#3‐09 五国同盟④
今回のドヴェルグ国訪問では、トゥンシー大先生とソントンプ研究所の研究者たちが試作したドコデモボードが使われた。
神の盤にせよ、そのコピー版であるドコデモボードにせよ、経度と緯度を設定してから魔力をこめて作動させ│通り道を開けるのだが、複雑な設定版が何枚も重なっている神の盤のコピーを作るのは、当然、たいへんな労力と時間がかかる。それに神の盤は“秘密兵器”であるため、東ディアローム帝国側に盗まれないように厳重な管理をしなければならない。
そこで、トゥンシー大先生と研究所のスタッフは、“神の盤”の簡略バージョンと言えるものを作ったのだ。それは、制作が簡単な銅板に、│通り道を開けれるポイントを限定したコピー版を作ったのだ。
ドヴェルグ王国にはその簡略版ドコデモボードで飛び、ドヴェルグ王国にも西ディアローム帝国、ラーシャアグロス王国、ルークドゥル勇者王国、ボードニアン王国だけのみ飛べる簡略版が後ほど送られることになった。
ドンゴ・ロス王をはじめ、ドワーフたちは“神の盤”のことをルークから知らされて驚いた。
それもそうだ。思うところに行けるというのは、敵の司令部に少数の兵を送りこみ、司令官を倒し、敵の指揮系統を滅茶苦茶にすることも可能だし、東ディアローム帝国の帝都ゾドアンスロプルに刺客を送り込み、 ゾドアンスロゥプ皇帝を殺害することさえ可能となるのだ。
ただ、唯一のネックは、ドコデモボードにせよ、セヴァラルボードにせよ、起動するにはかなりの魔力を必要とすることだった。そして、それが出来るのはアンジェリーヌ、ジョスリーヌ、ミカエラとアイフィたち魔術師だけだった。
魔術師は、その能力によっては、数十人の兵にも優る攻撃能力をもっているため、各国とも優れた魔術師を所有しているので、ドコデモボードが敵に盗まれれば使われるのは確実だ。
敵に盗まれないようにすることも重要だが、神の盤に刻まれている記号は『神聖アールヴ文字』という、古代の経典にしか使われていない文字であり、エテルナール教の原典が読めるくらいでなければ解読できないというコンプレクシティーがあることも秘密保持に役立つのだが。
神の盤の存在を知った時、モモコ大王などは、すぐにでも特攻隊をゾドアンスロプルに送り込み、ゾドアンスロゥプ皇帝を殺すことを提案したのだが、ルークは反対した。
“そんなに簡単にラスボスを攻略したら、面白くないだろ?”というのが彼の考えだった。
だが、モモコ大王には別の理由で説得した。
「いや、│通り道をゾドアンスロプルまで開けて、もし、万一、私の妻の誰か一人でもゾドアンスロゥプ皇帝の親衛隊か魔術師に殺されでもしたら、取り返しのつかないことになる」
「うむ... それもそうだな。その妻が私である可能性もあるからな...」
モモコ大王は納得してくれ、その件についてはドリアン皇帝にもドンゴ・ロス王にも、 オルガス王にも伝え、了承してもらった。
ルークは、 セヴァラルボードを使って、ソントンプ研究所に到着した。
研究所の施設も拡充が必要になったので、元マビンハミアン国王が王都内に所有していた大きな邸宅― 宮殿と言っても差しつかえない規模だ― に移転させていた。
トゥンシー大先生とスタッフたちに一言あいさつをしてと思って研究所の建物に入ると、 ルークたちが到着したのに気づいた者が知らせたのだろう、トムズークルがバサバサ髪で、ズボンにシャツの裾を慌てていれながら走って来た。
「ルークさん、ミシンの試作品が完成しているんですよ。見て行きませんか?」
手で髪を直しながらニコニコ顔で報告する。
「おっ!とうとう出来たか?」
「はい。あの下部の回転するところの構造が結構難しかったけどね!」
「ルークさま、私たちは先にお城に帰っています」
アマンダが、モモコを早くルークタラス城に連れて行きたいらしく、ルークに知らせてから馬車を出させる。
研究所に残ることになったのは、プリシルとアンジェリーヌ、フィフィとリエルとエリゼッテの5人だ。
プリシルとアンジェリーヌはミシンの試作品を見るために残ったのだが、リエルはエリゼッテがルークと離れたくないとダダをこねたので妹といっしょに残ったのだ。
そしてフィフィは年が近いからか、何だかとても気が合うらしく、リエルが残るというので彼女も残ったらしい。
廊下を先に行くトムズークルのあとをついて、彼の研究室に入る。
「トムっ? キャア――!」
研究室の隅にベッドがあり、そこには一糸まとわないメリッサがいた!
慌ててシーツを巻きつけるトムズークルの若奥さん。
研究所で朝早くから夜遅くまで研究に没頭し、自分の家に帰って寝る暇も惜しいというのはわかるが... 奥さんとイチャイチャやるためにベッドを置いているのでは本末転倒だ?
ルークとプリシルとアンジェリーヌはヤレヤレと言う顔をしてトムズークルとメリッサを見ていたが、フィフィとリエルは興味津々の目で二人を交互に見ている。
「え―――っ? ここは研究室――? それとも、子どもを作る部屋なの――?」
エリゼッテが、さすがに12歳あるだけあって、トムズークルとメリッサが何をやっていたかを察して、率直な疑問を口にした。
「両方だよ、カワイ子ちゃん!」
トムズークルが得意そうに胸を張って言う。
「トムっ、なにを子どもに教えているのっ?」
メリッサが真っ赤になってトムズークルに食ってかかる。
「子どもじゃないわ!もう12歳よ!」
かなり成長している胸を張って言うエリゼッテ。
「まあ、自分の研究室なんだから、ベッドを置こうが、シンクを置こうが構わないし、研究の結果さえ出すことができるのなら、サボテンを育てようが、子作りに励もうが構わないんだが... ミシンの試作品はこれかい?」
ルークがゴタゴタと部品やら工具やらがところ狭しと並べられているカウンターテーブルにある、黒っぽい機械を指さした。
「ええ、それです!よくひと目見ただけでわかりましたね?」
メリッサが服を着るのを手伝ってあげながら、トムズークルは答える。
「ルークさんから助言をもらってなければ、上の針からの糸を下から止めることは出来ませんでしたよ!このミシンという機械のヒミツは、この下の部分が回転し、上からの糸に輪を作って、下糸と絡めることで縫うことができるんですよ!」
アンジェリーヌがトムズークルに代わってメリッサが着るのを手伝い、トムはミシンのハンドルをゆっくりと回しながら、2枚の布が縫われて行く様子をルークたちに見せる。
「す... すごいわ! これなら、お針子さん5人分の仕事はできるわ!」
プリシルが驚いている。
「いえ、ハンドルを早く回すと、さらに早く縫えますよ?たぶん、お針子さん100人分の仕事をこなせるんじゃないかな...」
「ひゃ、100人分?!」
アンジェリーヌもメリッサの髪を梳かしてあげながら驚いている。
「よし!じゃあ、来週からルークタラス市にやって来ることになっているドワーフたちの最初の仕事はミシンの生産だ!」
「ルークさん、オレの発明、気に入っていただけましたか?」
「上出来だ!臨時手当を... そうだな、金貨100枚出そう!」
「「ええええ――――っ!金貨100枚!?」」
トムズークルとメリッサがハモった。
「さあ、邪魔者は消えるから、またメリッサとがんばったらいい!」
そう言い残して、ルークは研究室から出た。
研究室の中でトムズークルとメリッサが喜びのあまり飛びあがっている音が聴こえたが…
すぐ、それはチューの音に代わった。
エリゼッテが後ろをふり向いて凝視していたが... 最後に部屋を出たアンジェリーヌがバタンとドアを閉めた。
「あ... コーガクのために、どんなことをするか見ていたのに!」
「なに、おませなこと言っているの? 知りたかったらリエルお姉さんから聞きなさい!」
アンジェリーヌに言われて「ちぇェっ!」と舌打ちするエリゼッテ。
「ちょ、ちょっと、アンジェリーヌ、何で私が教えてあげなきゃならないの?」
「あら、あなたの妹じゃない? それに、その娘、たぶん、もうボードニアン王国には当分の間、帰らないわよ?」
「ええっ?そ、そうなの、エリゼッテ?」
「うん。ルークお義兄さまといっしょに暮らすことに決めたの!」
「い、いっしょに暮らすって... 勉強とか習い事とかはどうするつもりなの?」
「お母様がもうルークお義兄さまにお話して、ご了解をいただいているからダイジョウブ!」
「え......?!」
リエルも年の割にはかなりおませで賢い少女だが、エリゼッテはどうやらその姉を上回るようだ。
プリシルもアンジェリーヌも内心驚いて姉妹の会話を聞いていた。
フィフィだけが、我関知せずといった感じでリエルと手をつないで歩いている。
とっとっと...
エリゼッテは小走りでルークに追いつくと、その手をにぎっていっしょに歩きはじめた。
ごく普通のカップルのように!?




