#05 ディナーでカタツムリを食べました
真っ裸のアマンダに続いて―
プリシルとアマンダとプリシルも、ミス・ユニバースのコンテストよろしく、一糸も纏わない姿で現れた!
いや、ミスコンは水着を着て出場する。一糸も纏わないミスコンなどありえないのだが。
前の世界では、ルークは魔王として妻たちとプライベートな時間を過ごすときは、服などは着せなかったので、彼女たちはその習慣が抜けてなかった。
まあ、夫婦の営みを王女たちや侍女・メイドたちに見せつけているわけではないし、男はルークだけなのでまったく問題はないのだが。
アンジェリーヌ王女とジョスリーヌ王女は、片付けの終わった侍女とメイドたちを帰し、二人でルークたちにお茶を淹れてくれ、クッキーを勧めてくれた。
どうやら二人はルークとお話をしたくて、「お茶とクッキー」「着替えの服」を口実にやって来たらしい。
アマンダたちは、王女たちが持って来た服を別室で着ているようで、「あら、素敵!」とか「この色もいいわね!」とか「なに、このドロワーズ?」「コルセットとか、使わないんですけど?」などと言った姦しい声が聴こえて来る。
王女たちは、隣の部屋の妻たちの会話に「?」とか、「え?」みたいな顔をしているが、さすが一国の王女さまたちだけあって、礼儀をよく心得ており、なんのコメントもしない。
「アンジェリーヌ王女さまー、あなたたち、こんな下着使わないのー?」
そう言いながら、アマンダが隣の部屋からブラとショーツだけの姿で現れた!
「ア、アマンダさま?」
「アマンダさま、そ、そのお姿は?」
二人ともあっけにとられた顔だ。
アマンダがつけているのは、花柄・刺繍入のブラとショーツだが、もちろん、中世の文化&ファッションのこの世界では、こんな最先端の下着など存在しない。
あれっぽっちの布だけで胸と恥ずかしいエリアを覆うなどと、考えられないことなのだ。
「こんなのでもいいのよ?」
プリシルが、ワインカラーのレース入ブラとパンティ姿で現れ、王女たちは同性なのに、目のやりどころに困っているようす。
「アマンダもプリシルもいい加減に王女さまたちを困らせるのはやめなさい!」
「はい」
「はい。ルークさま」
着替えの下着がなかったら、ナシでいればいいのだ。
パンティが発明されるまでは、中世の女性たちは下着などつけなかったのだから。
ようやく服を着終えたアマンダたちも加わって、王女たちとのおしゃべりが続く。
その間にルークも王女たちが用意してくれた服を着た。メジャーで測らないでも、ピッタリした服を持って来てくれたのは、宰相か誰かが、見た目だけで身体のサイズを当てることの出来る服飾の専門家にルークのサイズを測らせたのだろう。
ルーク用に用意されたのは、シルク製の長袖白シャツ、膝より少し上までの長さの紺色ジャケット(金色の模様入りで手首の部分にフリル付き)に同色のベスト。下は黒のストレッチフィットのニッカパンツに白い膝下までのソックスに黒の先がとがった革靴だ。
「ルークさま、とてもよくお似合いです!」
「ステキ!」
着替え終わって、居間にもどると、二人の王女から絶賛され、うっとりとした目で見られた。
「ルークさまは、何を着てもお似合いね!」
「世界一のイケメンですもの、当然ね!」
「まるで貴公子さまみたい!」
「これなら、どこへ行っても王様で通りますね!」
妻たちからもメチャ絶賛された!
王女たちとのおしゃべりは楽しく、あっという間に時間が過ぎた。
「夕食の支度が整いました」
執事がルークたちと王女を呼びに来た。
執事の名前はセベリンと言うらしい。代々ミタン王家に仕ええきた家系だそうだ。
食事は広間で行われた。
王族が食事をする広間で、30人ほどが座れるようになっている。
ドアがある壁を除いて、コの字型にテーブルが並べられており、上座のミタン王国の紋章がバックにある椅子にバーボン王が座り、そのすぐ右にバルバラ王妃、左側に継承権第一位のアドリアン王子、その左に次女のアンジェリーヌ王女、王妃の右に、次男のエヴァリスト王子とジョスリーヌ王女が座っている。
アンジェリーヌ王女の話では、長姉のアンナ王女はすでに隣国に嫁いでいるそうだ。
ルークたちは、執事に案内されて、バーボン3世王の左右に分けられて座る。
コの字型に配置されているテーブルの右の上座にルークが座り、反対側の上座にアマンダが座り、プリシラとハウェンがルークの横、リリスがアマンダの横に座った。子どもたちは、それぞれの母親の横だ。
執事のセベリン、厩役伯爵、クレール侯爵夫人、近衛隊長アルビオンなども、それぞれ序列を守った席順に着く。
厳格に身分の序列を守るのは、この時代ではふつうで、男女の差別も厳しい。
女性で王とともに食事ができるのは、王の家族とバーボン王によってVIPと認められたルークの妻たちだけだ。あとの女性たちは別室で食事をとる。
給仕人たちが手を洗うための水盤とタオル持って来ると、次にミュージシャンと歌手が入って来て、何やら軽快な曲を弾き、歌いはじめる。そしてようやく給仕たちが、酒の瓶を抱えてワインをグラスについでまわり、それからメイドたちが料理を次から次へとテーブルに運んで来た。
「それでは、アドリアン・ドゥ・バーボン3世王とご家族の皆さまのさらなる健康・長寿と幸運、そして異世界からやって来て、アンジェリーヌ王女さまとクレール侯爵夫人を救われたルーク・シルバーロード王とその美しい王妃たちを歓迎してカンパ―――イ!」
「「「「「「「「カンパ――――イ!」」」」」」」」
厩役伯爵の音頭取りで全員が乾杯をする。
厩役伯爵はエルブルックという名前の貴族エルフで、馬役みたいな役職名だが、そうではない。
軍務一般を統括する、王国の国務大臣のような要職なのだ。
料理は―
動物の肉のロースト、肉と野菜をごった煮したようなシチューに、鳥の丸焼き、それにハムやソーセージ、ベーコンらしいものなど、それに白パンで、サラダ類は一切なかった!
それと川か海が近いのか、魚の塩漬けや燻製、干物などを使った料理もたくさんあった。
そして、カタツムリ料理― エスカルゴと地球で呼ばれるヤツ― もあった?
そして―
料理はみんな手づかみで食べた!!
まあ、地球でもカラトリー(ナイフ&フォーク)が使われ始めたのは19世紀になってからなので、中世期のこの世界では手づかみは当然なのだろうが― 明らかに、プリシルやリリスたちは困った顔をしていた。
ただ、アマンダだけは“マナーは手づかみ”と見て取ると、さっさと料理をとって食欲旺盛に食べはじめた!
若いし、先ほど部屋でルークとかなり激しい運動をしたので腹が減っているのだろう。
自分も食べながら、骨付きの鳥肉をルファエルにもとって食べさせている。
それを見てプリシルたちも観念したのか、手づかみで食べはじめた。
やはり腹が減っているらしく、旺盛に食べている。彼女たちは若いし、先ほどルークとかなり激しい運動をしているから、エネルギーの補充が必要なのだ。
ルークは、みんながドロリとした濃いスープ状のものをカップに注いで飲んでいるのを見て隣りにいるアンジェリーヌ王女に訊いた。
「それは何のスープですか?」
「これはアベナ麦を砕いてスープにしたものです、ルークさま。エルフの主食なんですよ!」
ルークから訊かれたことがうれしくてたまらないといった感じで説明してくれた。
見ると、反対側にいるジョスリーヌ王女が羨ましそうな顔でアンジェリーヌをとルークの話す様子をガン見していた!