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#3‐17 北方戦線ーガルンロムの戦い④

 一晩中続いた爆発音で、ダエユーネフ軍の兵たちは一睡もせずに朝を迎えた。


まさにクルトネー司令官が言った通り、ガルンロム要塞に立て籠もるルーク軍の嫌がらせだった。



 早朝―


 霧を利用してダエユーネフ軍のカモシカ族部隊8千人が一斉にガルンロム要塞攻略を目指して急な斜面を登りはじめた。

先頭を身軽に登っていたカモシカ族兵の足が、草の中に隠されていた針金の線に引っかかった。


ガラン ガランガラン ガラン ガラン......


上の方で音がした。


ガラン ガランガラン ガラン......

ガランガラン ガラン ガランガラン......


あちこちで上の方で音が鳴り響く。


そして、その音をきっかけに、それまで眠っているかのように静かだったガルンロム要塞に動きが出た。

カモシカ族兵たちが、第一防壁にあと100メートルほどに迫った時― 


ザザザザザザ――――― 


矢の雨が第一防壁からカモシカ族兵たちに降りそそいだ。


「ギュッ!」

「ギュウッ!」

「ギュ――ッ」


カモシカ族兵たちがバタバタと倒される。


「怯むな――っ、進め――っ!... ギュアアア――!」

カモシカ族部隊の先頭近くを駆けてる小隊長が叫ぶが、その口に矢が突き刺さり、小隊長がもんどりうって転げ落ちる。


「小隊長っ!」

「小隊長!」

近くにいたカモシカ族兵が、小隊長の体を抱え起こす。


「ワシに構わず、突っ込め... カモシカ族の力を見せてやれ...」

「し、しかし...」

「行け、こんなところでグズグズするな...」

そこまで言うと、小隊長は息絶えた。


矢攻撃のあまりの凄まじさに、カモシカ族兵たちは斜面に腹ばいになっていたが、それでも敵の矢は容赦なく降りそそぎ、5人、10人と腹ばいになったまま次々に射殺されて行く。


「なにを寝そべっているのだ―――っ!突撃――っ!突撃――っ!」

小隊長の遺命を曹長が大声を上げて叫ぶ。


「ギギュ―――――――!」

「ギギュ――――――――!」

「ギギギュ―――――――!」


カモシカ族兵たちがバネのように立ち上がって防壁に向かって駆けあがる。

矢攻撃は続き、何十人もの兵が倒されるが、カモシカ族兵たちは友の體を乗り越えて駆けあがる。



 ようやく第一防壁にたどり着いた。

しかし、防壁は下に向かって傾斜しているため、掴みどころもなく乗り越えることはできない。


「丸太のつなぎ目をたたっ切れ!」


曹長の命令で、防壁のわずかな隙間に剣を突っ込んで、防壁の丸太を繋いでいる木材に力いっぱい剣をふるって切ろうとする。

曹長は、矢攻撃から身を守るために盾を構えて防壁の様子を見ていたが、奇妙なことに矢攻撃は止んでいた。


それどころか、敵兵らしい姿も見えない。

“我々が迫ったので後方へ退却したのか?” 曹長がそう思った時、はるか上の方で陣太鼓が鳴った。

その時、曹長は足元に転がっている柱のような丸太をあらためて見た。


防壁の下側に等間隔で倒れている長い柱状の丸太。その先端は平たく削られている。

そして... 防壁の上の方に張られている横木にも、等間隔で穴が開けられている。

曹長は覚った。防壁が下へ向かって傾斜して作られているのは... 


「いかん!後退だっ!後退しろ――――っ!」

しかしその命令は遅すぎた。


陣太鼓が合図だったのだろう、防壁を支えていた太い綱が一斉に切られ、5メートルほどの丸太で出来た防壁が真下にいたカモシカ族兵の上にガラガラ... ガラガラ...と落ちた。


「ギュ――!」

「ギギュ――!」

「ギゲッ――!」

「ギュ――!」


曹長を含め、5百人ほどのカモシカ族兵が下敷きになり、圧死したり、挟まれて動けなくなった。

慌てふたむくカモシカ族兵たち。


そして、その上に第二防壁から雨のように矢が降りそそぐ。

第一防壁が倒れたのを見て、カモシカ族兵たちは本能的に下へ向かって逃げ出したが、その背に矢が降り、バタバタと倒されていく。



「いかん!あのままではカモシカ族兵は全滅します!クルトネー殿、カモシカ族部隊を退却させましょう!」

タジネット伯爵が司令官に提言する。

「うむっ。忌々しいがしかたない。退却させろ!」

「はい」


クルトネー司令官の命令をタジネット伯爵が部下に伝え、ダエユーネフ軍本陣の陣太鼓が鳴り響き、カモシカ族部隊は駆けあがる速さ以上の速さで退却を始める。

逃げるカモシカ族兵たちの背にさらに矢が降りそそぐ。



 カモシカ族部隊は部隊の半数、実に4千人以上が死傷するという大損害を受けた。

ダエユーネフ軍は、ガルンロム山のルーク軍が、予想以上に手強い敵だということを大きな損失でもって知らされたのだ。


「これでは正面突破は無理です。こちらの損害が増えるだけです」

アンジルム侯爵が口惜しそうな顔で言う。

「では、どうするかだ。ここで手をこまねいていても兵糧の問題もあるし、そもそも、東ディアローム帝国とわが国が立てたルークドゥル勇者王国侵略計画に支障をきたしてしまう!」



 司令官のクルトネー辺境伯にとっても頭の痛い問題だ。

ダエユーネフ国は東ディアローム帝国との連携作戦で、二つのルートからルークドゥル国に大軍でもって侵攻し、早急に占領する計画を立てていた。

 ルークドゥル国に北から侵攻を開始したのクルトネー軍が、初っ端のガルンロム山で手間取っていては、北東と北西から同時に侵攻作戦を進めている味方の軍の侵攻スケジュールにも支障を来たすことになる。



東ディアローム帝国・ダエユーネフ軍侵攻作戦の図

挿絵(By みてみん)



「ここは、やはり遠回りしてでもガルンロム山要塞の南側へ軍の一部を送り、そこで敵の攻撃を防いでいる間に主力軍を南下させるというのが最善策でしょうな...」

プルウズ伯爵が低い声で言う。

プルウズ伯爵の部隊は、ガルンロム要塞の東端から山越えをして敵陣の裏から攻撃をかけようとして、敵の急襲を受け多数の戦死者を出している。

「うむ... プルウズ伯爵殿の案が妥当であろうな」

タジネット伯爵の声に、アンジルム侯爵やガブリット伯爵たちも「それより他にいい案はありそうにないですね」とか「儂もそれがいいと思う」と同意したので、すぐに詳細を詰めることになった。


「敵は4万ですから、ここで踏ん張って敵の攻撃を防ぐには最低でも4万、欲を言えば5万は必要ですな!」

「うむ。5万は欲しいところだが、それだと主力軍は5万ほどになってしまうぞ?」

「それほどわが軍の損害は大きいのか?」

「馬族は5千人、ヤギ族が6千人、今日のカモシカ族が4千人以上、それに敵の爆発カタパルト攻撃で3千人以上が戦死し、負傷者も1万人を超えている...」

沈痛な声でタジネット伯爵が数字をあげると、貴族たちは茫然となった。


「たかが山の要塞一つで、これほど手こずり、損害が出るとは...」

アンジルム侯爵が信じられんと言った顔で言う。

「ここで、我々がこれだけ手こずっていると言うことは...」

「ほかの軍も、同様に手こずっていると考えられますな...」

「そうかも知れんが... 今は、我々はほかの軍の心配をしているどころではない!」

「たしかに」

「そうだ。誰の部隊をあの忌々しい要塞の南側に配置するかだな?」




    ダエユーネフ軍作戦図-2

挿絵(By みてみん)



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