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#09 ガバロス退治③

 その2時間ほど前- 


 プリシルは村長の家でマイレィに授乳をしていた。

生後3ヵ月くらいの赤ん坊は、一日に6~8回飲ませなければならないのだ。


 プリシルは、授乳しながらも外の様子が気になるようで、何度も何度もドアまで行って、外の様子を見ていた。しばらくして、マイレィはお腹がいっぱいになったようでスヤスヤとプリシルの腕で眠ってしまった。その様子を見たアンジェリーヌとジョスリーヌが、子守り役を申し出た。


「プリシルさん、マイレィちゃんは私が見てあげるから、戦いの準備するんだったら行ってもいいですよ!」


「そうです、そうです。マイレィちゃん、おネンネしちゃったから私たちでも見れますわ!」


「そう?じゃあ、悪いけど見てもらおうかしら。次にお乳をあげるのは3時間後だから、9時頃ね。そのころまでに片がついていればいいけど!」


そう言いながら、プリシルはアンジェリーヌの腕にマイレィを渡すと、ブレストプレートとヘルメットをもって外に飛び出して行った。


「かっわい~い!」


アンジェリーヌが、マイレィのあまりの可愛さに、そのぷっくりした頬にチュっとキスをした。


すると... 


パチッとマイレィがエメラルド色の目を開け!?


「え?」


おどろいているアンジェリーヌの頬をマイレィは、その小っちゃい指先で突いた。


ビリッ!


「きゃっ!」


痛いような痺れが全身に走り、思わずマイレィを落としそうになった。


「お姉さまっ?!」


ジョスリーヌが慌ててアンジェリーヌの腕を支える。


「ちょ、ちょっと代わって、ジョスリーヌ。なんか気分が少しすぐれないの。風に当たって来るから...」


「はい!」


外に出たアンジェリーヌは、近衛騎兵たちや村人たちが忙しそうに走り回っている村の中をフラフラしながら歩いていたが、何だかすごく寒さを感じた。

あまりの寒さに“焚火でもしよう”と考え、村長の家の裏に回り、そこに落ちていた枯れた枝や枯葉を集めた。しかし、点火器も火打石も持っていない... 



 姉のアンジェリーヌからマイレィを受け取ったジョスリーヌ。

本当は自分が先にマイレィを抱きたかったのだが、やはり姉に優先権を譲るしかなかった。

兄弟・姉妹というものは、常に上の者に優先権があるのだ。

 

だが、アンジェリーヌはマイレィをプリシルから受け取った直後、気分が悪くなったと言って、ジョスリーヌにマイレィを渡して夜風に当たるために外に出てしまった。


“うふふふ。これで私が、この可愛いマイレィちゃんを独占できるわ!”


ジョスリーヌもマイレィが可愛くてしかたがない。

姉がやったように、そっとそのぷっくりしたオデコにチューをした。


「バブ...」


マイレィは、またその小っちゃい指でジョスリーヌの頬をツンと突いた。


 ビリッ!


「キャっ!」


痛いような痺れを全身に感じ、思わずマイレィを落としそうになった。



「ジョスリーヌ王女さまっ! だいじょうぶですか?」


ニコニコ笑ってジョスリーヌがマイレィをあやすのを見ていた村長のおカミさんが飛んできた。


「あ... 何だか 私も 姉上のように 気分がおかしくなりました」


「マイレィちゃんは私にまかせて、アンジェリーヌ王女さまとごいっしょに、少し風に当たってみては?」


「すみません。そうさせていただきます」


マイレィを村長のおカミさんに渡すと、ジョスリーヌも少しふらふらしながらドアから出てった。


「お――、よしよし。今度はあたしが見てあげるよ、マイレィちゃん!」


おカミさんも、愛らしいマイレィを抱きたくてしかたがなかったのだ。

しかし、王女さまたちを差し置いて自分が抱くなんて言えようもなかったので、抱きたくてたまらず、ウズウズする気持ちをかかえながら王女たちを見ていたのだった。


「バブバブ♪」


マイレィはご機嫌でおカミさんの腕に抱かれているが、もう頬を小っちゃな指で突こうとはしなかった... 




 村長の家の裏に火が上がった。


「えええ――――っ、なにっ、この火は―――っ?!」


アンジェリーヌ王女が慌てている。


そこへアンジェリーヌ王女の叫び声を聞きつけて走って来たジョスリーヌ。


「お、お姉さま? どうなさったの、その火は?」


「寒いから枯葉に火をつけたいと思ったら、指先から... 指先から火が出て、こんなになっちゃったのよ!」


そこへ高く燃え上がった火とアンジェリーヌ王女の叫び声を聞いて、ルークとアマンダが駆けつけて来た。近衛騎兵も数人来ている。村人たちも集まって来た。


「アンジェリーヌ王女、危ないから下がって!」


「水だ、水を早く持って来い!」


近衛騎兵が村人に叫んでいる。


 パチパチッ!


何かがはじけて、火の粉がアンジェリーヌ王女のドレスに付き、ドレスに火が移った!


「お姉さまっ、火が、火が! 水っ、誰か水を――っ!」


ジョスリーヌが叫ぶ。


「水―――っ!」


何も出来ないのはわかっているが、水があればと心から願った。


ジャバ――――――っ


水が出た。


「え? ええええ――――???」


水はジョスリーヌの手に先から出ている。

ジョスリーヌが手をふりまわすと、手の先から勢いよく出る水が村人たちに、近衛騎兵にかかり水びたしにした。


「ジョスリーヌ、アンジェリーヌにかけるのよ―――っ!」


アマンダの指示にしたがって、アンジェリーヌに消防ホースのように水を浴びせた… 


ドバ――――ッ!


消防隊の消火ホースのように、大量の水がアンジェリーヌに勢いよくかかった。


 .........

 .........

 .........



 半時後、村長の家の奥の部屋で侍女に手伝ってもらって、濡れた服を着替えたアンジェリーヌとジョスリーヌ。アンジェリーヌの場合、幸い、火で燃えたのはドレスだけだったのだが、ジョスリーヌは放水を続けたせいで、やはり全身が濡れてしまった。


 その間中、アマンダとプリシルからアンジェリーヌとジョスリーヌは尋問された。

いや、尋問という言葉は適切ではないが、根掘り葉掘り「何が起こったのか」を訊かれたのだ。

ただしくは、王女たちが着替えをしている間に、ルークが部屋の外からアマンダとプリシルを通して訊かせたのだが。


 そして、わかったことは― 


どうやら、アンジェリーヌとジョスリーヌは、()()()()()()()らしいということだった。


「「えええええ―――――っ!!!」」


せっかく、新しいドレスを着たばかりだと言うのに、美しい王女姉妹はハデにズッコケた。







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