#2-10 ブレストピア・マビンハミアン戦役②
パパパラパ――――!
パパパラパ――――!
突然ラッパが鳴り、ナエリンダン侯爵軍の弓隊、軽装歩兵隊が左右に開いて通り道を開けると、1万のドワーヴァリ戦士たちが前に向かって突進した。
「重装歩兵、道開け―――っ!」
エルフの重装歩兵隊長が大声をあげ、重装歩兵たちも慌てて左右に分かれると、ドワーヴァリ戦士たちがリザードマン部隊と衝突した。
ギャア――ア!
グェ――!
ガ――ア!
ドワーヴァリ戦士たちの圧倒的な強さに、リザードマン部隊はたちまち隊列を崩され、死骸の山が築かれる。
「ヴァナグリーども――っ、行け―――っ!」
ジルバネールがふたたび命令すると、戦うのは今か、今かとイライラしていた2万引きのヴァナグリーたちが1万匹ずつに分かれて左翼と右翼から大回りして1キロほど離れたところにいるリザードマン軍主力部隊目がけて走りはじめた。
右翼で蜥蜴人部隊と戦っている重装騎兵隊の外側を―
左翼で蜥蜴人部隊と戦っている軽装騎兵隊の外側を―
おどろくほどの速さで駆け抜ける。
砂埃を高く舞い上げて信じられないほどの速度で迫るバケモノのようなものを見てゾギュルが叫ぶ。
「アレは何だ?凄い速度で迫って来るぞ!弓だ、弓隊に攻撃させろ!弓隊だ!」
慌てて弓隊が矢を射るが、慌てているので統制がとれずバラバラの矢攻撃だ。
しかも、ヴァナグリーたちの鱗は硬く、矢などは撥ね返してしまうのだ。
さみだれのようにパラパラと降る矢の中を一匹も落伍することなく突進して来る。
「応戦だっ、応戦しろっ!迎え撃て――っ!」
ゾギュルが慌てふためいて叫ぶ。
両翼に配置されていた蜥蜴人部隊が応戦しようとしたが、ナエリンダン侯爵軍の最後尾にいたヴァナグリーたちは3千メートル以上の距離を5分とかからずに走り抜け、次々と20メートルほどジャンプして両翼に襲いかかった。
両翼のリザードマン兵たちは、ヴァナグリーの強力な顎と牙で頭を噛み砕かれ、鋭い爪で体を引き裂かれ、たちまち隊列が崩れる。
右翼と左翼の真っ只中に突入したヴァナグリーたちは、リザードマン兵たちを噛み千切り、引き裂き、太いシッポでなぎ倒す。
ギャアア――!
グェエ――!
ガギャ――ア!
ヴァナグリーたちの猛攻に、リザードマン兵たちは一目散に逃げはじめ、それをヴァナグリーが猛追撃する。
逃げるリザードマンたちが片っ端から食いちぎられ、引き裂かれ、背骨を折られて倒されて行く。
まさに地獄だった!
一方、ナエリンダン侯爵軍の前衛のエルフ重装歩兵隊に突撃していたリザードマン部隊に突っ込んだジルバネール指揮下のドワーヴァリ戦士たちの猛攻で、こちらもリザードマン部隊は総崩れになり後退しはじめた。
それを先ほどジルバネールのドワーヴァリ戦士部隊を通すために左右に分かれたエルフ重装歩兵隊が押し包むように右からと左から攻撃を始め、中衛に位置していたエルフ軽装歩兵隊がドワーヴァリ戦士部隊がカバーできないところに突っ込む。
そして右側と左側から進撃して来たリザードマン部隊を迎え撃ったエルフ重装騎兵隊とエルフ軽騎兵隊は、リザードマン部隊を蹴散らす。
右翼から攻めて来たリザードマン部隊はゾギュルの主力軍に向けて逃げ出し、それをエルフ重装騎兵隊が追い、そのまま敵の主力軍の中に突っ込んだ。
左翼から攻めて来たリザードマン部隊はゾギュルの主力軍から千メートルほど離れたところを潰走し、後を軽騎兵隊が追撃する。
リアアブの戦い-図3
リザードマン軍は総崩れとなり、必死になって逃げ、ヴァナグリーがその後を追い、そこにナエリンダン侯爵軍に突撃して来たリザードマン部隊を壊滅したドワーヴァリ戦士1万と身軽なエルフ軽装歩兵隊が追撃を開始する。
3時間後―
ゾギュルのリザードマン軍は、5万以上の戦死者を残して蜘蛛の子を散らすように逃げて行ってしまった。
そして3万を超えるリザードマンがナエリンダン侯爵軍の捕虜となり、ナエリンダン侯爵軍はグランウォルド地域西部占領の目処がついたことを確信したのだった。
ナエリンダン侯爵軍は、そのままグランウォルド西域を制圧するために進軍を続けたが、もはやリザードマンたちから攻撃を受けることもなかった。
そして1週間経った時、リザードマンの使者が「交渉をしたい」と申し入れて来た。それも、ゾギュルの首を持って!
ナエリンダン侯爵はおどろいたが、リザードマンたちは戦う意思がないことを示すためにゾギュルの首を持って来たのだとすぐ理解し、代表と話し合うことになった。
「ベリンギです」
「ウエドグだ」
「ボリイガ!」
三人の代表は、西側に棲むリザードマン部族の中でも、もっとも大きい部族の族長だと言った。
ちなみに、一番若いボリイガがゾギュルの部族の後継者とのことだ。つまり、ボリイガがゾギュルの首を掻いた張本人ということだが、恐らくボリイガ一人でゾギュルを討ったのではなく、多くのリザードマンがゾギュルを始末した方がナエリンダン侯爵軍と交渉しやすいと考えたのだろう。
「ワレワレは、これ以上同胞を無駄な戦いで死なせたくない。オマエたちの強さは、とてもワレワレが敵うものではない」
最年長と思われるベリンギが沈痛な表情で言った。
「ワレワレは、オマエたちが望むのなら、いっしょになって東ディアローム帝国と戦う!」
中年と思われるウエドグが、決意のこもった声で言う。
「ただし、その代わり、ワレワレにずっとグランウォルド地域に棲み続けても良いという保証が欲しい」
ベリンギが条件を出した。
「よかろう。わが軍もラーシャアグロス王国も、お前たちリザードマンがこのままグランウォルド地域に棲みついて良いという保証をしよう。ただ、その代わり、リザードマンたちはこれからわが軍とラーシャアグロス王国軍が東ディアローム帝国ならび、その同盟国とすることになる戦いに参加することが条件だ!」
ベリンギ、ウエドグ、ボリイガの西部リザードマン部族代表は侯爵の条件を受け入れ、グランウォルド西部地域の制定はなされた。
一方、グランウォルド東部地域の占領を目標としたスティルヴィッシュ伯爵軍は、ナエリンダン侯爵軍のように戦いをすることもなく、話し合いを通じて無血で東部地域を占領することが出来た。
と言っても、ブレストピア王国と友好的な東側のリザードマン部族と言えど、やはりブレストピア王国を裏切った形となったスティルヴィッシュ伯爵軍に無条件で東部を占領させることに眉をひそめる部族長や、スティルヴィッシュ伯爵軍の占領を受け入れることで、反対にブレストピア王国軍から攻め込まれるのではないかと危惧する部族長も少なからずいた。
だが、西側のリザードマン部族軍10万がナエリンダン侯爵軍に大敗し、リーダーであったゾギュルが殺されたことを知ると、異義を唱えていた部族長たちもスティルヴィッシュ伯爵軍の支配下に入ることに即座に同意した。
そして、東部蜥蜴人部族の大族長であるベロリア・インジールと有力部族代表である長たちとスティルヴィッシュ伯爵の話し合いが開かれ、ナエリンダン侯爵の示した条件と同じく、グランウォルド西部地域に蜥蜴人部族が平和に棲み続ける保証の交換条件として、対東ディアローム帝国の戦いに東部リザードマン部族の戦士の参加が要請され、インジール大族長たちはこれを受け入れたのだった。
かくして、グランウォルド地域占領を目標としたナエリンダン侯爵軍とスティルヴィッシュ伯爵軍は、2ヵ月で目標を達したのだった。
しかし、全てが順調だったかと言えば...
戦いは順調だったのだが、ガンクツーネルの弟のジルバネールが『リアアブの戦い』で華々しい大活躍をしてナエリンダン侯爵軍を大勝利に導き、ナエリンダン侯爵や騎士、兵たちからその戦いぶりを絶賛され― ナエリンダン侯爵軍とスティルヴィッシュ伯爵軍はヴァナグリーを使って頻繁に連絡をとりあっていたので『リアアブの戦い』における大勝利もその詳細もすべてスティルヴィッシュ伯爵軍にもたらされていたのだ― それを知った兄のガンクツーネルと配下のドワーヴァリ戦士たちが大いに腐ったという笑うに笑えないエピソードまで生まれたのだが。




