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#3‐16 北方戦線―ガルンロムの戦い③

 ナエリンダン侯爵軍のカタパルトによる攻撃で、ダエユーネフ軍のカタパルト部隊は壊滅的な損害を受けた。残っているのはわずか5台ほどだが、これも修復が必要だった。


 歩兵部隊の損害も大きく、3千人以上が戦死し、4千人が負傷した。もっとも、この中には混乱に陥って逃げて来る兵たちに押し倒されたり、踏みつけられたりして怪我をした兵も大勢いたのだが。



「一体、あの爆発したモノは何だったのだ?」

クルトネー司令官は自分のテントの中で作戦会議をひらいていた。

結局、ダエユーネフ軍は5キロほど後退して、そこに野営陣地を築くことにした。

「戦死者や負傷者を調べましたところ、どうやらあの(タル)には小石が詰まっていたようです」

一人の貴族が報告する。


「しかし、何であのような耳が潰れるような爆発を起こすのかね、タジネット伯爵?」

「たぶん、あれは火薬と言うものでしょう」

「火薬?そう言えば、ドゥゾーザ厩役伯爵が、わが国でも火薬とかいうものを研究していると言っておったな!」

「わたくしもそれは聞きました」

「火薬とそれを使った兵器の開発では、東ディアローム帝国がかなり進んでいると聞いております」


「アンジルム侯爵、その情報はどこで入手したのかね?」

「東ディアローム帝国では著名な錬金術師たちを集めて、強力な火薬を製造しようとしていると帝国にいる友人から聞きました」

「おお。ハンチンダン公爵からか?」

「はい」

「そう言えば、貴公のご息女はハンチンダン公爵殿のご子息に嫁がれておりましたな?」

「マノロル子爵です」

「そうそう。そうであった!」



挿絵(By みてみん)



話題が本題から外れようとしているのに気づいたタジネット伯爵が、司令官の方を見て提言をした。


「クルトネー辺境伯殿、いっそ、ガルンロム要塞を迂回して南下してはどうですか?」

「そういうわけにはいかん。この要塞にいるのはわずか4万のエルフ兵であろう? そんなことをすれば、わずか4万のエルフが怖くて遠回りしたと物笑いの種になるだけだ!」

「それに敵の騎兵の襲撃を受ける可能性も高い...」

それまで寡黙だったプルウズ伯爵が口を開いた。

彼の兵の多くは、敵陣の裏から攻撃をかけるべく、ガルンロム要塞の東端から山越えをしようとして多数の戦死者を出した馬族だ。


「私は5千人以上の兵を失っております...」

「ワシは6千人じゃ! メェ!」

同じく、ガルンロム要塞の西端から山越えをさせようとして、多くのヤギ族兵を失ったガブリット伯爵が忌々しそうに言う。


「うむ... プルウズ伯爵の兵たちもガブリット伯爵の兵たちも大へん勇敢であった...」

クルトネー司令官が慰めるように言った。

 ......... 

 ......... 



しばしの沈黙のあとで司令官は重々しく口を開いた。


「明日は総攻撃をかける。諸君も栄えあるダエユーネフ軍の貴族として、勇ましく戦ってくれたまえ!」

「わかりました」

「了解した」

「わかった!」

「司令官はクルトネー殿ですからな!メェ」

ガブリット伯爵がしかたないといった感じで返事をする。


「それでは、明日の総攻撃の作戦を練ることにしましょう!」

クルトネー辺境伯の参謀役のようなタジネット伯爵が会議を進める。

「見ての通り、敵の本陣の左右と真下には小規模な砦がある。よって真正面からの攻撃は避けて、この左右から攻撃することを提案したい」

「どちらにしても、かなりの傾斜だ。ここは...」

「うむ。カモシカ族兵しかいないだろうな。急な斜面を走って登れるのは!」

クルトネー辺境伯が紙に描かれた地図を指さしながら言う。

「ここらへんとここらへんですね?」

「うむ。そうだ」

アンジルム侯爵が地図に赤チョークで攻撃ルートを書き込む。



挿絵(By みてみん)



 その時―


ド―――ン… 


遠くで爆発音がした。


ビリビリビリ... 


爆発による空気の震えが伝わって来て、テーブルの上に置かれたコップの水が震える。


「な、なんだっ?!」

「夜襲か?!」

「夜襲だ!」

「こんな時間に?」


一人が懐中時計をチョッキのポケットから取り出して見る。


「午後10時を過ぎているぞ?」


貴族たちが色めきだつ。


野営地のテントで寝ていた兵たちが飛び起きて騒ぎはじめている。


「敵襲だ―――っ!」

「敵の攻撃だ―――っ!」

「ぐずぐずするな――っ!武器をとれ――っ!」

「敵はどこだ――?」

野営地は大混乱になった。


ワーワーワーワーと騒いでいるのはダエユーネフ軍の将兵たちだけだ。



「落ち着け―――っ!落ち着け――っ!」

「敵がどこから攻めて来ているか確認しろ――っ!」

「騒ぐな――っ!落ち着け――っ!」


ベテランの士官や下士官たちが兵たちを怒鳴りつけ、騒ぎを静める。

大騒ぎの中で、情報を集めて見ると― 敵の襲撃ではなかったことが判明した。


「敵襲ではありませんでした」

「どこにも敵は見当たりません!」

「被害はありません!」


次々と士官や騎士たちが報告しにやって来る。


「嫌がらせか!」

クルトネー辺境伯が吐き捨てるように言う。


「たぶん... 今晩はゆっくりと休むこともできそうにありませんね...」

タジネット伯爵の予言は的中した。


その夜、ダエユーネフ軍の兵士たちは、ほとんど一睡もすることができなかった。




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