#2‐24 ガジーマで結婚式④
「そのソフィア・ベンケー・シュテン親衛隊員こそが、今のモモコ・ベンケー・シュテン大王の先祖さまなのです」
エンマ大公は誇らしげにルークにそう言った。
あのシュテン大王の玉座の後ろに飾られていたメチャ長いグレイブは、ソフィア・ベンケー・シュテンが使った武器だそうだ。
そして、デュドル公爵は、そのソフィア・ベンケー・シュテンの弟の子孫なのだそうだ。
そう言えば、デュドル公爵の名前はイーデル・アレクサンドル・シュテン で、“デュドル”というのは、昔、アレクサンドル・シュテン家が所有していた土地の名前だと公爵は言っていた。
「つまり、デュドル公爵は初代シュテン大王の弟の直系子孫だから、彼を助けた私に恩があると言ったわけですね?」
「いや、実はそうではないのだ。そもそも、ソフィア殿が大王になられたのは、大王であった父親を三番勝負で倒したからなのだ!」
ルークの質問に、エンマ大公はとんでもないことを言いはじめた。
「ええっ?ソフィアさんは初代大王ではなく、父親の大王を倒したから大王になった?」
さすがのルークも驚いた。
「うむ。鬼人国では、十王家の者なら誰でも時の大王に三番勝負を挑む権利をもっており、それに勝てば大王になれるというしきたりがあってだな... 実は儂の先祖がソフィア殿がラーシャアグロス王国の歴史に残る戦いをした時の大王だったのだが... 面目なく、ソフィア殿の父親に負けてしまってな...」
「それで、そのあとでソフィア殿が父親を三番勝負で倒して大王になったという訳ですね?」
「その通りだ。ソフィア殿のタイザン王家には、ふつうの鬼人の数倍の力を持つ者が時おり生まれてな。ソフィア殿もその一人で、親衛隊に入隊した時はわずか13歳だったと言い伝えられているが... 並みの大鬼が3、4人かかっても投げ飛ばすほどの怪力をもっておったらしい」
「メチャ怪力ではないですか?」
「うむ。今のモモコ・ベンケー・シュテン大王も、儂らが数人一度にかかっても儂らのツノをへし折るくらいの怪力を持っておられる!」
「だから、誰も三番勝負を挑まない...」
「まあ、それもあるが、それは昔の話で、今は統治能力が求められる時代だ。モモコ・シュテン大王殿は、統治者としてもとても優れておる!」
そう言ってエンマ大公は誇らしげに酒を飲んでいるベンケー・シュテン大王を尊敬の目で見たのだった。
「しかし... ベンケー・シュテン大王のファーストネームがモモコと言うのは、めずらしい名前ですね?」
「なんだ、そのふぁーすとねいむと言うのは?」
「あ、すみません。最初の名前のことです」
「ああ。そのことか。それは、ソフィア殿が当時、とても仲の良かったモモとかモモッタとか言う親友がいて、その親友の名前をとって、生まれた娘をモモコとを名付けたのが代々シュテン家で踏襲されておるからだ」
“モモコとかモモとかモモッタって、なぜか前世で私が生きていた東洋の島国の女性の名前みたいだな...”ルークはそう思ったが、エンマ大公には何も言わなかった。
「ルークさま?」
「ん?」
「ああ、よかった。温泉に浸かって眠ってしまわれたのかと思いましたわ」
「いやあ、アイフィの体があまり抱き心地がいいものだから、幸福で眠りそうになったよ!」
「え?...... ウソだとしてもうれしいです」
誰もいない、河馬もいない三日月地獄温泉で、しばらくアイフィと二人でイチャイチャしていると、奥の方から声が聴こえた。
「あら、見て見て!ここのお湯が一番いいみたいですわ?」
あの声はアンジェリーヌだ。
「あーっ、本当、きれいな色ね!さっきの温泉は怖かったわ。私、鰐におっぱい齧られたかと思って悲鳴あげちゃった!」
この声はジョスリーヌだ。
「あれにはびっくりしたわね?」
「本当です。こんな風変わりな温泉、よく作ったものですわ」
「それも国賓の泊る宿舎にですよ?」
アマンダたちの声もする。
「わたしゅも... なんでぇ ワニちゃんは... わたしゅの 大きな オッパイが 好きなんでしょねぇ...」
リエルのろれつの回らない声も聞こえる。
「わ、わたしには... ワニさん、見向きもしなかったわ... ヒック!」
これはミカエラの声。
「それに しても リエル の おっぱい 大きい わねぇ... ヒック!」
「キャッ、ミカっ、そんなに揉まないでで!これはルークさま専用よ!」
ミカエラがリエルの胸を揉んでいるらしい騒ぎも聞こえる。
湯気がもうもうと立っているし、湯の中に小さな岩山があちこちあるのでよくわからないが、女湯も近くにあるのだろう。
「ちょとーォ、アンジェリーヌ、ここさっき『これから先 男湯』って書いてあった方だと思うのだけどーォ?」
「オトコって 言ったって 唯一のオトコ ルークさまは 今ごろ愛するテフ神教官さまと竈温泉で なかよく やっている はずよ―――ォ!ぎゃはははは―――っ!」
ミカエラはかなりタガが外れているようだ。
そして、女性たちの声はどんどん近づいて来る。
「みなさん... こちらに来るみたいです...」
アイフィが少し心配そうな顔でルークを見た。
「よし。河岸を変えるか!」
ザバーっと湯の中からアイフィを抱えたまま出ると、温泉の間の通路を通って竈温泉の方へ急ぐ。
竈温泉の位置は、先ほど温泉の入口にあった地獄温泉マップで見ている。
「ルーク王はどこだ―――――っ!」
聞き覚えのある声が地獄温泉中に響き渡った。
「え? あれは、もしかして...」
「ああ。あの声はベンケー・シュテン大王のようだな!」
アイフィと目を見合わせるルーク。
「大王さま、ここは国賓であるルーク勇者王さまと奥方さまが...」
「よい。かまわん!」
「ルーク王さまの機嫌を損ねると、重大な外交問題に...」
「そんな小心なルークではない!」
「でも...」
「うるさいっ!」
「しかし...」
「ツノをもぎとってやろうか?」
「......」
「......」
ピタピタと床を歩く足音が近づいて来たと思うと―
「おお!やはり『男湯』から入ったのが正解だったな!」
ふり返って見ると、そこにベンケー・シュテン大王が真っ裸でいた?!
堂々と誇らしげに胸を張って。
後ろに5人ほどいるのは、どうやら閻羅宮の侍女か何かだろうが―
全員もちろん生まれたときの姿だ。そして、いずれ劣らず若い鬼人美女だった!
そして、鬼人美女たちは寝室に置いて来たはずのフィフィを抱えていた?
「いやあ、寝室の前を通ったら、このドワーヴァリ娘、いや、ふぃふぃとやらが
「ルークさまが、ワタシを置いてきぼりにしてしまいましたでス――!」と泣いておったので、
連れて来たのだ。キャ―ッハッハッハ!」
「リュークさま イジワル でス!」
ルークを睨み、羨ましそうにアイフィを見るフィフィ姫。
「それは、その、フィフィが酔っぱらって寝てしまったから...」
「ワタシもドジョーネル王とナンシーネ王妃の娘でス!あれくらいのお酒で酔いつぶれたりしませんでス!」
「そうか。じゃあ、私においで。いっしょに抱っこしてあげるよ」
「わ―――い!」
現金なドワーヴァリ姫さまだ。
おかげでルークの腕には二人の柔らかな妻が抱かれることになった。
が― 重い!?
「10人もも妻を娶る勇者王だから、もう少し増やしてもいいだろうと思ってな。閻羅宮から選りすぐりの未婚女どもを連れて来てやったぞ。キャ―ッハッハッハ!」
そんなルークとアイフィ、フィフィを見ながら、なんだかちょっぴり羨まし気な顔の大王が大笑いをした。
「は、はあ...」
あまりの無茶ぶりにルークもしばしアイフィを抱えたままでフリーズしてしまった。
「いやあ、未婚女の中には、この私も含まれておるのだがな!よかったら、そこのテフ神教官といっしょに... (急に声を小さくして) 私もかわいがってくれんか...?」
最後の方は、何ともかわいい求愛の言葉だった?!
そして、照れ隠しにか、後ろにいる鬼人美女たちに向かって命令した。
「ほらっ、おまえたちもお願いするんだ!」
「は、はいっ。ルークさま、なにとぞ...」
リーダー格らしい鬼人美女の声に続いて、全員が一斉に頭をさげた。
「「「「「ご寵愛をくださいませ―――!」」」」」
「ル...ルークさま?」
アイフィがビックリしてルークを見上げる。
「よろしい。これがルークドゥル勇者王国とラーシャアグロス王国のさらなる友好と連携強化のためなら、謹んでモモコ大王さまのご提案を受け入れよう!」
パパパ パパパパ~ パパパ パパパパ~♪
《モモコ・ベンケー・シュテン大王が 仲間に加わりました!》 という声がどこからか聞こえた。




