#3‐02 日就月将②
ルークドゥル勇者王国の農業政策を推進しているのは、農園の農夫頭だったゲラルドだ。
若いが責任感があり、頭も切れるゲラルドは、ルークの下で1年間働き、儲かる農業と畜産業をしっかり覚え、農園経営を軌道に乗せるという大きな役割を果たし、支配人に昇格した。
そして勇者王国が創立された時に、ルークは彼を農業・漁業・工業大臣として招聘したのだ。
ゲラルドは才能があり、信頼できる犬族だった。確証はないが、ルークはゲラルドは前の世界で魔王だった彼の忠実な副官だった魔族だと思っている。
ゲラルドはミタン王国でルークがバーボン王からもらった別邸でチーフメイドだったイクゼルといっしょになり、つい半年ほど前子どもも生まれたこともあって、張り切って大臣の仕事に取り組んでいる。
農地改革で国有となった耕作地の管理は、元の領主たちに任せ、そこから上がった利益のうちから管理者である貴族の収入が得られるシステムにした。
つまり、元領主たちは、耕作地で利益を上げるべく努力をしなければ自分の生活も脅かされるということになったのだ。
ミタン国に所有する農園やルークヘルムなどでルークが採用した灌漑システムと肥料を組み合わせた高収穫の農業システム計画の実施は、国全体が対象となるため、農園のスケールとは比べものにならないほど複雑で大がかりなプロジェクトとなる。
灌漑もただ水路を引くだけ― これも大変な事業なのだが― ではダメなのだ。そのわけは、テルースの世界でほとんどの住民が主食としているのが、パンとアベナ麦の粥、それにソラナム芋であり、これらの食料の原料は米と違って水田で作られないので、ただ畑に水を引いておけばいいというわけにはいかないのだ。
ルークの農園では、水車を利用したポンプで川の水を農園内にある山の上に作った貯水池に貯め、そこから畑に接合部をニカワでくっつけた竹筒で水を引き、これも竹で作ったスプリンクラーで散水していた。
しかし、竹は耐久性が短くもろい。かと言って、塩ビパイプとかアルミパイプとかステンレスパイプなどはまだ作られてないので、鋳造パイプを利用することにした。強度的にも重量的にも鍛造パイプの方が鋳造より強く、軽いのだが、残念ながら製鉄技術はまだそこまで発達してない。
鋳造パイプの開発は、もちろん、西ディアローム帝国の『帝国研究所』とラーシャアグロス王国の『科学・魔法研究所』、それに勇者王国の『ソントンプ研究所』の共同研究だ。すでに鉄製の武器などの製造技術はあるのだから、鋳造製品を作るのはそれほど難しくはないだろう。
鋳造技術が進歩すれば、当然の帰結として銃砲の発明に繋がるが、遅かれ早かれどこの世界であれ、銃砲と火薬の発明と使用は避けられない。
とりあえず、鋳造性灌漑用パイプの大量生産体制が整うまで、土管を利用することにして、散水部分だけを竹筒パイプによるドリップ灌漑方式と竹製スプリンクラー式灌漑方式を実施することにして、水車による揚水システムの建造を急がせた。
灌漑設備の拡充と同時に、農作物の成長と収穫量を増やすためにに欠かせない肥料の生産にも力を入れた。植物性肥料としてはアブラナの油粕、刈敷、草木灰を使用し、動物性肥料は、魚粕、鶏糞、牛馬糞、厩肥、下肥、堆肥の使用を推奨させた。動物性肥料は窒素やリン酸、カリウム、アミノ酸などが豊富であるので化学肥料の代わりになる― 化学肥料などはまだないのだ― ので、これらの有機肥料を効率よく使って生産性を上げるのだ。
下肥の利用に関しては、すでにルークヘルムで大規模利用の実績がある。
勇者王国の市民は下肥を農作物に利用すると聞いて驚いたが、通りにぶちまけたり、川に流したりするより衛生的だし、悪臭もない。
問題は下肥回収システムの構築だ。下水用の土管を地中― 主に通りの下に埋め、それで各家庭からでる生活排水と糞尿を処理場まで運び、そこで発酵させるのだが、この発酵過程が重要で、この時温度は70度まで上がり、高温と低酸素のため蛔虫の卵などは死滅してしまう。
ただ、まったく何もないところに土管を配管するというのはとてつもない労力と経費がかかるため、土管工事が終わるまで、当分の間は糞尿貯め用の瓶を配布して、人力で(馬車などを利用して)回収させることにした。
ルークが農業、縫製業、製鉄業― 当分の間は鋳造がメーンだが― などと並んで注目しているのが石油事業だ。すでに地面から出る“黒い油”としてテルースの世界の者たちに知られている石油だが、まだ精製技術が確立されてないため、“火がつくと危険なやっかいな黒い油”という認識しかない。
石油(原油)を沸点によって重油から石油ガスまで生産できるシステムを構築するよう、研究所の若手研究者たちに課題をあたえた。
科学技術の研究開発と同時に、ルークは高等教育にも投資し、ルークタラス王立大学を創立した。
建物は、東ディアローム帝国に亡命したアンドゥイン皇帝の親族が王都に所有していた壮大な建物を利用することにした。創立にあたっては、ドリアン皇帝やモモコ大王にも協力してもらい、優秀な教授陣をそろえた。
常備軍を保有し、さまざまな国家プロジェクトを実施するのは、とてつもなく金を使うが、投資面ではドジョーネル王、ナンシーネ王妃という強力なスポンサーがいるので心配はなかった― というか、このドワーヴァリの族長夫妻、かなりの資産家なのだ!
常備軍の維持費や勇者王国の維持費―とくに人件費などは、勇者王国が大部分を占領した元ブレストピア国と元マビハミアン国から得られる税収でまかなうことが出来るのが大きかった。
とにかく、一国を治めるというのは、かなり金がかかるし、解決しなければならない課題も山積しているのだ。
ルーク王にとって、もっとも助かったのは、やはり“信頼”と“魅了”の二大スキルで、これがなかったら恐らく元ブレストピア国でも元マビンハミアン国でも貴族たちの反乱が起こっていただろう。
…… ◇ …… ◇ ……◇ ……
ルークの12番目の妻となるアレクサンドラは、コロシアムにおける武闘会で、アマンダに突進しようとしていた体重2千キロを超すサイ族の戦士を50メートル以上もふっ飛ばしたことから、ドリアン皇帝から『破滅拳バロネス』という、ありがたくも物騒な称号を下付された?!
アレク自身は、「こんな称号、恥ずかしいです」とボヤいていたが、とにかくゾオル中の評判になった。
そして、アレクの才能が開眼したのを見て、ミカエラもマイレィに「ツン!」をしてもらったところ...すでに魔術の才能があった彼女の魔法力が驚くほどアップしたのだ。
そしてミカエラの能力は風属性の魔法スキルが高いということがわかった。突風を巻き起こして砂嵐で敵が進めなくしたり、竜巻を起こして人や物を空高く巻き上げる魔法などだ。
「ビアストラボでジョスリーヌに負けたのは、私が得意な風属性魔法を使わなかったからよ!」
などと負け惜しみを言うくらいになったが、たしかに火属性魔法は彼女の得意分野ではないのだろう。
火属性魔法が得意なのはアンジェリーヌで、ジョスリーヌは水属性魔法を得意とする。
マイレィは、どうやら人が本来持っている能力を目覚めさせるスキルと予知能力をもっているようだ。
そして、マイレィは誰もが予想もしなかった者の魔法能力を開眼することになった。その者とは、アイフィ
神教官だった。
アイフィは、アレクに続いてミカエラまでが魔法能力を開眼したのを見て、冗談半分で、「マイレィちゃん、わたくしにもオデコツンして見て!」とたのんだ。
「ツン!」
アイフィは頬にツン!をされてしばらくすると熱を出して寝こんでしまった。
ルークもアマンダたちも心配したが、意識はしっかりしているので風邪でも引いたのだろうと様子を見ていたら、三日目にケロッとした顔で起き上がった。
「何か、体の中から力が湧いて来る感じです」
そう言って、ミカエラ、アンジェリーヌ、ジョスリーヌ、それにアレクが魔法を訓練するためにルークタラス城の郊外に行った時にいっしょについて行ったのだ。
ルークは魔法は使えば使うほどレベルがアップすると知っていたので、時間があれば訓練をするように言っていたのだ。
人家も畑もない原っぱで、それぞれ魔法を試す。
まず、アンジェリーヌが凄まじい火炎を放出する。火力のあまりの強さに土が炭化してしまうほどだ。
「姉上、火球を出して見て!」
ジョスリーヌがミカエラと魔法バトルをした時に、ミカエラが使った火属性魔法の名前を言う。
「なに、その火球というのは?」
「こんな、直系が5メートルくらいある火の玉なの!」
「ふーん... こんなもの?」
アンジェリーヌが両手で空中に丸を描くと、1メートルほど前方にたちまち火球が生じ、遠方へ向かってかなりのスピードで飛びながら次第に大きくなり... 10メートルほどの大きさになった!
「すごいわ、アンジェリーヌちゃん!やはり火属性魔法はかなわないわね」
ミカエラが感心している。
「連続して大火球出せる?」
ジョスリーヌはしつこい。
「こうかしら?」
アンジェリーヌが両手をせわしく動かすと―
ブオッ ブオッ ブオッ ブオッ ブオッ ブオッ ブオッ…
ほとんどくっつかんばかりにして10メートルの大火球が放出される。
「アンジェリーヌちゃんの魔法、際限ないみたいね...」
「こんなのハウェンくらいしか防げないんじゃないですか?」
「連続攻撃が1時間も2時間も続いたら、私の絶対防御でも防げるかどうかわからないです」
アマンダたちも驚いているが、はたしてそれほど長く魔法が使えるかどうかは、アンジェリーヌのMP量によるだろう。
続いてジョスリーヌの水属性魔法だ。
「アクアバルズは、ミカエラとのバトルの時に使ったし...」
「それ、私見てないわ!」
「姉上はガジーマに旅行していたんでしょ?」
「旅行じゃないわ。トゥンシー大先生が神の盤の設定を間違えてあそこに着いたのよ!」
「しょうがないわね...」
ジョスリーヌが両手を小刻みに前に出すと...
次々と雫が飛び出して行き、見る見るうちに巨大な水球になって1キロほど遠くへ飛んで行って、焼野原に落下し、草木の灰と土砂の混じった大きな土煙を次々にあげる。
「す、すごいわね!」
「ジョスのアクアバルズ、威力増してない?」
「そう言えば、バトルの時よりも速度が早いみたいね... でも、アクアバルズだけじゃ能がないわね...」
そう言いながら、ジョスリーヌはブツブツ...と何かをつぶやきはじめた。
すると―
何と、両手の先からキラキラと光る雫が放たれ、飛びながらたちまち氷塊になり、飛ぶにしたがってどんどん大きくなり、5メートルほどの大氷塊になった!
ドシ――ン...
ドシ――ン...
ドシ――ン...
ドシ――ン…
連続して遠方に落下する大氷塊を見て、アンジェリーヌたちは開いた口が塞がらなかった!
「決めたわ。この魔法は『恐怖の氷球』って名前をつけるわ!」
得意げに鼻をピクピクさせるジョスリーヌだった。




