#2‐16 ルークドゥル勇者王国④
大聖堂のパイプオルガンが荘厳な音を鳴り響かせた―
いよいよセレモニーの開始だ。それまでザワザワとおしゃべりをしていた招待客たちが静かになる。
司会役の若い神官が白衣を着て壇上の隅に現れ開会の辞を述べる。
「コホン、皆さま本日はこの晴れやかなセレモニーにご参加いただき、勇者王ルーク・シルバーロード陛下および花嫁たちと彼女たちのご家族を代表してお礼を申し上げます。
わたくしも、この歴史大聖堂で長年お務めを果たして参りましたが、このような光栄な結婚式は初めてです... ベラベラ...... ベラベラ......
というわけでありまして、晴れやかな今日の晴れやかなセレモニーの司祭は、オジロン・ヒッグス大神官によってとり行われます」
長ったらしい説教のような開会の辞が読み上げられ、ヒッグス大神官が紹介された。
ヒッグス大神官は、エルフであり、テルースの世界を二分する大宗教エテルナール教の最高権威である教皇にかなり近い立場にあるという人物だ。
ちなみに、もう一つの宗教はソーリス教で太陽神を崇め、東ディアローム帝国やその同盟国などで信奉されている。
マビンハミアン国でも東ディアローム帝国に習ってソーリス教が盛んであり、創造主の教えを信じるエテルナール教は冷遇され、邪魔者扱いされていたのだが、ソーリス教教徒でないルークが帝都アンドゥオストに迫った時、大司祭は皇帝より先に逃げ出してしまったのだ。
西ディアローム帝国ではエテルナール教が信奉され、総本山も帝都ゾオルにある。
ルークが帝都に入城したあとであいさつに来たオジロン・ヒッグス大神官と話し、彼のことを気に入ったルークは大聖堂をエテルナール教にあたえ― もともとはエテルナール教の寺院だったそうだ― エテルナール教を保護することを約束したのだった。
みんなは壇の袖を見る。
今にも長身のヒッグス大神官が颯爽と現れる... と思って見ている。
ルークもこのところ多忙で会ってないヒッグス大神官を見れると思って見ていると― 袖に中年の神官が現れ、司会役の若い神官に小声で何か言い、若い神官がおどろいているのが見えた。
「え―っ、コホン。突然ですが、ヒッグス大神官に代わってテフ神教官が司祭を努めます」
ザワザワザワ…
大聖堂を埋め尽くした招待客たちがざわつく。
神教官は大神官に次ぐエテルナール教の神職で、エテルナール教の中でもエリート中のエリートといわれ、テルースの世界にも30人もいないと言われる神職なのだ。神教官に選ばれるということは、大神官のイスが約束されていると言うことであり、教皇は大神官の中から選ばれるのだ。
が―
カツカツとヒールの音をさせて壇上に現れたのは… 真っ白いトゥニカを着た若い女性だった!?
「アイフィ・ウィンテル・テフです。ヒッグス大神官は都合により司祭が出来なくなりましたので、わたくしが代行いたします」
落ち着いて静かな口調で簡単に理由を説明するテフ神教官。
頭にはトゥニカと同じ白いウィンプルを頭にかぶっているが、ウィンプルから見える髪は白い。
テフ神教官は、少しも動ぜず白い髪、青い目で落ち着いてみんなを見る。
彼女の気高い美しさに大聖堂にいる招待客たちからため息のような声が出る。
「ご来賓の皆さま、ではただいまより創造主エタナール様の見守る中で、ルーク・シルバーロード王とソフィエッタ、ミカエラ・アイウェンディル・モリオダ、アンジェリーヌ・マリー・バーボン、ジョスリーヌ・レリア・バーボン、それにリエル・エイルファ・・ボードニアの婚姻の儀式を行います」
厳かにパイプオルガンが鳴り響き、聖歌隊の歌う美しい創造主賛歌が大礼拝室に響き渡る中、ルークが
入場し、テフ神教官がいる祭壇の前で花嫁たちの入場を待つ。
最初に入場したのはソフィエッタこと、フィフィだった。純白の総刺繍入りのボールガウンのウエディングドレスは裾がとてつもなく広く、さすがに大金持ちであるドワーヴァリ族の族長であるドジョーネル王の娘の花嫁衣裳に相応しいものだ。
ヴェールをかぶった頭には、大きな宝石が入った見事な金のティアラをつけている。
招待客たちが ウオオオオ――――!と どよめく。
わが娘の手をとって歩くドジョーネル王も見事な王冠をかぶっているが、娘がこのような立派な結婚式を挙げられるのをとても誇らしげだが、よく見ると少し緊張しているように見える。
しかし、もっとも緊張しているのは、やはりエマヌエラだった。
カチンコチンに緊張して絨毯の上を歩くフィフィは、今にもドレスの裾を踏んずけて転びそうだ。
トレーンベアラーの若いエルフ娘二人が必死になってフィフィが転ばないようにしているのが微笑ましい。
“って、フィフィに二回も結婚式を挙げさせるなんて、ドジョーネル王もナンシーネ王妃も、まったくバカ親だな...” とルークは思ったが、新郎新婦の家族の場所に座ったドジョーネル王とナンシーネ王妃の幸せそうな顔を見ると、みんなが幸せなら、それでいいのだと考えた。
祭壇の前でドジョーネル王からフィフィを受け取り、腕を組んで彼女を所定の位置へ導く。
「ルークさま... うれしいでス...」
キラキラ輝く目でレオを見つめ、頬を紅潮させたフィフィはとてもかわいかった。
「フィフィ、とてもきれいだよ」
できれば、このままさらって寝室に連れて行ってムフムフをしたいところだが、ほかの花嫁もいるし、そういうことをやる場合でもないと自分に言い聞かせて自制する。
が...
ルークはフィフィの頬チューをした。
さらに赤くなるフィフィ。
オオオオ―――― と招待客たちが声を出す。
「とても夜まで待ちきれそうにないよ...」
そっと耳元に言うと、フィフィはピーマンのように赤くなった!
その次に入場したのはミカエラだった。
ビアストラボの戦いの時、魔法バトルでジョスリーヌに負けて、その後でレオに一目惚れした、エルフにはめずらしい黒い髪と黒い瞳の魔術師だ。
ミカエラのウエディングドレスは美しい刺繍入りのマーメイドラインと呼ばれる、腰のラインがよく見える美しいドレスだった。やはり裾の方には満遍なく刺繍がほどこされていてとても美しい。
頭には白い真珠のティアラをつけ、白いヴェールと似合ってとても美しい。
これらはすべてアマンダたちが用意してあげたものだ。
が…
ミカエラはカチコチに緊張していた。
彼女はブレストピア国の田舎出身で、小さいころからその魔術の才能を認められ、有名なヨガヴィッド山の魔術学校で魔術を修学したという天才魔術師だ。これもメッチャ緊張した顔の父親のアダーロに腕をとられて赤絨毯の上を歩いていたが、ミカエラの顔は緊張のあまり蝋人形のように無表情になっていた。
“こりゃマズいな。少しミカエラの緊張を和らげてあげないと…”
アダーロからミカエラを受け取ると、祭壇に向かって歩きながらそっと小声で言った。
「ミカエラ、とてもきれいだよ!」
「あ、ありがとうございますっ」
「初夜を二回も迎えれるなんて、何て幸運の持ち主だね!」
「......!」
一瞬、ミカエラは歩みを止めてしまった!
見ると真っ赤になっている。ハッと気づいてまた歩きはじめた。
「ルークさまのイジワル...」
しかし、それで彼女の緊張は解けたようだった。
その後で赤絨毯の上に現れたのはアンジェリーヌとジョスリーヌだった。
アンジェリーヌのウエディングドレスは、純白で袖と裾に美しい金糸刺繍がほどこされた見事なもので、ジョスリーヌのも純白だが、袖と裾には銀糸の刺繍が施された美しいものだった。
それぞれ、頭には宝石を散りばめたティアラをしており、数メートルあるケープを引きずっている。
父親のバーボン王が右腕にアンジェリーヌの腕、左腕にジョスリーヌの腕をとって得意満面の顔で歩いて来る。赤絨毯の上を歩いているアンジェリーヌもジョスリーヌも幸せで輝いていた。
ルークも両腕にアンジェリーヌとジョスリーヌの腕をとって祭壇に向かって歩く。
そして最後に赤い絨毯の上に現れたのがリエルだった。
リエルはレインボードレスと呼ばれる七色のウエディングを着て王女の王冠をかぶっていた。
彼女の腕をとって歩いているのは、ルークの盟友となった父親のオルガス王だ。
つい最近15歳になったばかりのリエルは、15歳とは思えないほどしっかりした感じで祭壇の前で待っているルークを見ながら歩いている。
ルークはリエルが若すぎるので彼女との結婚は、もう少し先に延ばそうと考えていたのだが、リエルは納得しなかった。
「結婚してくださらないのなら、婚約を解消して国へ帰ります!」
とルークを脅かしたのだ!?
ルークとしても、せっかく中立を維持して来たボードニアン王国と同盟を結んだので、ここでリエルとの婚約を解消すれば、オルガス王との同盟も解消される恐れがある。
わがままで気の強い(だが、けっこう可愛くて美少女でもある)リエル王女に押し切られる形となったが、そういう外交上のことも考えて結婚を決意したのだった。
リエルはうれしかった。ついに愛するルークレオ王と、今日、こうして結婚できるということが。
1年前のあの日、ミタン城で行われたバーボン王の王女二人の婚約式の時にルークをひと目見て恋をしてしまったリエル。
バーボン王の3番目だか4番目だか知らない王女のデビュタント・パーティーも兼ねて行われた舞踏会で、リエルは5回もルークと踊った。 ボードニアン王国の王女という特権を使って、ルークと踊りたがっていたほかの貴族のレディーたちの順番を奪ってまでして。
そんな我儘なリエルを批判もせずに優しく扱い、リードしてくれたルーク。彼女のハートはもうドキドキしすぎて爆発しそうだった。
“私、絶対にルークさまのお嫁さんになるわ!”
固く決心したリエルは、パーティーが終わったあとで父のオルガス王と母のシラ・エレン王妃を「ルークさまと結婚させてください。結婚させてくれなければ食事をしないで死にます!」と脅したのだ。
しかし、リエルはそこまで強硬に訴えなくとも良かったのだ。なぜなら、オルガス王はルークと初対面の挨拶をした時に、“この男なら信用できる”と確信しており、シラ・エレン王妃もルークにゾッコンになってしまったからだ。
祭壇の前で微笑みながらリエルを待っていたルークが、彼女の腕をとったときにリエルはわれに返った。そして、キラキラした目でルークの顔を見る。 “私、とうとうルークさまと結婚できるんだ!”
「リエル、とても美しいよ!」
「う...れしいです」
なぜか涙があふれそうになり、そっと白い手袋をはめた指先で目をぬぐう。
チュっ
ルークがその瞼にキスをする。
オオオオ―――― と招待客たちが声を出す。
「夜にはたっぷりと愛してあげるよ...」
そっと耳元に囁くと、リエルは真っ赤になってうつむいてしまった。
花嫁たちが花婿であるルークの両横に並び終わる。
いよいよ結婚式のクライマックス、誓約だ。




