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#2‐20 ベンケー・ シュテン大王②

「パパ―――――ァあああ!」


「おとうさまァ――――!」


鬼たちに喰われてしまうと感じたジョスリーヌとリエルが大声で叫び、今にも泣きそうになった。



「もうよかろう!」


大王が声をあげた。


「はっ!」

「はっ!」


通せんぼをしていた親衛隊が扉を開け、出て行った。



「いやあ、すまんかった、すまんかった!許してくれ!」


「大王さま、冗談が過ぎましたな!」

エンマ大公が苦り切った顔で言う。


「そう言うな。エンマ、おまえの顔が一番怖かったぞ?」


「何をおっしゃいます。私の顔が一番ぶさいくだからもっと怖い顔をせよ、と申されたのは大王さまではありませんか?」


「おう、そうだったか!」



「狂言ですか...?」


「おう!... 勇者王ルーク・シルバーロード、よく来てくれたな!」

ニンマリと笑みを浮かべるベンケー・ シュテン大王。


「私がモモコ・ベンケー・シュテン7世大王だ!」

ラーシャアグロス王国の大王は女だった!


それも、こんなイタズラを面白がってするような茶目っ気をもっていた?



「初めまして。ルークドゥル勇者王国の勇者王ルーク・シルバーロードです」

あらためて初対面のあいさつをする。


「こんなモノ、暑苦しくてかなわん!」


 大王はそう言って王冠を外し、立ち上がると毛皮のガウンを脱ぎ捨て、王杓を玉座に置くと、スタスタと檀上から降りてルークたちのところに歩いて来た。


 ルークは片膝をついて、頭を下げ、上位の者に対する礼をとっている。

コートにパンツというスタイルのアマンダたちも同じように片膝をついており、ドレス姿のアンジェリーヌたちも、片足を後ろに引き、もう片方の足を軽く曲げ、両手でドレスの裾を軽く持ち上げて行うあいさつ、いわゆる“カーテシー”で大王に敬意を示している。


 ジョスリーヌとリエルは半分まだ泣きべそ顔だが、ここはルーク王の妃としての見せどころなので、しっかりと王室で躾けられた通りにカーテシーをしている。


「よい、よい。そんな堅苦しいことは!」

そう言ってルークの前に来たシュテン大王。


 背は― 低い。155センチくらいだろうか。青い髪、緑色の目。

そして両耳の上から伸びている15センチほどのツノ。ツノをのぞけば、ふつうの女性だ。

 それも若い。そして、かなりの美女だった!

年の頃は二十代半ばか後半? まさか三十代ではないだろう。


シュテン大王がルークに手をのばし、二人はガッシリと握手をした。

ルークの手が痺れるほどの握力なのに驚いた。


「ルーク・シルバーロード、よくやってくれたな!お主のおかげでラーシャアグロス王国も領土を増やすことができたし、大事な公爵も死なせずに済んだ!ギャーッハッハッハ!」


「とんでもありません。デュドル公爵殿は優れた方です。私がいなくても必ずや形勢を挽回...」


「いや、アイツはビアストラボで見事に討ち死にしておったであろうし、お主が救ってなければデュドルのツノは、今頃はゾドアンスロゥプ皇帝の部屋に飾ざられていたであろう。ギャーッハッハッハ!」 


「確かに...」

少し面白くなさそうな顔でデュドル公爵が言う。


彼もルークがシュテン大王に招かれたと知って、先にガジーマに来ていたのだ。



「まあ、鬼人族はそうでなくてはならん。いざという時は立派に戦って死ぬのが鬼人道だ!」


居並ぶ鬼人族の貴族たちが大きく頷いている。


それから、シュテン大王はルークの同行者たち一人ひとりの手をとり話をした。


「アマンダでございます。ルークさまの妻です」

「おう。そなたか!無双の紫の髪の美少女剣士と言うのは?」

「いえ、もう妻ですので美少女ではありませんが...」

「おお、そうであった、そうであった。では、紫の髪の美女剣士だな?ギャーッハッハッハ!」


「プリシルでございます。お会いできて光栄です」

「おお、そなたも美女だな? そなたが百発百中の矢を射ると言う弓使いか?」

「なぜか全て命中します...」

「なぜか全て命中するか!ギャーッハッハッハ!それはいい!おまけに姿も消せるそうではないか?」

「は、はい」


すると、シュテン大王はプリシルの耳に口を近づけて訊いた。


(ねや)で消えたら、面白いであろうな?」

「!...」


さすがのプリシルも赤くなってしまった。



「リリスです」

「ハウェンです」

「おお!千切れた手足でも治してしまうというリリスに、いかなる攻撃も防御するというハウェンか!」

「千切れた頭は治せませんけど」

「ギャーッハッハッハ!それを先に聞いてよかった。誰か十王の一人の頭を切って、治してもらおうかと考えておったからな!」


「!」

「‼」

「ゲッ!」


十王と言うのは、そこに偉そうに並んでいる上位貴族たちらしい。

さすがの彼らもシュテン大王の冗談とも本気ともわからない言葉に額に冷や汗を浮かべている。



「アンジェリーヌです。大変光栄でございます」

「妹のジョスリーヌです。お目にかかり光栄です」

「おう。二人そろってバーボン王に似ずに美女だな?」

「母似と言われます」

「私は父似と言われています」

「ジョスリーヌは気性が父親似なのかもな?先ほどはすまなかった。あとで償いはするからな!」

「いえ、お気になされずに」

「そうはいかん!」



「ミカエラです。お会いできて光栄でございます」

「おお!そなたがスティルヴィッシュ伯爵の自慢しておった魔術師か?」

「でも...」

「うん、うん。知っとるぞ。そこのジョスリーヌに魔法バトルで負けたのだろ?」

「は、はい。恥ずかしながら修行が足りませんでした」

「負けてこそ、強くなるのだ。ところで質問があるのだが」

「はい。何でございましょう?」

「今日は来ておらんが、そこのプリシルの娘... 何と言ったかな?」

「マイレィです。大王さま」


プリシルが“なぜ、大王はマイレィの事を言おうとしているのかしら...?”と考えながら答えた。


「そう、そう。そのマイレィに額をチョンと突いてもらったかな?」

「え?......」

「なんだ、そなたは知らんかったのか?あの女の子は、秘められた能力を覚醒する力を持っているのだぞ?」


ルークもプリシルもおどろいた。

確かにマイレィには、そのような力があるらしいとは思ってはいたが、シュテン大王がすでにそのことを知っていたとは?!


「リエルでございます。先ほどは見苦しい恰好をお見せして...」

「いや、いや、謝るのは私の方だ。ジョスリーヌともども、あとで償いはしっかりとさせてもらう」

「いえ、そんな恐れ多いことは...」

「よい、よい。それにしても、そなたも情熱的な女子(おなご)だな?」

「シュテン大王さまのお耳にも届きましたか。恥ずかしいです...」

「いいではないか?好きな男、愛する男といっしょになるために、あらゆる障害を突き抜ける。鬼人道にも通じるところがある。私はそんな生き方が好きだ!」

「恐れ入ります」



「お久しぶりです、ベンケー・シュテン大王さま」

「おう、アイフィ神教官か!ルーク王に毎晩可愛がられて、見違えるような美人になったな?」

「ま、毎晩ではございません...」

アイフィが真っ赤になる。


「では二日毎か?」

「そ、それくらいです...」

消え入りそうな声で答えるアイフィ。

「うん、うん。女は好きな男から愛されてこそ、その存在価値がある!そなたの勇気を羨ましく思うぞ?」

「ありがとうございます」



 大王のこの言葉で、ラーシャアグロス王国に少なからず残っていた彼女に対する批判や偏見の声は消滅してしまうことになった。アイフィがラーシャアグロス王国に来るのを躊躇した最大の理由が、批判や偏見だった。

 大王の優しい言葉にアイフィの青い目からとめどもなく涙が流れ落ちる。

謁見の間の後ろの方にいたダマロ・アンリュモ大神官も、大王の言葉に涙を流していた。

彼も、心ないガジーマの鬼人たちによるテフ神教官への批判に心を痛めていた一人だった。


「アンリュモ大神官殿のおかげで、礼拝堂ではもう結婚式の準備が整っておる。旅装を解いて、一休みしたら、誰もが羨むような美しい花嫁になるがいい!」


「大王さま―――っ!」

ついにアイフィはシュテン大王に抱きついて泣きはじめてしまった。


いかつい顔をした十王たちも―


涙を流していた。


鬼は泣かないというのはウソだ。


“鬼の目にも涙”という諺があるくらいなのだから。


もっとも、その意味は今回のエピソードとはあまり関係はないのだが...



 

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