#07 ガバロス退治①
それは、ちょうど一ヶ月前に始まった。
突如、ガバロスの群れが村を襲い、収穫がはじまったばかりの畑の穀物を奪って行った。
あまりの大群に、村人たちはなすすべもなかった。
悪夢は続き、ガバロスたちは毎日やって来て、ありとあらゆる作物を奪っいはじめた。
穀物は十日もしないうちに根こそぎ持って行かれ、ほかの作物もかたっぱしから奪われた。
畑の作物だけでなく、倉庫にしまっておいた穀物、それに農作業に必要な牛や馬、家畜のブタやニワトリなども片っ端から捉まえて持って行かれた。
「ガバロスは、コボルトの中ではもっとも狂暴で性質の悪い種族で、知恵もあるし、腕力もエルフを凌ぎます」
アルビオンが細く説明をしてくれる。
「奴らは剣や槍、弓矢を使って襲って来て、食料や家畜を奪い、最近では家に押し入って金まで奪うようになりました...」村長が捕捉する。
「奪うものがなくなると、娘や子どもを攫って、他国にドレイとして売りさばいたりまでするそうです。ゴブリンと違って女を孕ませたりはしませんが...」
「それで、近くの町の警備隊に知らせたのか?」
「はい。M町に警備隊の駐屯地がありますので、使いに窮状を書いた手紙を持たせて、ガバロスの掃討をお願いしたのですが...」
「寄こさなかったんだな?」
「はい。アルビオンさま。あまりにもガバロスの数が多すぎるので、警備隊では手に負えないから首都の軍に来てもらえと...」
「く――っ、何と腰抜けの警備隊長なの!」
「そうよ、その警備隊長の名前を教えなさい。クレールに言ってクビにさせるわ!」
王女さまたちがご立腹だ。
だが、どのような時代であれ、どんな世界であれ、官僚とはすべて保身しか考えない連中だ。
小さな村の村民の陳情などに耳を傾けるわけがない。それも戦う相手が数百もの凶悪ガバロスともなれば、なおさらのことだ。
「それで使いは送ったのですか?」
「いえ、使いは送りませんでしたが、手紙を送りました」
「ふむ... ここからでは遠すぎるし、手紙がもし、ザキャリアズ厩役伯爵殿の手に渡るとしても、最低でも一ヶ月はかかるだろうな...」
さすがにアルビオンは近衛隊分隊長だけあって、王国の官僚制の問題- わずらわしい手続主義、承認までにかかる気の遠くなるような日数などを熟知している。
「ガバロスたちは、いつもどこから襲撃して来るのですか?」
「いつも西の山方から来ます」
「それで、最後に襲われたのはいつだったんですか?」
「はい... 昨夜、そこにいるナボロの家に押し入って、ナボロの娘が来年結婚するときのために貯めていた銀貨180枚を奪って行きました」
「ウっ、ウっ、ウっ...」
ナボロが悔し泣きし、村の男たちがなだめている。
その様子を見ながら、村長はさらにうなだれてつぶやいた。
「たぶん、今夜あたりからは、さらに多くの家が襲われることでしょう。私たちが何も出来ないということを知ったからには、この家もすぐに狙われるでしょうな...」
「そのナボロさんの家はどこにあるのですか?」
「村でもっとも西よりにあります」
「わかりました。ここへ来たのも創造主さまの思し召しでしょう。私たちがそのガバロスを退治しましょう!」
「は?」
ルークの言葉に村長が訝し気に彼を見て、アルビオンたち近衛騎兵を見て、騎士の恰好をしている
ルークの妻たち-アマンダとプリシルを見た。
「私たちは数は少ないけど、この近衛騎兵たちは一騎当千の猛者たちですし...」
「おうともよ!」
「そうだ、ガバロスなど片手で捻りつぶしてくれる!」
「近衛騎兵の恐ろしさを味合わせてやるぞ!」
近衛騎兵たちがルークの言葉に威勢を上げている。
「私の妻のアマンダは天下無双の剣の使い手だし、プリシルは弓をとらせたら彼女の右に出る者はいません」
「ガバロス100匹は血祭にしてやるわ!」
アマンダが気勢を上げ、剣の柄をガチャンと鳴らすと、授乳をするためにブレストプレートとバックプレートを外し、前開きの服の前を開いて、白い豊かなおっぱいを出してマイレィに授乳していたプリシルもみんなの方を見て拳をふり上げて気勢を上げた。
「わたしもガンバって50匹くらいは倒しますわ!」
近衛騎兵の若いエルフたちも、村の男たちも、禿げ頭の村長もおどろいてプリシルを― いや、彼女の豊満な胸を見た。
ルークはいくら男どもが彼の妻を見ようが構わなかった。
アマンダにせよ、プリシルにせよ、リリスもハウェンも、魔大陸の1500万とも言われる魔族たちの中でもっとも美しい女性としてルークの妻になるべくして選ばれた女性たちなのだ。
男たちが、いくらアマンダのぷりぷりしたオシリを見ようが、プリシルのおっぱいを見ようが、バツグンのプロポーションのリリスやハウェンを見ようが、この超絶美女たちが彼の妻であるということに変わりはないし、彼女たちもルークにゾッコン惚れている。
“それに加えて、今度はアンジェリーヌとジョスリーヌも加わりそうだしな…。
いくらでも見るがいい、羨ましがるがいい。果報者の私にとって、それはさらに私の幸福度を増すだけなのだからな…”
男たちの目が、プリシルの胸や、アマンダやリリス、ハウェンの胸やオシリをちらちらと見るのを見て、優越感に浸るルークだった?
「そ、それで、どんな作戦をとるんですか?」
ボーっとルークを見ていたアンジェリーヌ王女が、気を取り直したように聞く。
「ルークさまは、もうガバロス退治作戦を考えていらっしゃいますよね?」
ルークは頷くと、アルビオンと村長を前にガバロス退治作戦を話しはじめた。
「まず、村の周りの柵は二重にします。そして西側は三重にして、幅2メートル、深さ1メートル半くらいの堀を50メートルほど掘ってください。門は北の門だけを残してあとの三つの門は完全に封鎖して開けることも乗り越えることもできないようにする。北の門の両脇には櫓を組んで、そこから近衛騎兵とプリシルに弓で攻撃させます」
「わかった。じゃあ、俺はそのM町とやらへ弟を送って至急警備隊を送るように命令するよ!」
アルビオンも、ヤル気を起こしたようで、弟のガルビオンにすぐに出発するように言う。
ガルビオンは剣をもって外へ駆けだして行った。
「M町まで2時間かかるとして、それから警備隊の隊長を説得して、準備をして来るまでには... 最低でも5、6時間はかかりそうね」
プリシルが応援が着くまでの時間を計算している。
「村の男たちは、全員、包丁や鉈を長い棒の先に括りつけた武器を作らせてください。そして、ガバロスたちが襲って来たら、最初の柵を乗り越えたバロスから柵の間から武器で刺してください。私とアマンダ、それに近衛騎兵10名は遊軍となって、ガバロスが侵入しそうになったところに加勢することにします」
村長が男たちに指示をし、男たちがバタバタと走って出て行き、アルビオンも近衛騎兵たちを集めて指示をしている。
ガバロス退治のために村中総出で、女も子どもも男たちを手伝って屋根の茅を剥がし、その下にある木材を外している。櫓や柵にする木材が足りないので、村長命令で家々の屋根の木材を使うことにしたのだ。
その作業を見ていたルークは、剥がした茅を束にして内側と外側の柵の要所要所に縛りつけるように言った。怪訝な顔をしている男たちに、なぜ茅を束にして柵に縛りつけるのかを教えると、みんな納得した。
それから、横にいたアマンダに村長のおカミさんに、あることを頼むように依頼した。
「なるほど!さすがルークさま。茅とそれがあれば、かなりの効果がありますわ!」
アマンダは村長の家に走って行った。プレートアーマーをすでに装着しているが、それにしても早すぎる。
北の門の両脇の櫓はアルビオンの提案で、左右の櫓を丸太と板の通路で繋ぐようにし、攻撃範囲を広めようとしている。櫓の前面にはガバロスの矢攻撃を防ぐための板が釘で打ちつけられたりしているほか、櫓から落とす石や丸太などが村人たちの手で運ばれていた。
夕暮れの迫った空の下で、櫓の上から西の方を見ていたプリシルが叫んだ。
「来るわよ―――っ!」
ルークとアルビオンが急いで櫓に上って見る。
薄暗くなった西の山の方向から、バロスの群れが土煙を上げてこちらに迫って来ていた。