#2‐09 ブレストピア・マビンハミアン戦役①
ルークがバーボン王からの手紙を待っている間、ブレストピア国の首都イヴォール攻略軍とグランウォルド地域攻略軍は『アルムーン作戦』にしたがって進軍していた。
イヴォール攻略軍はデュドル公爵軍7万7千(騎兵2万)、ダルドフェル伯爵軍は7万(騎兵1万6千)、合わせると15万近い大軍だ。それにドワーヴァリ族戦士1万5千人、ヴァナグリー2万匹が加わったことで、向かうところ敵なしの大軍団となった。
ブレストピア王国政府は、ナエリンダン侯爵とスティルヴィッシュ伯爵の率いるブレストピア軍5万の兵(騎兵8千)とダルドフェル伯爵の率いる東ディアローム軍8万(騎兵2万)でもって、ラーシャアグロス王国南部の領主であるデュドル公爵軍をとっくに破ったと考えていた。
一方、南下したブレストピア軍は、デュドル公爵の居城であるオルトン城を包囲しており、オルトン城の落城も間もないと信じていた。
さらに北上をしたダルドフェル伯爵の東ディアローム軍は、ラーシャアグロス王国の首都に迫っているだろうと楽観視していた。
それが突然、デュドル公爵軍とダルドフェル伯爵軍が自国領内に攻め入って来たという急報が来たのだ。ラーシャアグロス王国の南部攻略を最終目標として出陣し、南部を治めるデュドル公爵軍と戦いになったナエリンダン侯爵からは
《デュドル公爵軍の退路を塞ぎ、補給路を絶った。ダルドフェル伯爵の東ディアローム軍と連携し、ビアストラボの郊外でデュドル公爵軍を殲滅する》
という報告を受け、シレンシィユー大洋とユピリアント大洋に囲まれ漁業や農業の盛んなミタン王国を征服するのも時間の問題だと思っていたのだ。
ブレストピア王国のゲネンドル王とマビンハミアン帝国のアンドゥイン皇帝の間で取り交わされた約束では、ラーシャアグロス王国南部とミタン王国をブレストピア王国軍が占領し領土とし、ラーシャアグロス王国の北部をマビンハミアン帝国が領地にするというものだった。
ちなみに、東ディアローム帝国は、西ディアローム帝国とドヴェルグ王国との戦いで多忙でありラーシャアグロス王国にまで出兵することは出来ないので、
《占領した国は、ブレストピア王国とマビンハミアン帝国で好きに割取せよ》
と白紙委任状を東ディアローム帝国のゾドアンスロゥプ皇帝から受け取っていた。
「それはどういうことだ?ダルドフェル伯爵は東ディアローム帝国を裏切ったと言うのか!なぜだ?」
すでにラーシャアグロス王国南部は手中にあると思い込んでいたゲネンドル王は、
殲滅されたはずのデュドル公爵軍が、殲滅したはずのダルドフェル伯爵軍とともにブレストピア王国内に侵攻し、王都に迫っていると報告を受けた時、卒倒しそうになった。
ブレストピア王国の南西部の貴族たとからは、次々と悪報がもたらされて来る。
「ハンノンベリ辺境伯軍が敗北し、伯爵は捕虜になりました!」
「マゴーム辺境伯軍が敵に寝返りました!」
「ドゥリンオン伯爵軍が敗走しました!」
「エイルボット子爵が敵側につきました!」
「ハソルム子爵とドリンム男爵が敵側に寝返りました!」
「何と不甲斐ない、恩知らずの貴族どもだ!寝返った貴族どもが王都に所有する屋敷、土地、財産はすべて没収せよ!」
あまりのショックにワインをがぶ飲みしながらゲネンドル王は命令するが、そんなことは何の足しにもならないことは王自身がよく知っていた。
「して、メギルウィンド公爵とソールタング公爵の軍勢の到着はまだか?それにルストガルは?」
「はい。メギルウィンド公爵様からは《出陣の準備中》とのお返事を頂いております。
ソールタング公爵からは、まだお返事を頂いておりません。何分、かなり遠方にお住まいですので...
ルストガル大公殿からは、5万の兵を引き連れて10日前に出陣したとのお知らせを受けております」
ゾロワリン厩役伯爵が報告する。
「メギルウィンドもソールタングも、だらだらと時間稼ぎをしおって!
娘を娶らせ、あれだけの領土をくれてやったのに、日和見主義を決めたか!
ルストガルの軍はいくら急いでも一ヶ月はかかるであろう... それまで間に合わん!」
メギルウィンド公爵とソールタング公爵は、それぞれゲネンドル王の王女二人を嫁がせた貴族で、ゲネンドル王もその見返りにブレストピア国東部と東南部に広大な領地をあたえていたのだ。
ルストガルはゲネンドル王の三男で、隣国 マビンハミアン帝国の第一皇女と結婚し、 マビンハミアン国の南部に領地をもっている― 言わば入婿みたいなものだ― が、いかんせん、距離が遠すぎる。
アムルーン作戦図
デュドル公爵軍とダルドフェル伯爵軍は、抵抗するブレストピア国の貴族は攻め、恭順を示す貴族は自軍の傘下にいれ、さらに兵力を増しながら王都へと快進撃を続けていた。
一方、グランウォルド地域攻略を目指した元ブレストピア軍の ナエリンダン侯爵軍の4万(騎兵隊6千騎)とスティルヴィッシュ伯爵軍の3万(騎兵隊3千5百騎)の軍は、それぞれドワーヴァリ族戦士1万、ヴァナグリー2万匹とともに、グランウォルド地域の南南西部と南南東部という二つのルートから侵攻を開始した。
スティルヴィッシュ伯爵軍はグランウォルド地域の東へ向かって進撃した。
その狙いは東側に住む蜥蜴人族は隣国であるブレストピア国のエルフたちと交流があり、蜥蜴人の出稼ぎなどもブレストピア国では多く受け入れていることから、かなり友好的なので交渉をしてこちら側につけようと考えたからだ。
しかし、ナエリンダン侯爵軍は、ブレストピア国とはまったく交流がなく、東ディアローム帝国寄りである蜥蜴人族と戦いながらグランウォルド地域西側の攻略を進めることになった。
当初はナエリンダン侯爵軍も西側に棲む蜥蜴人族と話し合って、味方につけることで攻略を早めようとし、西側に棲む蜥蜴人族の大族長ゾギュルと交渉を試みた。
ところが、ゾギュルは東ディアローム帝国側についていた方が利益があると考え、金貨5千万枚という途方もない寝返り金をナエリンダン侯爵に要求し、侯爵もとてもそんな大金を払うことは出来ないので交渉は打ち切りとなった。ゾギュルもナエリンダンが到底払えないと言うことを見越して途方もない要求をしたのだ。
だが、ゾギュルはすぐに後悔することになった。
ゾギュルは、グランウォルド西部地域に棲む、150を超える蜥蜴人部族の長だった。
その西部地域の蜥蜴人族の人口は250万で、戦士数だけでも50万人を超えていことから、わずか5万人ほどのナエリンダン侯爵軍など何するものぞ、と高を括っていたのだ。
「いいか、東ディアローム帝国を裏切ったナエリンダン侯爵の軍を破れば、東ディアローム帝国からも褒美がもらえるだろうし、捕虜にしたナエリンダン侯爵軍の貴族や騎士は身代金を稼げ、兵はドレイとして売りさばけば大儲けできる!」
ゾギュルは部族長会議でそう宣言すると、「早い者勝ちだ!」と言って、自分の部族とほかの部族を合わせて10万を超える蜥蜴人戦士たちを率いて『リアアブの地』でナエリンダン侯爵軍の行く手を遮った。
リアアブの戦い-図1
ナエリンダン侯爵軍を支援するドワーヴァリ軍を率いていたのはジルバネール。
ドジョーネル王の三弟で副王だ。ナエリンダン侯爵と作戦を立て、侯爵軍は騎兵隊を重騎兵隊2千騎を右翼後方、軽騎兵4千騎を左翼後方に配置させた。
そして前面に重装歩兵5千人、そのあとに軽装歩兵1万5千、その後ろに弓兵4千を置き、さらに両翼に重装歩兵を5千ずつ布陣させ、ゾギュルの蜥蜴人軍と正面から戦うように見せた。
ジルバネールのドワーヴァリ族戦士1万とヴァナグリー2万匹は、さらに後方だ。
戦いは、数で勝るゾギュルが、軽装の蜥蜴人部隊の5万を三角体形でナエリンダン侯爵軍の正面に突入させたことで始まった。
蜥蜴人の走る速さは時速30キロにも達する。三角形で突入させ、ナエリンダン侯爵軍の正面隊列を崩し、そこへ末広がりの後続蜥蜴人戦士がなだれ込むというのがゾギュルの作戦だった。
ギャギャギャ――――――!
ギャギャギャギャ――――――!
ギャギャギャ――――――――!
けたましい叫び声をあげて、2千メートルの距離を怒涛の流れのように迫りくる蜥蜴人の大軍を見て、ナエリンダン侯爵が命令する。
「弓隊、撃て―――っ!」
シュシュシュシュ――――――
シュシュシュシュシュ――――――
シュシュシュシュシュシュ――――――
4千の弓兵が一斉に蜥蜴人の上に矢の雨を降らせる。
たちまちもんどりうって倒れる何百もの蜥蜴人たち。
だが、敵は大軍だ、倒されても倒されても続々と続いて迫って来る。
叫び声をあげて剣や槍をふりかざして突撃して来る蜥蜴人の大軍を見て、ナエリンダン侯爵軍の前衛であるエルフの重装歩兵たちはビビった。
「怯むな―――――っ!」
エルフの重装歩兵隊長が怒鳴った。
「我々には、ジルバネール殿の無敵のドワーヴァリ戦士たちとヴァナグリーがついている――!」
「「「「「「「「「「オオオオオオ――――!!」」」」」」」」」」
エルフ重装歩兵たちも蜥蜴人たちに負けない雄叫びをあげた。
ギャギャ――!
ギャ――――!
ギャギャギャ――――!
エルフ重装歩兵の隊列に突っ込もうとした蜥蜴人戦士たちは、重装歩兵の構えた5メートルもある長槍でたちまち先頭の集団が次々と串刺しになる。
エルフ重装歩兵たちは、長槍を抜く暇もなく、剣を抜いて戦い始める。
最前列で始まった激しい戦闘は、すぐに二列目、三列目へと広がっていくが、重装歩兵の防御は固く、蜥蜴人たちは重装歩兵の戦列を崩せない。
見ると、別の蜥蜴人部隊が左翼と右翼から二手に分かれて砂埃を上げて迫って来る。
「重騎兵隊と軽騎兵で迎え撃て――っ!」
ナエリンダン侯爵の命令で、左翼と右翼の後方に控えていた騎兵たちが蜥蜴人部隊目がけて突撃していく。
「よしっ!俺たちも行くぞ―――っ!」
ジルバネールが大声で叫ぶと、それを見たナエリンダン侯爵が叫んだ。
「ラッパを鳴らせ!」
パパパラパ――――!
パパパラパ――――!
最後尾の弓隊が左右に分かれ、その前にいた軽装歩兵隊も左右に分かれると、そこを1万人のドワーヴァリ族戦士たちが雄叫びをあげながら突進して行った。
リアアブの戦い-図2




