#3‐10 五国同盟⑤
ルークはドンゴ・ロス王と交渉して、ルークドゥル勇者王国にドワーフの鍛冶職人と鉱山技師を派遣してくれるようにたのんだ。
鉱山業を振興させ、製鉄産業を強くしなければ、武器の自給自足もできないし、何より工業の発達もないのだ。鉄を大量生産し、やがては鋼鉄を作るのだ。鉄を制する者は世界を制するのだ。
そして、その第一陣の200名のドワーフたちが、秘密保持のために目かくしをされて│通り道を通ってやって来た。
ドワーフ技術団の団長はジンゴロという名前の叩き上げの職人だった。
もちろん、ドヴェルグ国ではかなり有名なドワーフ職人で、鉱山開発や製鉄業に何十年もたずさわって来たベテランで、ドヴェルグ国でも一目も二目も置かれている者だとジロタレーパ侯爵が話していたドワーフだ。
ジンゴロの多大なる貢献に対してドンゴ・ロス王は貴族の称号をあたえようとしたが、「そんなもんもらっちゃあ、坑道にも入れてくれなくなるし、剣も打てなくなる!」と言って断ったとか。
「ジンゴロ団長、それにドワーフのみなさん、ようこそルークドゥル勇者王国へお越しくださいました。わざわざ遠くまで来ていただいたのに、目かくしをして申し訳ない。すでにドヴェルグ国で聴いているとは思いますが、目かくしはどうやってこんな遠い国へ来たかを誰にも知られないためです」
ルークは、わざわざ城内の広場までドワーフ技術団を迎えに行ってあいさつをした。
「おう。ルーク王さん、そんなことはわかっている。ワシらは働ける場所があれば、そして働きに相応した賃金を払ってもらえるんであれば、どこへだって行くぜ? それに、家族も連れて来ていいという好条件だしな!」
ルークはドワーフ職人たちのために、ルークタラス市から10キロほど離れたところをドワーフ区として用意させた。彼の計画では、最終的には1万人ほどのドワーフが移り住むことになるので、その方がドワーフたちも住み安いだろうと考えたのだ。
町建設では、すでに実績のあるガバロスたちを、これも│通り道で連れて来て、ルークヘルムのプロジェクトをベースに『ドワーフヘルム』と名付けることになった町を6ヶ月で作り上げた。
町と言っても、土の道路が数本走り、それにそって家が建てられるだけなのだが、ルークヘルム同様、上下水が完備された。
ジンゴロたちは、到着してから一週間ほど色々とルークたちと話し合い検討を行ってから、それぞれ雇われた役目を果たすべく目的地を目指して出発することになった。
派遣ドワーフたちは大きく二つのグループに分かれた。鉱山グループと製鉄グループだ。
鉱山グループはルーク国の地図とすでに鉱山事業をやってた貴族たちなどの情報を元に、すでに知られている鉱山では埋蔵量を確認するために、そして新たな鉱脈を探すために数人ずつの小グループに分かれ、食料や必需品を満載した馬車に乗ってドワーフヘルムから出発して行った。
一方、製鉄グループは高炉の建設にとりかかった。
鉄は、石を積んだだけの炉でも鉄鉱石をから半固体状に溶けた鉄を取り出し、鍛冶職人が鍛えれば鉄製器具を作れる。古において鉄製器具はそうやって作られた。しかし、この方法では鉄は低温であるため鋳造には向いてない。その問題を解消したのが高炉で、高温により鉄鉱石を完全に溶解させ、液状にした銑鉄は、鋳型に流し込んで自由な形に造型することができるのだ。
ジンゴロ親方― ドワーフ職人たちからはそう呼ばれていたのでルークたちもそう呼ぶようになった― の設計と陣頭指揮で高さ10メートルの高炉の建設にとりかかった。
ルークドゥル国― 元マビンハミアン国と元ブレストピア国で使われていた高炉は、せいぜい5メートルにも満たない製鉄能力の低いものだった。
「この高炉は一日8トン以上の鉄を製造できますぜ。ルーク王さんよ! この高炉の特徴は、でっかいフイゴを水車の動力で回すことでさ!」
手書きで設計図を描きながら、興味深そうに見ているルークに説明した。
「ほう... 水車でか?」
「そうだ。だから、高炉を建てる候補地は... このあたりとこのへんだろうな。王都の近くでは」
ジンゴロはそう言って、王都の南を流れる大きな川の上流に近いところを数点指先で示した。
「いずれも山の近くだな。製鉄には木が必要と言うから、森の近くが都合がいいのだな?」
「まあ、初めの頃は森の木を切って使いますがね。あんまり鉄を作りすぎると、山が禿山になって大変なことになるんでさ!」
ジンゴロは、本格的に稼働が始まったら、石炭を使うと説明した。
なので、鉱山グループの役目は、鉱脈発見の外に石炭鉱床の発見も大事な仕事だと言った。
ジンゴロと話した後で、ルークはモモコ大王とアマンダ、プリシルを連れてソントンプ研究所へ向かった。
ガバロス親衛隊に護衛された馬車が研究所に着き、屈強な警備員がルーク王であることを確認してから、重い鉄の扉を開く。
馬車が研究所の敷地に入り、ルークたちが研究所に入ると、トムズークルがまた乱れた髪でズボンのベルトを閉めながら走って来た。
「ルークさん? ミシンの改良版は来週に完成すると... それから、あの石炭を使うヤツはまだ設計中で...」
「いや、今日はミシンじゃない。足踏み式ミシンが期限内に完成することは知っている。石炭のことでもない。いいから、早くメリッサのところにもどってあげなさい」
ルークはトムズークルの研究室のドアが少し開けられ、そこからシーツに包まったメリッサがのぞいているのを見てトムズークルに言った。
「はい!それじゃあ、失礼してメリッサと研究を続けますっ!」
トムズークルがよろこんで自分の研究室に走って行くのを見てアマンダがつぶやいた。
「やれやれ... 若い夫婦の共同研究って、何の研究だか想像がつくわね!」
「ふむ。それはいい口実だな? ルーク、私たちの研究室も...」
「そんなのは作らない!」
「...... そうか」
モモコは少し気落ちしたようだったが、ルークと腕を組んで歩いていた姿勢を変え、豊かな胸をギュウギュウ押しつけて来た?!
「ルークさま...」
「なんだ、プリシル?」
「ルークさまのお部屋でモモコと共同研究をなさったら?」
「ん?」
「そうですわ、ルークさま。バラキ師匠とトゥンシー大先生には私たちが説明をしていますので...」
アマンダも勧めてくれるし、モモコはグイグイと潰れるほど押しつけてくるし―
「では、ちょっと時間をくれるか?」
「「はい」」
「ちょっとではないぞ。たっぷりとだぞ?」
モモコ大王とは、目下、蜜月中なのだ。要求には応えてやらねばならないだろう。
ルークはアマンダたちと分かれて、研究所内にある王の部屋に入った。
しばらくしてから、満足して眠ってしまったモモコ大王を部屋に残して、ルークはバラキ師匠の研究室に向かった。バラキ師匠は魔法陣の権威で、ラーシャアグロス王国に創設された『科学・魔法研究所』で研究をしていたのだが、トンシートゥンシー大先生の研究所の方が魔法陣関連の資料も多いということと、神の盤の原盤もソントンプ研究所にあるということで、ずーっとこちらで研究をしているのだ。
バラキ師匠のほかにも、『科学・魔法研究所』からは錬金術学者のアマンジャクと妻のヤッセー、数学者アギュルック、それに元ブレストピア国の数学者であったラジョーや若手研究家のキンキ、フウキ、スイキたちもいるので、かなり賑やかになっている。
バラキ師匠の研究室には、彼のほかにアマンジャク、アギュルック、ラジョー、そしてキンキ、フウキ、スイキたち三兄弟がいた。
彼らはテーブルの上に置かれた黒いガラス玉のようなモノを見ていた。
その黒い玉の直径は10センチほどで、赤いビロードの布の上に置かれており、その横には少し直径が小さく、4ヶ所に留め金らしい爪がついた中央がへこんでいるいる玉の台らしいモノがある。
「フム... たしかに、これはかなり高度な魔法陣であることは確かですな...」
バラキ師匠はそう言って、台に描かれている複雑な模様を見て、それからビロードで包んでゆっくりと玉を持ち上げ、玉の底に端子のようなピン状のモノがいくつかあるのを確認した。
「これが、魔法式遠隔伝達器とか言うモノで、遠方に音とその場の光景を送ることが出来るとは... これを作った者は、まさに天才じゃな!」
トゥンシー大先生も溜息まじりに言う。
「こんなモノは見たことがありませんわ!」
女性の声にふり返ると、そこにはユーカワとデュリアがいた。
アマンダ王妃とプリシル王妃が、めずらしいモノを持って来たという話を聞いてやって来たのだろう。
ユーカワの専門は錬金術で、その妻の専門はデュリア金属学と薬品学だ。
「これは、元の世界で作られたもので、魔法式遠隔伝達器― 通称“マデンキ”と呼ばれていたものです。残念ながら一つしか持って来てないので、通信しているところを見せることはできないのですが...」
「ああ。それはアマンダさんとプリシルさんから先ほどお聞きしました。それで、ルーク王は、これと同じモノを作って欲しいわけですね?」
「そうです。難しいですか?」
「いえ。見本があるのですから難しくはありません。ただ、分解する必要がありますな...」
「それは、もちろん構いません」
魔法式遠隔伝達器― 通称“マデンキ”― 名前の通り、魔法の力で通信する装置だ。
ドコデモボードとマデンキがあれば、世界征服も夢ではない。まあ、ルークにはそれほど簡単にテルースの世界の攻略をすましてしまうつもりはないのだが。
「あ、ルーク王さま、例のおクスリの試作品ができましたわ!」
ルークを見てデュリアが報告する。
「え? もう出来たのですか?」
「はい。何でも見本があれば至って簡単に作れますの。とくにおクスリは」
「で、どちらが出来たのですか?」
「殿方用と奥方用の二つとも。奥方用は効果を見るのに少し時間はかかりますけど、殿方用のは... スゴイ効力でしたわ!」
そう言ってデュリアは夫のユーカワの顔を見てポッと顔を赤らめた。
「そ、そうですね。オトコ用のは、もうスゴイの何のって... あ、王妃さまたちがいらっしゃる前で失礼しました」
「なにが、“オトコ用はスゴイ”んだって?!」
ドアの方から大声が聞こえ、そこには乱れた青い髪とシャツだけを着たモモコ大王がいた!




