚だった。


「のぶ、なが。」


 結衣は今も信長を止めようと手を伸ばそうとしていた。

 だが、そんな結衣の手を誰かが掴んだ。


「大丈夫、ここは信長くんに任せよう。」


 ミラン先輩だった。

 ミラン先輩は、結衣とイリスに回復薬を渡すと、防壁魔法を使い結衣たちを守った。

 そして、結衣たちは安全な場所から信長を見守った。


 信長はいつの間にか男の背後に立っていた。早すぎる動きに、男は追いつけていなかった。

 

 信長は真っ直ぐ男を見つめながら、刀を鞘に収めていた。

 既に、圧倒的な差がそこに生まれていた。


「それでも俺は諦めねぇぞ。」


 男はもう1度、光を放つ。

 あの乱反射を利用した光を。


 正直、今、ここでこの乱反射を利用した光を放つという行為は、自分自身の限界を突破させるという事だった。

 乱反射を利用し辺り一面に光を放つということは、その分の魔力が必要だったからだ。


 それでも、やらなくてはいけない!

 男は心の中でそう叫び、体の中に残る魔力を全て放出し、光を放った。


「村諸共! 全てを! 壊してやる!!」


 そんな男に対して、信長がとった行動はとても単純なものだった。


「罪なき人に牙を剥こうものならば......」


 信長は刀の柄を握った。


「この煉獄の赫き炎刀が、お前を骨まで焼き尽くす!!」


 信長は握る刀を勢いよく抜いた。すると、信長の背後から勢いよく炎が巻きあがった。

 そして、信長は地面を強く蹴りだし男へと向かって飛んだ。

 それも、男の放つ光の速度を超える速さで。


 直後、信長の【獄炎】と男の放った光がぶつかり合った衝撃で、その場に大きな風が巻き起こった。風によって辺りの植物や石などが視界を塞いだ。


「信長ァァァァァァ!!」


 結衣の叫び声が戦場に響いた。

 しばらくの時間が経つと、大きな風がおさまる。そして、視界が確保された。


 大きな風の中ににて広がっていたのは、信長の持つ刀が男のナイフを貫き、男の眼球の目の前で制止している状態の2人だった。

 男は恐怖により気絶をしていた。


 信長は男が気絶をしたことを確認すると刀を鞘に収めた。


「ミランよ、後は任せたぞ。」


 信長はその場からどこへ行こうとした。

 そんな信長を結衣が止める。


「ど、どこに行くの。」

「なぁに、勝利の美酒に酔ってくるだけさ。」




――――――――――




 無事に事件は解決した。今回ばかりは、正真正銘の信長の活躍によって。


「ありがとうございました。村も無事で、さらわれていた人も無事で。もう、なんと感謝すれば良いのか。」

「大丈夫ですよ、ボクたちはみなさんが無事ならそれで大丈夫ですから!」

「ほんとにありがとうございます...。」


 男は周辺の治安を維持するための警察のような組織である『警備隊』に連行されていった。

 同時に拐っていた人々も解放されていた。


「ほら、今回は信長の活躍なんだから、もっと堂々としてなよ。」


 と、結衣は信長に伝えた。

 だが、信長はなぜかうずくまっていた。


「う......気持ち悪い。」

「......は?」

「飲み、すぎた。昨日の、記憶も、ない。」

「......え?」


 実は昨日の凄い魔法って、ただの酒の勢いってわけじゃない、よね?

 と、結衣は考えた。


「さあ! 君たち、帰るよ!」


 と、ミラン先輩が言う。

 すると、足元に魔法陣が自動的に浮かび上がってきた。


「それじゃ、じゃーね!」

「さようなら!」

「ばいばァいィ。」

「さ、さらば、だ。」


 風紀委員のメンバーが村の人々へと別れの挨拶をする。

 村の人も感謝を伝えつつ別れも伝える。


 こうして、風紀委員の大きな仕事が終わった。




――――――――――




「やっと覚醒したみたいだね。」

「その通りであるな。」


 村から離れた場所より織田信長の活躍を見ている2人の人影あった。


 "東海一の弓取り"と呼ばれる男『徳川家康』。

 "戦国最強の武人"と呼ばれる男『本多忠勝』。


 その2人が見ていた。


「さて、俺たちもそろそろ動き出さないとね。」

「その通りであるな。」


 2人は顔を見合わせる。


「「"猿"を探す仕事へとな。」」

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