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#2‐32 ドリアンスロゥプ皇帝⑦

 動く標的を射る競技もプリシルの独壇場となった。


ナシを刺した矢が10本空に向かって撃たれ、それを矢で射るのだが、秒速200メートル近い高速の矢の先端に刺してある、わずか10センチにも満たないナシに当てるのは至難の業だった。

唯一、10本全部に当てたのはプリシルだけだった。ほかのアーチャーの矢はかすりもしなかった。


「弓使いの勝者はプリシル王妃です――っ!」


ジャッジがプリシルの手をとって高くあげるとコロシアムが揺れた。


オオオオオオオオオオ―――――…


プリシ――ル!プリシ――ル!

プリシ――ル!プリシ――ル!

プリシルのシュプレヒコールがうるさすぎるくらいだ。



「それでは、今度は同じく国賓として来訪されているルークドゥル勇者王国のアマンダ・ラヴォルジーニ・シルバーロード王妃さまです―――っ!」


オオオオオオオ―――――…


緑色の美しいプレートアーマーをつけたアマンダがアレナに現れると、観衆がその美しさにどよめく。

ヘルメットを片手にもち、コロシアムの観衆たちに手をふる群青色の髪と空色の瞳の美女。

アマンダはまず、特別観覧席の皇帝へ向かって頭を下げ、それから両手に150センチ程の長い木剣をもっている。


「アマンダ王妃に挑戦するわが国の戦士は... 猛牛部隊のカーマドゥフ男爵、犬族戦士のブラッド・マスティフ、猩々族戦士のガルディクス...... 以上の100名!」

アーチャーと違って、ソードマンの挑戦者は3倍も多い!


ルークたちの警護のトラ族近衛兵が、「あれでも300人ほど減らしたそうです」と教えてくれた。

「ハウェンにリリス、万一の場合に備えて...」

「はい、おまかせください!」

「もう準備しています!」

撃てば響くように答える二人。


ハウェンは絶対防御で、たぶん100メートルくらい離れていても防御バリアーを張れる。

リリスはもしアマンダが負傷した場合に、すぐに治癒魔法をかけるのだ。



「え――っ、それでは、試合の規則を言います。真剣を使うのは禁止。飛び道具も禁止、顔面や急所への打撃、突きなども禁止。対戦者は一人とし、倒れた時点で負けと...」

「みんな一度にかかって来てもいいわ!」

「負けとする... え? アマンダさま、一度にかかってと申されても、試合は一対一で...」

「面倒だし、時間がかかるでしょ?」

「し、しかし...」

「だいじょうぶよ。私はこの人たちには負けないわ!」


「ナニ?」

「フギャ!ほざいたな!」

「ニャニい?王妃と言えど容赦せんぞ!」

「殺すまではせんが、一ヶ月ほど歩けんようにしてやる!ワン」

「ガオオン!泣きっ面を見せてやる!」

獣人戦士たちが憤る。



ジャッジも後ずさりをして、どうしようかとルークの方を見る。

ルークが「アマンダ王妃、無茶しないで一人ずつにしなさい」と言うのを待ってる感じだ。


「いいですよ。アマンダ王妃がいいと言っているのなら、やらせてください!」

「えええっ?こ、殺されますよ?」

「そんなヤワなアマンダではありません」

「そ、そ、それでは... アマンダ王妃対獣人戦士全員の試合...」

ジャッジがそこまで言ったとき、それを知った観衆が大きくどよめいた。


オオオオオオオオオオ―――――…


「はじめ―――っ!」

ジャッジは叫ぶのとジャンプしてかぶりつきに向かってまっしぐらに走るのが同時だった?


「ガオオ―――!」

「ニャオ―――!」

「ワオ――――!」

「フンゴ―――!」


侮辱されたと感じた戦士たちが一斉にアマンダに向かって巨大な木剣、木槍、木のアックスなどを構えて殺到する。



アマンダは突如走りはじめた。

突進して来る戦士たちを左に見ながら、高速走行で大きく左に回る。


フル装備で秒速20メートルを超す高速だ。先頭を走っていた戦士たちがあれよあれよと思う間に、アマンダは狙いを定めると、ジャンプした。


最後尾の戦士たちの中に着地― する前に両足で馬族とクマ族の戦士を倒していた。


ブブン! ガッ ガッ!ガッ ガッ!


長い木刀が唸りを上げ、さらに4人を倒す。

引き続き、水車のように木剣をふり回しながら、戦士たちの群れの中を高速移動する。


グエッ

ガハッ

ギャー

ゲゲッ


バタバタと倒される戦士たち。


「そこだ!」

ガキン!

「ギャー!」

「ここだ!」

ボクッ!

「痛っ!」


あまりの速さについていけず、仲間の戦士を打ったり突いたりする始末だ。

すでに30名ほどの戦士が地面に倒れ、気絶したり、呻いたりしている。


「パオ――ン!ワシが仕留めてやる!」


なんと大型戦士のゾウが長い鼻の先に10メートルはある電柱のような太く長い棍棒でアマンダを打とうと横なぐりに振る。


ブ―――ン


ギャ ゲハっ グエっ キャイン ニャー!


アマンダが素早くジャンプしたので、仲間の戦士たちを10人以上倒してしまった!

空高くジャンプしたアマンダは狙いを定めて、ゾウ戦士がかぶっている、タライの数倍はあろうかと言うヘルメットを渾身の力を込めて二つの木剣で打った。


ガガ――――ン! バキバキッ!


鉄製の大きなヘルメットの頂上がへこみ、ゾウ戦士は脳震盪を起こして倒れた。


ズシ―――ン…


しかし、アマンダの木剣も折れてしまった!


「っ!」


アマンダは倒された戦士たちがアレナに落とした木剣をすばやく拾おうとしたが、サイ族の戦士が前方から地響きを立てて迫っていた。

そして後ろからは、ヒグマ族の戦士と猩々族の戦士が倒れている戦士たちを踏みつけながら迫って来る。


ワ――ワ――ワ――ワ――…


観衆がアマンダがサイ族戦士の鋭いツノで突き刺されるか、またはヒグマ族戦士と猩々族戦士に握り潰されるのではないかと騒ぐ。


「ハウェンっ!」

「はいっ!」

ルークの叫びにハウェンはかぶりつきから駆けだしていた。



特別観覧席から見ていたアマンダたちも、予想外の出来事に手に汗を握っている。


「私が行きますっ!」

アレクが叫んで、先ほど壊したところからアレナに飛び降りた!


「アレクちゃん!」

「アレクサンドラっ!」

「アレクさん!」

「アレク―っ!」


アンジェリーヌたちが叫び、ボンガゥル侯爵が大声をあげる。

皇帝も皇后も立ち上がり、周りの貴族たちや寵妃たちも立ち上がった。


ライオン族の身軽さでアレナに飛び降りたアレクは全速で走りながら、サイ族戦士に向かって拳を突き出した。


「キェエエエ―――――!」


ズド―――ン…


サイ族戦士は、強力な衝撃を横腹に喰らって、アレナの土ごと50メートル以上ふっ飛ばされて、1階の観客スタンドの壁に激しくぶっつかった。


ド―――――ン


観客スタンドの壁のレンガが崩れ落ち、20人ほどの獣人観客がアレナに落下する。


一方、ハウェンはようやくバリアーの有効範囲まで走って来て、両手をヒグマ族の戦士と猩々族の戦士に向かって出した。


「グアっ?!」

「グゴ?!」


二人の戦士は突然見えない壁に突き当たり、一歩も前に進めないのであくせくしている。


「もう、いいわよ、ハウェン。ありがとう!」

落ちていた木刀を拾ったアマンダがハウェンに礼を言う。


「がんばってください!」

ハウェンがかぶりつきへ走ってもどる。


「さあ、来なさい!どうして、私が無双と呼ばれるかとくと見せてあげるわ!」

「グアア!生意気なっ!」

「ゴホっ!骨を残らず砕いてやる!」


バリアーが解け、自由になったヒグマ族戦士と猩々族戦士が、怒りに顔を真っ赤にしてアマンダ目がけて突進する。

アマンダは彼らの真上に跳躍すると、目にも止まらない速さで手に持った木刀を、素早く二人の戦士目がけて投げた。


ゴキっ!ガキっ!


狙いたがわず、ヒグマ族の戦士の頭と猩々族の戦士の頭に命中する。

そして、鉄製のヘルメットをかぶってはいたが、その衝撃で二人とも気絶して倒れてしまった。


着地したアマンダは、すぐに木の槍を拾った。それも2本。


「さあ、お次はどなた?今度は頭蓋骨じゃなくて、あばら骨か背骨でも折ってやろうかしら?」


ガラン

ガラン ガラン

ガラガラン ガラン

ガラン ガラン ガラン


残っていた9人の獣人戦士が武器を捨てた。


「しょ... 勝負ありっ!アマンダ王妃の勝ち―――っ!」


オオオオオオオオオオオオオ―――――…

オオオオオオオオオオオオオ―――――…

オオオオオオオオオオオオオ―――――…


コロシアムが大揺れしているようなどよめきがやまない。



アマンダ――!アマンダ――!アマンダ――!

アマンダ――!アマンダ――!アマンダ――!


そして、シュプレヒコール。


皇帝が立ち上がり、アマンダに向けてあげた手の親指を上に向けた。

皇帝もアマンダの勝利を認めたのだ。


ゾドアンスロゥプ―――!ゾドアンスロゥプ―――!

ゾドアンスロゥプ―――!ゾドアンスロゥプ―――!


そして起こるゾドアンスロゥプ皇帝へのシュプレヒコール。



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