#2‐15 ルークドゥル勇者王国③
華麗な軍服を着たガバロス騎兵百騎が、これも華麗な衣装を着たヴァナグリーに跨って、ドッ、ドッ、ドドッと整然と石畳の広い道を進む。
沿道を埋め尽くした市民は、ヴァナグリーの容姿の凄さに後ずさりしながらも怖いもの見たさで興味深げに見ている。ガバロス騎兵隊の後には百騎の鬼人騎兵たちが、これも勇ましく、凛々しく進む。
リンリンリンリン…
その騎兵隊の後から首に付けられた鈴の音を鳴らせて、大聖堂へと続く道を華やかに飾られた王室馬車を牽いて走るのは二匹の巨大なヴァナグリー... ブレータとギバオーだった。二匹とも美しい馬着ならぬヴァナグリー衣装を着て、誇らしげに石畳の道を走っている。
さらに馬車のあとから、百騎のエルフ騎兵、そして百騎の獣人騎兵が続く。
ルークがマビンハミアン帝国を占領し、勇者王となってからのルークドゥル勇者王国の最初のビッグ・イベントは華々しく荘厳な結婚パレードだった。
馬車の中には、美しい花嫁姿のアンジェリーヌ王女、ジョスリーヌ王女、ミカエラ、リエル王女、それにフィフィ姫の5人が乗っていた。
フィフィ姫はすでに去年、別邸で結婚式を挙げているのだが、「ワタシもお城で結婚式を挙げたいでス!」とねだったのでまたすることになったのだ。
ドジョーネル王とナンシーネル王妃が、「たのむ、ルーク殿。結婚式の費用はすべてワシたちが持つから!」とまで言われて「しません」というバカはいない。
ドジョーネル王は、長年にわたってヴァン大湿原やあちこちの川や湖の底で見つけた金や宝石をたくさん持っていて超金持ちなのだ。
* * *
マビンハミアン帝国の帝都アンドゥオストの都民だった獣人たちは、耳の短いエルフが新帝王ではなく新王になって、国名を変え、都名も変えてしまったと聞いた時、これから耳の短いエルフたちによる獣人族への迫害や差別が始まると思って戦々恐々となったが、勇者王と自ら称号を名乗った新王は、さっそく布告を発令した。
《ルークドゥル勇者王国の国民に告ぐ
為政者は変わったが、元マビンハミアン国の国民ならび元帝都のアンドゥオストの都民も、
新たにルークドゥル勇者王国の国民になった者も何も心配することはない。
勇者王ならびに勇者王国政府の命令および政策に反する言動をとらない限り、
誰人といえど不当な差別を受けることも、不当な扱いを受けることも、過分な税金を支払うこともない。
真面目で正直に仕事をし、家庭を大事にし、社会の秩序を守る者にはその出身がいかなる国であろうとも、優等国民としての恩恵を受けるであろう。
テルース歴 〇〇〇〇年〇〇月〇〇日
ルーク・シルバーロード勇者王 》
そして布告通り、獣人もエルフも同様に平等に都民として国民として扱われた。
ただ、理由もなくルークを批判し、政策を守らず、反抗的、反政府的な言動をとる者にはアマンダの創設した勇者国保安隊によって厳しく取り締まわれ、厳罰に処された。
元マビンハミアン国の国民たちは、マビンハミアン帝国を占領し、皇帝を亡命せしめた張本人、勇者王と名乗る新王は、専制主義者だったアンドゥイン皇帝よりもマシだと知り、恐れや不安は安心と希望に代わっていった。
* * *
大聖堂で新王が美女5人と結婚すると知らされて、新王の花嫁の姿を見られるということから城から大聖堂へと続く広い石畳の道は獣人やエルフたちであふれかえっていた。
王都の警備をあずかるアマンダ保安長官は、5千人のガバロス戦士を沿道に配置し、警備にあたらせた。花嫁の乗った馬車に狼藉を働いたり、結婚式の邪魔をする不埒な者に備えての予防策だ。
馬車の前後を行進した騎兵隊も、華々しい馬車行列を見せることのほかに、馬車の警護という大事な役目を担っていたのだ。
しかし、アマンダの心配は杞憂に終わった。狼藉を働く者は一人も出ず、みんな見事な騎兵隊のパレードに見とれ、手を振ったり、歓声を上げたりして祝ってくれたのだ。
馬車の隊列は大聖堂の前に止まり、美しいイブニングドレス姿のアンジェリーヌ王女、ジョスリーヌ王女、ミカエラ、リエル王女、フィフィ姫が降りて赤絨毯の敷かれた石段をあがり大聖堂の中に入って行った。
大聖堂の5つの大きな青銅の扉はすべて開けられており、中はもう招待客でいっぱいだ。
大聖堂の最前列にはミタン王国のバーボン王夫妻、ボードニアン王国のオルガス王夫妻、ドジョーネル王夫妻、それにラーシャアグロス王国の王代理としてデュドル公爵、さらに西ディアローム帝国皇帝の代理のボンガゥル侯爵が座っており、その両横にはギャストン伯爵、スティルヴィッシュ伯爵、ペンナス伯爵たち貴族が座り、その後ろには元マビンハミアン国の貴族たちが座っていた。
* * *
ボンガゥル侯爵はデュドル公爵とともに1週間前にルークタラスに着いた。
「やあ、ルーク勇者王殿、お久しぶりです!1年もしないうちにマビンハミアン帝国を占領し、王になられたとギャストン伯爵から知らされた時は驚きましたよ!」
「からかわないでください、公爵殿。これもギャストン伯爵やスティルヴィッシュ伯爵たち、それにドジョーネル王のドワーヴァリ戦士、ヴァナグリー、ガバロス騎士団たちのおかげですよ」
「ご紹介します。こちらはレンベルダウン公爵、西ディアローム帝国皇帝の信頼厚い方で、今後の東ディアローム帝国との戦い方を協議するためにわが国に来られたのですが、ルーク殿から結婚式の招待状を頂いたと言うと、是非、いっしょに行きたいというので連れて来ました」
公爵はそばにいる大柄なライオン族の貴族を紹介した。
「ルーク勇者王殿ですな。ご高名は西ディアローム帝国にも聞こえておりますぞ。私は ボンガゥル・ジャバリュー・ゼリアンスロゥプです」
「ゼリアンスロゥプと言うと... ローム帝国の初代皇帝の...」
「はははっ。私の家は初代皇帝家の支流ですので、大したものではありませんが...」
言葉は謙虚だが、西ディアローム帝国― つまり、ドリアンスロゥプ皇帝が― もっとも信頼している同盟国の一つであるラーシャアグロス王国と今後の戦い方を協議するために送り込んだ人物なのだ。
それだけ皇帝の信頼があり、頭も切れる将軍に違いない。
ルークはデュドル公爵とボンガゥル侯爵の後ろにいる美しい鬼人族の女性を見ていた。
鬼人族ではめずらしい金髪碧眼の美女だった。
「あ、紹介が遅れました。これは私の妻のリンマイユ・ギャレッタ・シュタインです」
「リンマイユです。勇者王さま、どうぞよろしくお願い申し上げます」
ルークに紹介されてポッと頬を染めて頭を下げた。
「いや、その勇者王と言うのはやめてくださいよ。デュドル公爵殿もボンガゥル侯爵殿もリンマイユさんも!ルークだけで結構です」
西ディアローム帝国皇帝の代理者とラーシャアグロス国王の代理者を迎えるというので、城の前の広場にはエルフ兵、獣人兵、ドワーヴァリ戦士、それにガバロス戦士からなる儀仗兵が整列していた。
整然と並ぶ儀仗兵たちの前を通りながら、ボンガゥル侯爵は眼を細くして最後列に並ぶ体の大きなガバロスたちを見た。
「ほほう... これが、ビアストラボで見事に窮地にあったデュドル公爵殿の軍を救い、形勢を逆転し、さらにブンドリ半島に攻め入ったブレストピア国とマビンハミアン国の軍を破ったガバロス戦士たちですか...」
「エルフ兵も獣人兵も、それにドワーヴァリ戦士たちも頑張ってくれました」
「ヴァナグリーですな。門の外で整列しているのを見たら、西ディアローム帝国へ逃げ帰りたくなりましたよ!ワーッハッハッハ!」
閲兵式のあとで、城内にある迎賓を迎えるルームに移った。
60平方メートルを少し超える小さな部屋だが、壁や天井に豪華な装飾が施された部屋で、シルク布張りのソファや椅子、それにクジャク石のキャンドルスタンドなどがあり、国賓などを迎えるのに相応しい部屋だった。
「ルーク殿とデュドル公爵殿のおかげで、東ディアローム帝国の傀儡であったブレストピア国とマビンハミアン国はすでに西ディアローム帝国の同盟国の手中にある。グランウォルド地域もラーシャアグロス王国の支配下に入り、さらにこれまで中立であったボードニアン王国までも味方につけ、このルークドゥル勇者王国からルーク殿が東ディアローム帝国に睨みを利かせておれば、ゾドアンスロゥプ皇帝もこれまでのように西ディアローム帝国を攻め続けることはできん。その意味からも、今回のルーク殿とデュドル公爵殿の果たされたことは、貴公たちが想像しておられる以上に我らが皇帝ドリアンスロゥプ陛下を喜ばされ、安堵させられた」
「ゾドアンスロゥプ皇帝も、大慌てで西部戦線の兵力を南部と東部に送らなければならなくなり、その隙を突いて北の同盟国、ドヴェルグ王国がレウエンシア国に攻め入りましたしね」
デュドル公爵も大きく頷きながら、勇猛で有名なドワーフ国がすでにレウエンシア国の領内に侵攻していることを付け加える。
「ドリアンスロゥプ陛下も、出来れば今回のルーク殿の結婚式に参加したがっていたのだが、何分、遠すぎるのでな... しかし、それにしてもルーク殿は不思議な方だ。すでに4人も美女を妻にしていながら、あれよあれよと言う間にミタン王の王女二人をしとめ、さらにそこにおられるドジョーネル王の姫をしとめ、それから... 魔法使いのエルフ美女の...」
「ミカエラですよ、ボンガゥル侯爵さま」
アマンダが助け船を出す。
「そうだ、そうだ。そのミカエラをしとめ、さらにボードニアン王国の... なんと言ったかな...」
「リエル王女です。侯爵さま」
今度はプリシルが教える。
「そうだ。リエルと言う、テルースの東側では有名な美少女だそうではないか?まあ、王女を娶ることで、それまで中立だった国までもが味方になるのであれば、ルーク殿にはさらにワチビア地方やボットランドの有力貴族の娘たちを妻にして欲しいものだ。ワーッハッハッハ!」
ブレストピア・マビンハミアン戦役前の勢力図
ブレストピア・マビンハミアン戦役後の勢力図




