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#3‐26 北東戦線の戦い①

 テアスジム王国軍とダエユーネフ共和国軍はオドグタール要塞を攻めあぐねていた。

 サルキデール公爵は、すぐにでも要塞を攻めたかったがヒムリドール将軍は慎重だった。


「公爵殿。オドグタール要塞を守っているのは、エンギン辺境伯だと聞いております」

「フン!あのブレストピア国を裏切った犬野郎か!」

「犬野郎かも知れませんが、自分の母国を裏切ってルークの軍に入ったのはエンギン辺境伯だけではありません」

「... どいつもこいつも、金で母国を売ったヤツらだ!」

「一概にそうとも言えないようですが、我々の現在の問題は、オドグタール要塞をどうするか、です」

「一気に攻め落とす!それしかない!」

サルキデール公爵は、あくまでも強気だ。


「公爵殿は、偵察隊からの報告を聞いていないのですかな?」

「む... 一応聞いておる」

「私は偵察隊からの報告を聞いたあとで、要塞の近くまで自分の目で確かめに行きましたが...」

「ほほう... ヒムリドール将軍殿は馬での遠出が好きだとは知りませんでした」

「あれは... 10万の兵で攻め落とせるような要塞ではありません」

「なにを弱気なことを!ダエユーネフ国の軍人らしからぬ言葉を...」

「軍人だからこそ、多くの将兵の命を預かる身であるからこそ、敵情を仔細に調べ、いかにして味方の損失を少なくして戦いに勝てるかを考えなければならないのです!」


傲慢なサルキデール公爵の“軍人”云々という言葉にカチンと来たヒムリドール将軍は語気を強めた。

その剣幕にサルキデール公爵も言い過ぎたと思ったのか黙ってしまった。


「あれほど巧妙に作られた要塞を私は見たことがありません。5重の防壁と縦壕で囲まれたあの要塞を兵だけで攻略しようとすれば、一兵たりとも頂上にたどり着けないでしょう...」

「わが軍にはカタパルトがある!」

「わが軍にはありますが、敵ももっているでしょう。高所からのカタパルト攻撃の飛距離は、低いところからのより遠くへ飛びます」

「む...」


 サルキデール公爵にも、ヒムリドール将軍が“こちらのカタパルトが要塞を攻撃できる射程距離に入る前に、要塞からのカタパルト攻撃にさらされる”と言外に言っていることに気づいた。

 たしかにヒムリドール将軍の言うように、ルーク軍の要塞は高さ300メートルのオドグタール山の稜線にそって、600メートルの長さにわたって築かれており、さらに要塞はその周囲4キロメートルに渡って幾重もの防壁と縦堀をめぐらせている難攻不落の防御陣地だった。


 オドグタール要塞を素通りすることはできないので、要塞の防衛能力を見るために、テアスジム王国軍2千人とダエユーネフ共和国軍の2千人、計4千人の兵で攻めてみることにした。



 が―


結果は惨たるものだった。

4千人の兵は、オドグタール山の頂上にある要塞を目指して登るために、登りやすい縦堀を縦隊で進んで行ったのだが、そこをエンギン辺境伯軍の弓兵から狙い撃ちにされた。

縦壕の狙いは、まさにそこにあったのだ。壕の幅は1.5メートルほどで深さは2メートルで、底は湾曲しており、そこを進む敵は一列でしか登れないようになっていた。

 縦壕を登りたくなければ、無数の尖った杭が立てられ、有刺鉄線が張りめぐらされた斜面を登らなければならないので、結局、敵兵たちは縦壕を登ることになり、第一防壁にたどり着く前にことごとく射殺された。

 その状況を見たヒムリドール将軍は、サルキデール公爵の反対を押し切って、ダエユーネフ軍の突撃部隊に退却命令を出した。サルキデール公爵は、そのまま突撃を続けさせたが、半数の兵が倒された時点でしかたなく退却を命じた。


 ダエユーネフ軍の突撃部隊の損失は5百人ほどだったが、テアスジム軍の損失は千人以上と実に半分以上になった。そして、テアスジム軍の兵士たちの中では不満が高まった。

「くそっ、なんでダエユーネフの部隊だけが先に退却したんだ?!」

「こんな要塞、どだい攻めるってのが無理なんだよ!」

「ダルトもギョーカツもダニロも死んじまった...」

「おれも長くいっしょに戦って来たバウガ、ガワチム、それにジンギュを失った!」

「あれはサルキデールのヤロウの采配が悪いんだ!」

「たしかに、あの傲慢野郎の采配のせいだ!」


 しかし、サルキデール公爵は最初の失敗に懲りず、ヒムリドール将軍の忠告も無視して、カタパルト隊に全身を命じた。40台のカタパルトが牛族兵士に牽かれて要塞を攻撃できる射程距離にまで近づこうとする。

 その様子をヒムリドール将軍はただ黙って見ていた。

ダエユーネフ軍もカタパルト隊を保有しているが、将軍は自軍のカタパルト隊を出さなかった。みすみす貴重なカタパルト隊を失うことを避けたのだ。


 見張り櫓の上から、テアスジム軍のカタパルトがオドグタール山の麓に向かって移動するのを見ながら、ヒムリドール将軍は後ろで同じように見ていた者に言った。

「ヴァスマーヤ、準備は出来ているか?」

「はい。いつでもご命令のままに」

黒いフードで顔がほとんど見えない者が答える。

全身を地に着くようなフードと同じ色の長いローブに包まれているが、その低い声は女性の声だった。

「まもなくテアスジム軍のカタパルト隊は、全滅するだろう」



「せ――えの!」

「「「「「「「「「「「「せ――の――!」」」」」」」」」」」」」」」


「それ――っ!」

「「「「「「「「「「「「それ――っ!」」」」」」」」」」」」」」」 


カタパルトを引っ張っている牛族兵たちの掛け声がここまで聞こえて来る。

それぞれのカタパルトを引っ張ている牛族兵の下士官の掛け声に合わせて、牛族兵たちが引っ張っている。


「たしかに。敵はざっと見ただけでも2百台のカタパルトを持っています」

黒いフードの女が抑揚のない声で言う。

「そうか... 数だけ見ても、こちらの約3倍だ。敵が優勢だということがわかる...」


ヒムリドール将軍が言い終わる前に、味方の陣からオオオオ――――!と声があがった。

ハッと敵の要塞の方を見ると、敵の第三、第四防壁の後ろに長い柱のようなモノが現れていた。

そして、空中を飛んで来るモノ― 石か何かだろうが、50個ほどが曲線を描いてテアスジム軍のカタパルト隊の上に落ちて行くのが見えた。


「あれは石ではないっ!」

視力のいいヒムリドール将軍の目には、敵のカタパルトから発射されたモノが白い小さな煙を曳いているのが見えた。


ビュウウウウウウウ――……… 


空気を切り裂いて飛んで来るモノは大きな(タル)だった。


そして...


(タル)はカタパルト隊の上で爆発した!


ド―――ン!...

ドド―――ン... 

ドドドド―――ン... 

ドドドドドドドドドド―――ン... 


「モ―ウ!」

「ブモゥ!」

「ギイっ!」


テアスジム軍の牛族兵たちが血だらけになって倒れる。


「あ、あれは何だっ?!」

サルキデール公爵が、目玉が飛び出すほどおどろく。

カタパルト隊は全滅し、かろうじて生き延びた牛族兵たちが喚きながら後方に向かって逃げ出す。

敵のカタパルト攻撃はすでに止んでいた。


「ヴァスマーヤ、君たちの出番だ!」

「はい」


ヴァスマーヤと呼ばれた女は、フワリと浮かぶと、見張り櫓の下に降りた。

そこには、彼女と同じように黒いフードとローブを着た者が10人ほどいた。


「みんな。ヒムリドール将軍の命令が出たわ。我々の任務は、あの要塞を徹底的に破壊しつくすこと!」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


「アルドラルビダカの魔術師の名に恥じない戦いぶりを見せなさい!」

「「「「「「「「「「はいっ!」」」」」」」」」」


魔術師たちは、足早に陣地の前方に向かって走って行く。

空を飛べる者はその上を飛んで行く。


「カイズネス子爵、アルドラルビダカの魔術師たちが敵の防御を無力化したら、総攻撃だ!」

将軍が後ろに控えていた男に命令を伝えた。


「わかりました」

カイズネス子爵は、足早に梯子を下りて行った。


ヴァスマーヤは、要塞の上空5百メートルに浮かんでいた。

彼女から要塞までの距離は、約千メートル。彼女の両側には、3人の魔術師が同じく浮かんでいる。

要塞の敵兵たちが彼女たちを指さして何やら騒いでいるのが見える。


「さあ、彼らに地獄を見せてあげましょう!」


「「「はい!」」」


ヴァスマーヤが両手を空に向けると、あとの3人も同じように向けた。

ダエユーネフ軍の陣地にいる魔術師たちも、同じように空に向かって手を上げ詠唱をはじめた。




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