#2‐26 ドリアンスロゥプ皇帝①
西ディアローム帝国の帝都ゾオルは、北部のアマーラ山脈を源流とするナーダ川がメジアグロス海に注ぐデルタ地帯にある大都市だった。
人口百万を超えるゾオルの歴史は長い。
周囲に、ラーシャアグロス国、ボロツク国、ベルミンジャン国、アングルスト国などの国があることから、古くから交通の要衝、商業の町として栄えてきた町だ。
ゾオルの道幅は広く、さまざまな種族があるいは海を渡って、あるいは獣人国のほかの町からビジネスや仕事を求めてやって来ているので、トロール人やゾウ族、サイ族、クマ族などの巨大な種族から、ウサギ族やネコ族、犬族、それに小さなラット族まで往来しているので雑然としている感がある。
しかし、サイズのかなり違う種族で成り立ち、さらに国外からは3メートルを超えるトロールや2メートルに達する鬼人族、それにふつうのサイズのエルフなども来るために、ディアローム帝国では厳格な交通ルールがある。
それは、大型種族が小型種族を踏みつぶさないように、通りを広くして3つのに分け、外側をラット族やウサギ族など小型種族専用路にし、中央を中型― 犬族、ネコ族、エルフなどだ― 専用となっている。
そしてもっとも内側を大型種族専用路にしている。決められた道路をはみ出る者がいれば厳罰に処されるのだ。もっとも、ラット族やウサギ族が大型種族の道路に迷い込んだら、踏みつぶされても文句は言えないという決りもあるのだが、当然、酒にでも酔っぱらってない限り、そんなバカな真似をする小中種族はいない。
そんな訳で、ゾオルのメーンストリートは、片側3路線の、何と6路線という幅広い道路だった!
小中型種族が道路沿いに立ち並ぶ商店などに行く時は、100メートルごしにある歩道橋みたいなのを渡って大型種族専用路の上を跨いで行くようになっているようだ。
体のサイズがさまざまな国民や来訪者向けの対策は道路だけではなく、それは多くある商店でも同様で、店の入口からして小型種族用、中型種族用、大型種族用と大きさが違い、店員もほとんど同様に同サイズの店員が対応するようになっている。
だが、商店の方ではそれほど厳しいルールがあるわけではないので、たとえばウサギ族の客でラット族のかわいい女店員の応対が好きだと言う者もいれば、ネコ族の女客で大型種族の範疇にはいるライオン族のマッチョ店員に対応してもらうのが目当てで店に行く客もいるのだそうだ。
そのメチャ広い道路の中型種族専用路を、ルークたちが乗った王室専用馬車がガラガラと車輪の音を響かせながら走っていた。ほかの道路を歩いているゾウ族やトロールたち、それにラット族やリス族、ウサギ族などが立ち止まって見るほど驚いているのは、その馬車が6輪というめずらしさだけではない。
そう。引いているのが、体長が5メートルを超すヴァナグリー ― ゾビンとゾフィなのに驚いているのだ。
しかも、馬車を先導しているルークは王冠をかぶり、豪華な服装で体長が7メートルもあるブレータに乗り、その右横にいるモモコ大王も、これも立派な黄金の王冠をかぶり、贅を尽くした服を着て、体長が6メートルあるギバオーに乗って得意満面だった?!
そして、どういうことか、あの玉座の後ろに飾ってあった家宝の伝説の鬼人族勇士ソフィアのグレイブを片手に持っていた?! もっとも、7メートルもなく、どうやら長さを調整できるらしく、5メートルほどに短くしてはいたが。
「あのツノを生やしたメチャ美人は、どこの王さまだ?」
「あの紋章はラーシャアグロス王国のだ!」
「ベンケー・シュテン大王だ!見ろ、あの立派なツノを!」
「あんなに可愛い顔をしているけど、大の大鬼が3、4人かかってもかなわないらしいぜ?」
「えっ? そうなの! あこがれるわっ、強い女性って!」
「いや、あんなの女房にしたら、浮気でもした日には首の骨ヘシ折られるよ!」
「首? まさか。アレを折られるぞ?」
いやはや、ベンケー・シュテン大王は、かなり人気があるらしい。
ルークの方も、女性の獣人たちの熱い視線を浴びている。
「あの金髪で耳の短いエルフが勇者王ね!ステキ―――!」
「短いのは耳だけって話よ?カッコイイ―――!」
「あたしも勇者王さまに見初められた――い!」
「そのブタ面じゃムリムリ!」
「そう言うアンタだってキツネみたいに鼻が長いじゃない!」
「わたしはキツネ族よ!プンプン!」
ルークの左横には、案内役を買って出たボンガゥル侯爵が鬼馬に乗って走っている。
モモコ大王とルークたち― 正しくは彼の美人妻たちなのだが― が、ゾオルの都民の関心をこれほど集めるとは想像もしてなかっただけにかなり驚いている。
鬼馬は、鬼人国原産の馬でふつうの馬の1.5倍ほどある大きな馬だ。モモコ大王は、それをボンガゥル侯爵に贈り、侯爵はその鬼馬に乗っているのだが... 巨大なヴァナグリーの横では、まるでポニーに乗っている感じだ。
その後ろにはその美貌でいやでもひと目を引くアマンダとプリシルが、華麗な騎士の服装を着て、鮮やかなマントを翻しながら、それぞれロレーゾとギラに跨って、まるでリボンの騎士みたいに颯爽とヴァナグリーを走らせているのだから、衆目を引くのも当然だ。
「あの男装の女騎士、キレ―――イ!」
「女の私でも惚れちゃいそう!」
「見て!あの美しい群青色の髪の女騎士!目も空色よ!」
「アマンダって言う無双の女騎士ですって!」
「あの紫の髪と鳶色の目の女騎士もすごい美女だわ!」
「あれはプリシルって言う、すごい弓使いなんですって」
「あなた、よく知っているわね?」
「最近、ゾオルの新聞に勇者王国の美女王妃たちって特集が出ていたじゃない?」
「ああ、あの評判になった新聞ね?わたしが買いに行った時、もう、売り切れていたのよ!」
「美女王妃たちの色付き似顔絵入りってことで、すごい評判になっちゃって、今では入手しようとすれば金貨10枚するって話よ?」
「いやあ、驚きましたな... 都民の多くがルーク王とアマンダ王妃たちを知っているようです」
「その話はトゥンシー大先生からも聞きました... 何でも、ゾオルの研究所あたりが、その情報を新聞社に流しているとも...」
「いやあ、面目ない。実はあの研究所のカブリット師が、研究所の研究費を捻出するためと言って新聞を発行していましてね。最近、あの“ドコデモボード”のおかげで貴国やベンケー・シュテン大王の国の情報が1日もあれば届くようになったので、それを利用して記事を書いて、かなり都民の人気になっているのですよ」
そう言って、ボンガゥル侯爵は鬣を掻いた。
最近では、ダイダロス宮でも読まれていて、何とドリアンスロゥプ皇帝も愛読者だと言う。
“情報を制する者は、世界を制する... だが、これだけゾオルで知られているということは…”
ルークが、そう思った時、後ろの馬車から叫び声が聴こえた。
「ルークさまっ。敵です――っ!」
「なにっ?」
ハッとふり返って見ると、ハウェンがドレス姿で馬車の屋根の開口部を開けて屋根の上に立っていた。
ハウェンは風でドレスがめくれ上がるのも構わずに、両手を前に出した。
「キャァ――!」
「何だ――?」
「武器を持っている―!」
沿道にいた獣人たちが騒ぎだし、逃げ出した。
そこに乳母車を押していた夫婦らしい三組の男女たちが、乳母車の覆いを跳ねのけると、中からすばやくクロスボウを取り出し、先頭のルークたちに向けて構えた。
シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ シュッ
よく訓練しているヤツららしく、狙いも正確に撃って来た。
3本の矢はモモコ大王に、3本はルークに、そしてもう3本はボンガゥル侯爵に。
パシッ パシンッ パシッ パシンッ パシッ パシンッ
間一髪、ハウェンの絶対防御のバリアーで全て叩き落された。
「おのれ―――!」
モモコ大王がグレイブを構えて歩道に突っ込んでいく。
刺客たちはクロスボウを捨て、短い剣を持って走って来る。
あくまでも与えられた任務を実行する気のようだ。
シュッ シュッ シュッ シュッ!
プリシルが、百発百中の矢で6人の手足を貫く。
そこにモモコ大王とアマンダが突っ込んだ。
「狼藉者――っ!」
バシュっ、ザシュっ!
「グエっ!」
「ギャっ!」
俊足アマンダは、目にも止まらない速さでゾビンから降りと、一瞬で二人を斬り倒した。
すぐあとに来たモモコ大王もグレイブを振る。
ブンっ!
「ギャア!」
「キェエっ!」
二人が真っ二つにされた。
アマンダは、手足を矢で射られて倒れている刺客を足で踏みつけ、喉元に剣の切っ先を突きつけた。
それを見て、モモコ大王もグレイブの切っ先を残った刺客の喉に突きつけた。
馬車の横を警護していたライオン族近衛騎兵たちが駆けつけた時は、もう、事態は収拾していた。
いつも通り... ルークの出番はなかった!
それから大騒ぎになった。
ライオン族近衛騎兵たちは、観衆を遠ざけると応援を呼び、数百人の獣人兵がおっとり刀で駆けつけ、ルークたちは物々しい護衛に囲まれてダイダロス宮に入城した。




