#3‐15 北方戦線ーガルンロムの戦い②
ガルンロム要塞から発射されたバリスタの矢は火炎瓶だった。
たちまち燃え広がる油は、盾の間から下へ燃えながら落ちて、カタパルトを引っ張っていた牛族兵たちを火だるまにした。
「ムオ――!」
「モ――!」
「モモモ――!」
「ムモ――!」
転げまわる牛族兵たち。
「クルトネー司令官殿っ、カタパルトが!...」
「わかっとる!弓兵、前へ――!」
「はっ!」
「弓兵部隊、前へ――っ!」
命令が伝えられ、ロバ族弓兵部隊が軍団の最前列に出る。
「弓部隊っ、前進――っ!」
弓部隊の指揮官の号令で、ガルンロム要塞を射程距離に入れる距離まで弓兵部隊が横隊で前進する。
もう少しで有効射程距離に入る... ロバ族の弓兵たちが思った時―
ザザザザザザ――――――
ザザザザザザ――――――
ザザザザザザ――――――
ガルンロム要塞から矢の雨が降って来た。
要塞の第一防護壁越しに射って来るのだが、敵の方が高い位置にいるので射程が長い。
味方の弓兵たちが矢を射れる距離に達する前に先制攻撃を受けたのだ。
「引け――っ、引け――っ!」
ダエユーネフ軍の弓兵部隊は総崩れになる。
「なんとかカタパルトを有効射程距離の位置にまで行かせろ!」
「はっ!」
司令官の命令で、バリスタからの火炎瓶攻撃で何十人、何百人という兵が火だるまになりながらも、次々に交代をさせて、ようやく有効射程距離の位置にまで達した。
カタパルトの中には、火炎瓶攻撃がもろに当たって燃え始めているのもあり、ダエユーネフ兵たちが必死になって土をかけたり、葉のついた枝で消そうとしている。
「ぐずぐずするな!早くカタパルト攻撃を始めさせろ!」
このままではカタパルトが全滅してしまうと焦ったクルトネー司令官が怒鳴る。
「カタパルトを引っ張る兵士を増やせ――!」
司令官からの命令を伝令下士官がカタパルト部隊の指揮官に伝える。
バリスタの火炎瓶攻撃が続く中で、引っ張ていた牛族兵士たちが次々に火に包まれて転げまわるが、それを超す新たな牛族兵がカタパルトを引き、押し、発射位置にようやく達した。
「カタパルト、用意――っ!」
自らもカタパルトを引っ張って、滝のように顔に流れる汗を拭きもせずに、カタパルト部隊の指揮官が号令する。
ガラガラガラ...
バリスタ攻撃の中、牛族兵たちが錘のついたアームを巻き上げる。
錘が先端についたアームが最大角まで上げられる。
「装填!」
カタパルト長の号令でスリングに80キロほどの石が置かれる。
「攻撃開始!」
カタパルト部隊長が叫ぶ。
「撃て――っ!」
カタパルト長が叫ぶと、留め金が外され―
ビュ――――ン......
小石を投げたかのように80キロもの石が平衡錘が落ちる反動で飛び出して行き、敵の要塞目がけて飛んで行く。
ビュ――――ン...... ビュ――――ン......
ビュ――――ン...... ビュ――――ン......
ビュ――――ン...... ビュ――――ン......
ほかのカタパルトからも次々と大きな石が飛ばされるのが見える。
敵陣に吸い込まれるように落ちて行く石。
だが、ガルンロム山の稜線にある要塞にはまだ遠い。
せいぜい、敵の第一防護壁あたりに落下している程度だ。
「カタパルト―っ、前進―――っ!」
カタパルト部隊長が叫ぶ。
「撃ち方止め――っ!カタパルト、前進! 全員で引っ張れ―――っ!」
部隊長の命令を聞いたカタパルト長が命令する。
わらわらと牛族兵たちが地面に落ちていたロープにとりつき、引っ張りはじめる。
敵はバリスタの矢が尽きたのか、攻撃しなくなった。
「敵は怖気づいているぞ――っ!引っ張れ――っ、もっと早く――っ!」
「あと100メートルだ――っ!」
「あと80メートルだ――っ!」
さらに敵の第一防護壁に近づく。
その時、敵陣の第四防護壁の後方に何かがそそり立った。
次々とそそり立つモノを見たとき、クルトネー司令官は顔色を変えた。
「あ...あれは、敵のカタパルトではないか?」
「た、たしかにカタパルトです。ざっと見ただけでも百以上あります!」
司令官のそばにいた貴族が茫然とした表情で言う。
ガルンロム山の山頂にある敵の本陣の監視塔に赤い旗が上げられた。
すると、敵のカタパルトが一斉にアームをふり下ろすのが見えた。
これが敵のカタパルトでなかったら、それは何とも秩序だった美しいものだった。
だが―
百以上もあるカタパルトは敵のものであり、それらのカタパルトから飛ばされた石は、わが軍めがけて飛んで来た!
ビュウウウウウウウ――………
ビュウウウウウウウ――………
ビュウウウウウウウ――………
空気を切り裂いて飛んで来るモノは石ではなかった。
それは大きな樽だった?!
そして...
樽は地面に落ちる前に爆発した!
ド―――ン!...
「ギャア!」「ブモゥ!」「ギイっ!」
「ガアッ!」「ギャアア!」「ゲガッ!」
たちまち血だらけになって倒れるダエユーネフ軍の兵たち。
ドド―――ン...
ドドドド―――ン...
ドドドドドドドドドド―――ン...
ドドドドドドドドドドドドドドドドドド―――ン...
カタパルト部隊を含む、ダエユーネフ軍の前衛部隊、その後ろの主力軍の前方までもが敵の攻撃にさらされ、凄まじい阿鼻叫喚地獄が生じた。
「な、なんだ? あの爆発は?!」
あまりの驚きに椅子から転げ落ちたクルトネー司令官が、そばにいた貴族たちに助けられて起き上がりながら訊く。
「わかりません、とにかく前衛部隊と主力軍の前方部隊を後退させましょう...」
司令官の参謀役みたいな貴族が提言したが―
その必要はなかった。
前衛部隊もその後ろにいた主力軍の歩兵部隊も、われ先にと走って後方に向かって逃げて来ており、ダエユーネフ軍は大混乱となった。




