#2‐13 ルークドゥル勇者王国①
元マビンハミアン国のすべての貴族が所有する領地は勇者王国の国有地になると聞いて、マビンハミアン国の貴族たちは驚き騒ぎはじめた。
「静かに!」
ルークが声を張り上げ、アーレリュンケンが大きな剣の鞘尻をゴツン!と音高く床に当てるとみんな静かになった。
「私は何も元マビンハミアン国の貴族諸侯を追い出そうとも飢え死にさせるとも言ってない!
元マビンハミアン国の貴族諸侯が所有する屋敷や建物、それにその周囲の菜園などの土地は、
5エーカーまでは私有地としての所有を認める。
諸侯は国有地となった領地の管理責任者となり、その領地において、いかに利益を出せるかに専念して欲しいのだ。
そこであがる収益に比例して、国から報酬が支払われることになるが、国は利益が出るように指導をするし、
必要と見れば投資もする。したがって、うまく管理すれば、そこから上がる収益は大きなものとなることは間違いない。
戦はまだ終わっておらず、戦にはとても金がかかると言う事はみんな承知している通りだ...」
そこで、ルークドゥル勇者王国では農地改革を実施し、農業の効率化と生産増加を目指し、そのために兵は常備軍とすることを発表し、畜産業、鉱山業、林業、漁業― つまり第一次産業の振興を推進し、さらに気候が温暖で綿栽培に適しているので綿植え付け面積の拡大と織物産業の推進を打ち出した。
マビンハミアン国が占領され、元皇帝は亡命し、新しい王は貴族の領地をすべて国有化するという爆弾宣言をし、さらに常備軍の設置、農業だの林業だの鉱山業だのの振興とか貿易推進とか、それまでに聞いたこともない政策を次々と打ち出す新国王に茫然となる元マビンハミアン国の貴族たち。
「すべて、私を信じてください。悪いようにはしません!」
そう言って、ルーク勇者王は大ホールにいる貴族たちを見渡し、貴族たちは新王の言葉を信じた。
「ふむ。ああ言っておられるのだ。信じよう!」
「そうだな。ルーク勇者王は信じるに値する王だ!」
「悪いようにはしないと申しているのだ。信じよう!」
「何事も信じることから始まるからな!」
元マビンハミアン国の貴族たちは、一人残らず新王の新政策に賛成した。
こうしてルークの新王就任式と政策発表は大成功のうちに終わったのだった。
その日はルークドゥル勇者王国の創立とルーク勇者王の就任を祝って祝宴が開かれた。
上機嫌で酒を飲み、真っ赤な顔になったギャストン伯爵がルークに近づいて来て酒臭い息を吐きながら大声で言った。
「ガ―――ッハッハッハ!愉快、愉快!ルーク殿が自分の国を持つようになるとは思っても見なかったぞ?」
2メートル近い鬼人族の大男はガシッとルークの肩を握りしめた。
「俺は家督は息子に譲って、余生をお主といっしょに愉快に楽しく過ごすことにしたぞ? デュドル公爵殿にもすでにお許しを頂いておる!」
「ええっ? 私といっしょに、この国で過ごす?」
「そうだ。イヤか?」
「いえいえ、とんでもありません!ギャストン伯爵さんのような、頭も切れ、戦いも上手で信頼もおける人がいっしょになってこの国を助けてくれると言うのは大変ありがたいです!」
「そうか!それを聞いて安心した!ガ―――ッハッハッハ!」
大笑いをしながらまた酒を取りに行ったギャストン伯爵の次にルークの前に現れたのはペンナス子爵だった。
「シルバーロード勇者王殿、是非、私も...」
「ペンナス子爵さん、ブンドリ半島からいっしょに戦って来た仲間です。以前通りルークでいいですよ!」
「いえ、そんなわけには... 王に成られたのですから、その地位にふさわしい敬意が必要です」
生真面目な子爵らしい。
「じゃあ、ルーク王でいいですよ」
「では、改めまして、ルーク王殿。是非、私もこの新しい国でお役に立ちたいと思っています!」
「え? 領地の方はどうするのですか? ペンナス子爵殿はお父上の跡を継いで伯爵になるのでは?」
「いえ。家の方は弟に継がせることにしました。父もルーク王殿といっしょに戦ってブンドリ半島から敵を追い払い、さらにマビハミアン国を占領したことを大変よろこんでくれています」
「わかりました。それでは、これからルークドゥル勇者王国政府のしかるべき役職についていただくことになるでしょう」
「いえ、私は役職など...」
どこまでも謙虚な青年貴族だった。
同じようにして、スティルヴィッシュ伯爵、ナエリンダン侯爵、ダルドフェル伯爵、マスティフ伯爵、マーゴイ侯爵、エルゼレン伯爵、エンギン辺境伯たちも、新王となったルークに改めて忠誠を近い、正式にルークドゥル勇者王の家臣となった。
マビンハミアン国の貴族たちについては、ルークはまだよく知らないので、この10ヶ月ほどいっしょに戦って来た仲間であるギャストン伯爵たちやスティルヴィッシュ伯爵たちを信頼して新政府を固めた方がいいと考えていた。
ルーク王は、仲間である貴族たちや元マビンハミアン国の貴族たちの称号は維持することを約束し、その称号を子孫に継がせることも認めた。元マビンハミアン国の貴族にせよ、ルークに説得され仲間となった貴族たちにせよ、特権階級であり、農民、商人、職人などほかの階級の者たちよりも名誉と知識と富、それに権力を持っており、それら彼らを貴族たらしめ、その存在理由となっていたのだ。
したがって、新しい国の創立にあたっては、彼ら貴族をルークに選ばれたエリートと信じこませることで、さらに忠実な家臣となることをルークは知っていたのだ。
ルークドゥル勇者王国創立宣言の一週間後、ルークは政権閣僚を決定した。
総務大臣: アマンダ・ラヴォルジーニ・シルバーロード
軍務大臣: グロッルド・アングレン・ギャストン伯爵
外務大臣: ゴルウェン・フイル・スティルヴィッシュ伯爵
経済・貿易大臣: カルヤ・ジュ・ケネドル(ペンナス子爵⇒)伯爵へ昇格
農業・漁業・工業大臣: ゲラルド・ベルジオン
鉱山大臣: (未定)
文部大臣: (未定)
総務大臣には、アマンダを任命した。
彼女はその話をルークから聞いた時、ちょっと驚いたが、前の世界では魔軍の統括長をやっていたこともあり、「ルークさまのご命令でしたら」と快く引き受けてくれた。どこまでも従順なアマンダだ。
軍の統括者としては、戦いの経験豊かで信頼のおけるギャストン伯爵を任命。外務大臣には人格があり、人望もあり、冷静なスティルヴィッシュ伯爵を選び、経済・貿易大臣には、若くて生真面目なペンナス子爵、ことカルヤ・ジュ・ケネドル子爵を伯爵に昇任して任命した。
こうすることでほかの貴族たち並みの爵位を持つことになり、仕事がしやすいとルークは考えたのだ。
カルヤはルークから辞令を受けた時、とてもおどろいた。
「私は人生経験も浅い未熟者です。とてもではありませんが、そんな大任を果たすことは出来ません!」
そう言って辞退しようとするカルヤをルークは諭したのだ。
「たしかに君は若い。だが、私の国の政府で重要な役職を務めるのは、君のような真面目な人間、いや、エルフが不可欠なのだ。分からないこと、知らないことは、これから覚えていけばいい。私も最大限の協力をしよう。君が出世したと聞けば、君のご両親もさぞ喜ばれることだろう」
最後の言葉が子爵の胸に届いたのだろう。ようやく引き受けてくれたが、すぐそのあとで伯爵に昇格することを伝えると、ガバっと片膝をつき、頭を深く下げてさらなる忠誠を誓ってくれた。
主産業の一つとなる農業を振興するためには、農園の支配人であったゲオルグを呼んだ。
農園の方はルーク式管理システムをこの1年半ですっかり覚えたウルバンと彼の助手ルポルに任せることにした。ルポルは若いこともあり、頭も良くて最近目だって成長しているので、近い将来立派な経営スタッフになるだろう。一応、ゲオルグは出張という形にし、ルポルを副支配人に昇格し給料も上げてやった。
産業振興の一つとして、裁縫業、いわゆるファッションメーカーを立ち上げるために、農園のファッション工房『モンスタイル』の責任者であるサレッテも呼んだ。農園の工房の方は、ほかにもしっかりしたベテランの裁縫師たちがいるので、彼女たちに任せることにした。
ゲオルグが到着してから二十日後にサレッテが数人の裁縫師とお針子などを連れてやって来た。
そのことを報告に来たゲオルグは後ろにお腹が大きいイクゼルを伴っていた。
「報告が遅れましたが、去年の暮れにイクゼルと所帯を持ちました。今、身ごもっていますのであと3ヶ月ほどしたら子どもが生まれますが、それまでは工房で頑張ると言っております」
「そうか。それは知らなかったが、おめでとう!」
ゲオルグもイクゼルも犬族だし、おたがいに30歳を超えた熟年同士の結婚だからうまく行くだろう。
工房の方はサレッテとほかの裁縫師が管理することになるが、大きな工房を建設予定で、増産に必要な裁縫師やお針子は地元の獣人女性たちを雇えばいい。
農園の工房の方は斬新的な女性ファッションが大人気となり、大繁盛で、今ではミタン国内だけでなく、ボードニアン王国やラーシャアグロス王国からもバイヤーが押し寄せるようになっており、噂ではブレストピア国やマビハミアン国、東ディアローム帝国にまで密輸され、目が飛び出るような価格で販売されているほどの人気ファッションとなっているそうだ。
唯一のネックは、すべてが手作業ということだ。“早く、誰かミシンを発明してくれないものか...”というのがルークの願いだった。
閣僚では、鉱山大臣も必要だが、これは適材が今のところ見つからないので当分空席にしておく。
法務大臣とか文部大臣とか科学大臣とかは、後々適材を見つけて指名するつもりだ。まあ、一国の法令を考え布令するのはルークだからそれほど必要ではないが、細かい法令などは、これも法令の専門知識のある者を見つけるしかないが急ぐことはない...
などと考えていたら、アンジェリーヌ王女から「私は学問の大事さを知っていますので、年端も行きませんけどよろしかったら文部大臣につけてください」とのプロポーザルがあり、ルークはおどろいたが了承した。
王女であるアンジェリーヌもジョスリーヌにも、アンドゥオスト城で優雅で贅沢な生活を遅らせるつもりは毛頭ない。ジョスリーヌもリエルも、結婚してルークの妻となったら、何か職をあたえて忙しくしてやるつもりだ。
王女さまであろうと、タダメシは食わさないというのがルークの考えだった。
何ともせこい勇者だ。




