#2‐28 ドリアンスロゥプ皇帝③
謁見がすむと、ラーシャアグロス国大王とルークドゥル勇者国王の歓迎昼食会が大ホールで開かれた。
豪華な大ホールには、長さ百メートルはあると思われるテーブルがいくつも置かれており、その上には、獣人族にとってとびっきりの馳走が並んでいた。
5メートルはあろうかと思われる大きな魚の丸焼き、魚の照り焼き、魚の酒蒸し、魚と野菜のスープ、魚の天ぷら、魚と海の幸の唐揚げ、魚のホイル焼き、魚の煮物、色んな種類の生魚。とくかく魚料理が多い。
そして、これもさまざまな貝料理、足が数えきれないほどあるタコの酢漬け、これも足が無数にあるイカの刺し身、イモムシの串焼き、オケラのあぶり焼き、マイマイ蛾のサナギの天ぷら、新鮮な木や草の葉、名前もわからないたくさんのフルーツ、照り焼き等々。
不思議なことに、肉類は一切なかった。
たぶん、肉食の獣人は、同類を食べているような気がするから食べないのだろう。その代わり魚を食べるのだ。肉食獣人族にとっては、動物の肉を食べられないということは辛いことだろう。
「魚じゃなくて、肉とか食べたいと思ったことはないのですか?」
同じ疑問をもったらしいリリスが薄く切った魚の肉に何かソースをかけて美味しそうに食べているボンガゥル侯爵に聞いた。
「肉?ああ、エルフとかトロールとかが食べる牛やブタなどの肉か?獣人族は四つ足の者の肉を食べることを禁じられておるのを知っておるだろう?」
「聞いています」
「それにな... ここだけの話だが...」
と言って、ボンガゥル侯爵は近くに誰も聞き耳を立てている獣人貴族などがいないことを確かめた上で、小さな声で言った。
「獣人族の中にも、ゲテモノ食いと言うか、四つ足を喰らうヤツらがいてな...
食用飼育が禁じられておるブタとか牛とかを秘かに他国から持って来てくる不埒な者たちなんだが...」
ボンガゥル侯爵によると、西ディアローム帝国では、そういう不埒な者たちを厳しく取り締まっており、侯爵も何度か、そんな密売組織の手入れに立ち会ったことがあるそうだ。
「あの... 肉の匂いを嗅いだ時、思わず外へ飛び出して... ザマのないことに吐いてしまったわい」
その時のことを思い出したのか、ムカつくような顔をした。
そして、今度は魚の酢の物を自分の皿にとり、美味しそうに食べはじめた。
「魚はこんなに美味いのに、なんであんな臭い肉を食べたがるのか、気が知れん!」
歓迎昼食会に参加している獣人の数は千人を下らないだろう。
みんな将軍とか大臣とかの上級クラスや貴族、それに有名な戦士たちらしい。西ディアローム帝国の規模がわかるというものだ。
ルークのところには、先ほどから、豹族、ゾウ族、トラ族、クマ族、牛族、馬族などの将軍たちや、貴族たちがひっきりなしに挨拶に来ている。もちろん、大型獣人だけでなく、犬族、ネコ族、ヒツジ族などの中型獣人、それにウサギ族、リス族、ラット族などの将軍や貴族もいるが、彼らは酔っぱらったほかの種族に踏みつぶされないように、頑丈な鉄の柵で仕切られたエリアにいた?
ボンガゥル侯爵に連れられて、鉄柵までルークが行くと、そこには高い台が鉄柵の向こう側にあり― 小型獣人にとっての高い台で、中型および大型獣人と同じ目線で話ができるようになっているのだ― そこに上がって、ルークたちとの挨拶の順番を行儀よく待っていた。
「我輩はパナラヴィ公爵じゃ。有名なルーク王殿に会えて光栄じゃ!」
「わしはモッキーモルス伯爵。ほほう!その容貌、たしかに女にモテそうだな?」
「私はアルボン子爵だ。以後、お見知りおきをお願いいたす」
ウサギ族やラット族、リス族などの身長10センチとか30センチとかいう貴族たちが、バリっとした貴族服を着て立派なヒゲを生やして挨拶をして来る。
ルークといっしょに来たアマンダたちも、貴族夫人たちの挨拶を受けた。
「お会いできて光栄です。パラナヴィ公爵夫人のマッシャーです」
「お初にお目にかかります。モッキーモルス伯爵夫人のニミーでございます」
「アルボン子爵夫人のフィルラでございます。大変光栄です」
こちらも、ミニサイズの豪華なイブニングドレスを来たご婦人たちだ。
しかし、ルークの妻たちの中でもアマンダとプリシルの人気は群を抜いていた。
貴族夫人たちだけでなく、獣人族の戦士たちの人気がもの凄かった。
それもそうだろう。ダイダロス宮へ来る途中で、6人もの手練れの刺客と戦い、撃退したのだから。
「プオン!ワシはゾウ族将軍のディアドコイ伯爵だ。ルーク王から離縁されたら、ぜひ、ワシの嫁に!」
「ガオン!トラ族のガドゥンガン公爵だ。プリシル殿は、なんともお美しい方だ。それでいて弓の名人とは信じられん!息子の嫁に来てくれんか?」
などという、求婚の申し入れや―
「犬族戦士のブラッド・マスティフだ。アマンダ殿と是非一度、お手合わせを願いたい!」
「猛牛部隊の戦士、カーマドゥフ男爵です。この後で勝負しませんか?」
「猩々族戦士のガルディクスだ。今から誰が本当に強いか試合をしよう!」
「キツネ族弓隊のカノフォックよ。プリシル殿とどちらが弓の腕が上か勝負をしたいわ!」
「ヤギ族の長弓隊のメェミューです。プリシルさんに挑戦したいです!」
なんと、勝負の申し入れが後を絶たなかった!
「ルークさま、どういたしましょう?」
「ルークさま、どうしたらいいですか?」
「皇帝への余興に引き受けてみたらいいんじゃないか?」
ルークの一声で、大ホールは蜂の巣をつついたようになった。
先ほど、勝負や腕比べを申し込んだ戦士たちや弓使いのほかにも、多くの戦士や弓に腕のある者が50似んほど試合をするために行列を作った!
「いや、国賓として来られている勇者王国の王妃殿たちを、そんな余興に...」
ジャバリュー大統領は明らかに困惑顔だ。
「モゴ... ワシ ハ ドウデモ イイ... モゴ」
皇帝はモモコ大王といっしょなら、何でもいいらしい。
「いいじゃないか、ジャバリュー!私は参加しないが、ドリアンといっしょに観戦してやるぞ?!」
皇帝のひざの上のモモコ大王の一言で、親善試合が行われることになってしまった。
しかし、もう夕方であることもあって、翌日に行われることになった。
歓迎昼食会は夜遅くまで続き、ようやく午後12時前に解放されたルークたちは、酔ったので鬼馬はやめて馬車にルークとともに乗って、『パンディーオーン宮』へと向かった。
『パンディーオーン宮』はいわゆる迎賓館で、ラーシャアグロス王国の閻羅宮と同じだが、ゾオルには迎賓館が三つあり、その中でも『パンディーオーン宮』には、皇帝のお気に入りの国賓しか泊まれないそうだ。
パンディーオーン宮の寝室には、300平方メートルもの広さの寝室が50つある。
それに500平方メートルの暖炉付きリビングルームが3つ、500平方メートルはある屋内プールに続く浴室、ほかにもサウナ風呂もある。
屋内ビリヤードなどの娯楽施設、100人は食事がとれる食堂。そのほかにも付き添いの侍従・侍女の部屋や調理場などもあり、これだけで一つの宮殿だ。
ゾウが寝れるような巨大で豪華なベッドに寝たルークたち。
翌日、昼近くになって目を覚ました。
ゾウが寝れる広さのベッドには...
アマンダたち先輩妻たちと、アンジェリーヌたち新妻が仲良く、
ルークといっしょに一糸纏わぬ姿で寝ていた。
ルファエルとマイレィは、侍女たちといっしょに別の部屋で寝ているので、
目が覚めてパパとママたちの恰好を見ておどろく、ということはない。
腕まくらをして、美女妻たちを見ながら、“いよいよパラダイスっぽくなって来たな...”などとルークが考えていると― 彼が目覚めたのがどうしてわかったのかわからないが、ドアがノックされた。
コンコン
「はい」
ドアが開き、ウサギ族のメイドが顔を出した。
「お食事をお持ちしてもよろしいでしょうか?」
“まだみんな起きてないし... もう少しあとに頼もうか…”
とルークが思った時、ガバっとリエルが半身を起こして叫んだ。
「はい。お願いしますっ!フルーツをたくさんお願いね!」
「かしこまりました」
メイドさんがドアを閉めようとすると―
「私は肉が食いたいぞ!」
モモコ大王が禁句を叫んだ。
「モモちゃん!」
アマンダが目を覚ましてビックリしている。
「それって... ダメなんじゃ...」
プリシルも恐るおそるウサギ族メイドを見る。
今にもトラ族かライオン族の警備員を呼んで来るのではないか、とみんなが思った。
「かしこまりました。お肉ですね?」
しかし、ウサギ族メイドさんはにこやかに確認して
パタン!
ドアが閉めて行ってしまった。
「モモちゃん... 逮捕されるかも知れないわよ?」
モモコではなく、もうモモになってしまっている。
「だいじょうぶだ、アンジェリーヌ。ここは特別国賓館で治外権法外だから、自国の習慣にしたがってもいいんだぞ?」
「チガイケンホウガイ?」
「そうだ。ここに泊る国賓は、西ディアローム帝国の法律が適用されないんだ」
「へえ!」
「すごい!」
「じゃあ、お肉食べれるんだ!」
アンジェリーヌもリエルもミカエラもおどろいている。
モモコ大王は、もうすでに何回もこの迎賓館に泊っているのでよく知っているのだろう。
ものの10分としないうちに、ふたたびコンコンとドアをノックする声。
「失礼します。朝食を持ってまいりました」
さきほどのウサギ族メイドさんの声だ。
「はい。どうぞ」アマンダが答える。
ドアが開けられ、ウサギ族メイドさんが料理が載ったワゴンを押して入ってきた。
そのあとから、犬族のメイドさんが料理が満載のワゴンを、そのあとからキツネ族のメイドさんが飲みものが入っている銀ポッドが乗ったワゴンを、そのあとからまた別のウサギ族メイドさんがワゴンを...
次から次に入ってきて、300平方メートル坪以上ある寝室のテーブルに次から次へと料理を並べ始めた。
ルークたちは唖然としてテーブルの上に並べられる料理を見ている。
ざっと見ただけで、スクランブルエッグ、オムレツ、オニオングラタンエッグ、ピンタダの丸焼き、鶏肉の照り焼き、鶏の焼き肉、ハム、ソーセージ、ベーコン、いろいろなチーズ。
さらにポテトサラダ、スモークサーモン、野菜サラダ各種、パンケーキ、フレンチトースト、ワッフル、カニスープ、魚スープ、肉スープ、ポテトスープ、野菜スープ、白パン、クロワッサン、ブリオッシュ、デニッシュベストリー、クグロフなどがあり。飲みものはさまざまなフルーツジュースとヤギ乳。
「なに、これ?」
「たまごを混ぜて焼いたのは知っているけど、ほとんど知らない食べものばかり...」
妻たちも驚いている。
「でも、足が数えきれないほどあるタコやイカとかとかないわね...」
「虫のあぶり焼きやサナギの天ぷらとかもないわ?」
「じゃあ、お腹も減っていることだし、食べましょう!」
「そうそう、熱いうちにいただきましょう!」
若いリエルとジョスリーヌが真っ先にお皿にご馳走を分けて、猛烈な食欲で食べ始めた。
それを見て、アマンダやプリシルたちも子どもたちに朝食を食べさせるために、部屋を出て迎えに行く。
アンジェリーヌやフィフィ、アイフィ、ミカエラもお皿に料理をとりはじめる。
モモコ大王は、すでに手掴みでピンタダの丸焼きを食べている!
「いやあ、昨日は酒ばかり飲んでな。腹が減ってかなわん!それにしても、やっぱり肉だ!」
モモコも若いからか、それとも大食家なのか、猛烈な勢いで次々とご馳走を口に入れている。
ルークも腹が減っているので食べ始めた。
メイドさんたち5人ほどがルークたちの後ろに控えていて、何か注文があれば即対応するように控えている。
「こんな豪勢な朝食ははじめてよ」
「私も。皇帝は毎朝、こんなの食べているのかしら...」
「ママ、これおいしいね!昨日のよりご馳走だね!」
「タマゴ、おいちいでちゅ!」
ルファエルもマイレィも一生懸命に食べている。
「それにしても、よくこれだけ私たちの口に合うご馳走を作ったものだな」
ルークが感心して言ったとき―
「お気にいって頂けたようで、皇帝陛下もきっとよろこばれることでしょう」
ドアから入って来たのはボンガゥル侯爵だった。




