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#3‐21 北西戦線ー新兵器

  ルークタラス城― 


「ルークさま、ようやく“マデンキ(魔法式遠隔伝達器)”とドコデモボードが完成しました」

アマンダがそう言って、ルークと美人妻たち、それに軍務大臣ギャストン伯爵や経済・貿易大臣ペンナス伯爵、外務大臣スティルヴィッシュ伯爵たちがいる広間に布がかけられたモノを二つ兵士たちに運びこませた。


「こちらが、“マデンキ(魔法式遠隔伝達器)”です」

アマンダの合図で兵士が覆っていた布をとると、その下に現れたのは、幅が1メートル以上、高さ1メートルほどもあるバカでかいモノだった。

ルークに向けられた面にはほぼ一面に黒っぽいガラスがはめられている、厚さ30センチほどの木箱だった。

ただ、木箱の上部にはなんだかゴチャゴチャと小さな突起物がついている。


「これが... 遠くに離れた所にいる者と顔を見ながら話すことができる魔法器と言うわけですか?」

ギャストン伯爵が、興味深そうに訊く。


「今、スイッチを入れます... この画面には研究所にいるトゥンシー大先生が映るはずです」


アマンダが上部にある突起物の一つを操作すると―

暗かったガラスの画面が少しチラチラと光を放った。


「おお!」

「光出した!」

「どんな仕組みで光っているのか?」

みんなが騒ぎはじめた。


ブン...

くぐもった音がして、こちらを覗きこんでいるトゥンシー大先生、バラキ師、 数学者のアギュルックにラジョー、トムと妻のメリッサ、それに若手研究員のキンキ、フウキ、スイキたちが、押すな押すなといった感じで画面に出た。


「おおっ!トゥンシー大先生ではござらんか?」

「この魔法器は、箱の中にエルフを縮めて入れることができるのですか?」

「それにしても、みんな顔色が白いですな?」

ワイワイガヤガヤ... 

広間にいた者たちは、初めてテレビを観た者のように騒ぎはじめた。

「誰じゃ、ワシの顔色が白いなどと言っておるのは?」

「!」

「トゥンシー大先生がしゃべった!」

「そりゃしゃべるわい!生きておるんじゃからのう!」

フフン!と錬金術の大先生が胸を張る。


「トゥンシー大先生、しばらくお会いできませんでしたが、お元気そうですね」

「おう、ルーク王殿か。このところ忙しかったからな。城に行くひまもなかったんじゃ。じゃが、この通り、“マデンキ”は完成したぞ?」

“マデンキ”は、魔法陣の権威であるバラキ師が開発チームのチーフとして作ったものなのだが、大先生はまるで自分が作り上げたかのように言っている。

「バラキ師匠もご苦労さまでした」

トゥンシー大先生の後ろにいるバラキ師にルークが礼を言う。

「いえ、最初の予定よりかなり遅れてしまいましたが、なんとか10台作り上げました」

「それだけあれば十分です。早速、今日にでも前線へ運ばせます」

ルークに代わってアマンダが返事をする。


「それで、誰が運ぶのかね?」

「はい、ルークさま。まずは北西から侵攻した東ディアローム・アジオニア連合軍の殲滅に主力をそそぎたいと思います」

「なるほど。で、どんな作戦を考えた?」

「まず、ゾロワリン伯爵が率いるスティルヴィッシュ伯爵軍の5万を敵の正面に。そして、ハンノンベリ辺境伯とドゥリンオン伯爵が6万の軍をそれぞれ敵陣の両翼に布陣させます。そしてマスティフ伯爵の軍3万とマーゴイ侯爵軍の3万軍を敵の背後に投入し、この5軍で同時に攻撃をしかけます」

「水も漏らさない包囲作戦と言うわけか。しかし、四方からの包囲作戦だと同士討ちの恐れはないのか?」

「いえ、エルゼレン伯爵からの報告では、東ディアローム軍もアジオニア軍も夜襲や奇襲を恐れて、行軍の隊列もかなり長いものとなっていますし、野営にもかなり広い面積を使っていて、夜襲を受けた場合の損害を軽くするようにしていますので」

「ふむ。エルゼレン伯爵の軍のおかげだな」

もはや実質上、“参謀長”となったアマンダの説明に大きく頷くルーク。


「東ディアローム・アジオニア連合軍の20万の兵力に対して、わが方はオドグタール要塞のエンギン辺境伯の7万に、スティルヴィッシュ伯爵軍の5万、それにマスティフ伯爵の3万とマーゴイ侯爵の3万ということでわが軍は18万になりますな!」

軍務大臣ギャストン伯爵が、これで兵力的には互角だと頷く。

「ただし、忘れてはならないのは靉靆(あいたい)の者です」

魔術師であるミカエラがルークの方を見て言った。

「今回の戦いは東ディアローム帝国側も乾坤一擲(けんこんいってき)の決意で望んでいるはずです。戦局が悪化すれば、必ずアルドラルビダカの魔術師たちを出して来ます」

「しかし... ミカエラ王妃殿、そうであれば、もうとっくに出て来ているはずではないですか?」

ハンノンベリ辺境伯が口を開いた。

彼は元ブレストピア王国の貴族で、ブレストピア・マビンハミアン戦役の折りに、ゾロワリン伯爵、ハンノンベリ辺境伯、ドゥリンオン伯爵など多くの貴族とともに()()()()()()()()()、ルークドゥル勇者王国の貴族となった一人だ。

元マビンハミアン帝国の貴族たちもその多くがルーク国の貴族となっている。


「それは、たぶん、東ディアローム・アジオニア国連合軍は“切り札”として最後までとっておいているのだと思います」

「切り札?」

「はい。靉靆(あいたい)の者― アルドラルビダカの魔術師たちは、どこにでもいる魔術師ではありません。それゆえ、優れた靉靆(あいたい)の者は数が限られています。敵もルークドゥル勇者王国が強力な魔術師を抱えていることは知っているはずです。なので、こちらの魔術師の使い方を見ながら、これと思う戦局の時に出すつもりなのでしょう」

アイフィが理路整然と説明すると、ハンノンベリ辺境伯をはじめ、貴族たちが納得した顔になった。


 ジ…ジジジ…ジジジジ… 


その時、広間の空気が震えるような音がして、テーブルの上に置かれたドコデモボードが大きく “ブンっ" とうなった。


「やあ、ルーク王さん、お待たせしました!足踏み式ミシン、この通り完成しましたよ!」

トムズークルがメリッサといっしょに現れた。

ドコデモボードは広間の一方の壁に通り道(ゲート)を開けていた。


ヨイショ!ヨイショ!

声を出しながら鋳物で作られた足踏み式ミシンを運びこんで来たのは、若手研究員のキンキ、フウキ、スイキたちで、その後からバラキ師たちがドコデモボードを助手たちに運ばせてゾロゾロと広間に現れた。


「おお!みなさん、そろっとりますな!」

「バラキ先生、どうもありがとうございました。大へんだったでしょう」

「いえ、いえ...」

「ルーク王さん、それほど苦労してないんですよ!」

「そうですよ、バラキ師は元の“マデンキ”を拡大して複製しただけなんですから!」

「“プリシル王妃の頼みとあっちゃ、作らんわけにはいかんからな”なんて言って、うれしそうに作っていたんですから!」

バラキ師がルークに答えようとしたが、若手研究員のキンキ、フウキ、スイキたちが代わって答えた?


「ええっ?私があれほどキツく言ったのによろこんでいた?」

「“プリシル王妃の、あの美しい紫の髪と鳶色の瞳がたまらん!”なんて、言ってニヤケていましたからね!」

「バラキ師先生、プリシル王妃にゾッコンみたいよ?」

足踏み式ミシンに皮の駆動ベルトを就けながら、トムズークルが言えば、彼の妻のメリッサも試し縫いの生地を手に、ミシンの前に丸椅子を置きながら言う。


 プリシル王妃は、その美しい鳶色の目を大きく見開いておどろいたが、それ以上におどろき、慌てたのはバラキ師だった。

「わ、儂がプリシル王妃にゾッコンなどとは... ル、ルーク王殿のお妃に、そんな感情を持つなどとは恐れ多い... ムゴムゴムニュムニュ...」

動転したバラキ師は、最後の方は何を言っているのかわからない弁明を汗たらたらでしたが、誰もムゴムゴムニュムニュ...という言葉を理解できなかった。


 バラキ師はラーシャアグロス王国のエルフ学者でトゥンシー大先生とあまり変わらない年齢だが、魔法陣の研究にずーっと打ちこんで来たこともあり、未だに独身だった。

 人格的にはまったく問題のない大学者先生だが、この時にみんなは魔法陣の権威が、美女に叱られたり、美女の尻に敷かれるのが好きなM気のあるエルフ先生だという事を知ったのだった。

 まあ、世の中、どこでも色んな傾向をもつ者がいるし、それが認められる風潮にあるので、ルーク自身も天才魔法陣研究家の傾向がどうであってもまったく構わないので、それを知っても平然としていた。

それを見て、プリシル王妃もみんなも興味を失ってしまった。


ガタタタタタタタ... 


その時、軽快な音を立ててメリッサが足踏み式ミシンで生地を縫いはじめた。


「あらっ、凄いわっ!」

「早いわね!」

「すご―――い!」

「縫い目がきれいね!」

アマンダやリリス、それにアンジェリーヌやジョスリーヌたちがミシンの回りに近寄って目を丸くしてミシンが縫う様子を見ている。


テルース世界の真のファッション革命は、この時に始まった。




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