#21 農園拡大計画①
農園を視察して屋敷に帰って来ると、フィフィ姫の両親が来ていた。
親衛隊ドワーヴァリと侍女ドワーヴァリたちを引き連れて!
幸い、ヴァナグリーは連れて来てなかった。
「いやあ、昨日、フィフィの初歌声が湿原にまで響いて来てな。もう子どもが出来たのではないかと思って来たんじゃよ!」
「フィフィはツルッタが好きなので、ニンシンして気分が悪くなったら、これを食べるようにもって来ましたのよ!」
「モう... パパ モ ママ モ! ナンで、 そンなニ タクさン 家来 連レて 来るノ? 恥ズかしイワ!」
「そう言うな、フィフィ姫よ。おまえが降嫁してから、もう1日も経つからな。ルーク殿と幸せにやっとるか見に来たんじゃ!」
「そうよ。昨日はフィフィの初歌声が大湿原中に聞こえたから、もしかしたらオメデタかもって思って、ツワリになっても食べれるように、あなたの大好きなツルッタを持って来てあげたのよ?」
侍女ドワーヴァリたちが、2匹ずつ持って来た1メートルほどある大きなツルッタをドサドサっと庭に置いた。
全部で20匹以上もある。ツルッタはサーモンピンク色のマスに似た魚で、焼いて食べても生で ― つまり刺身だ― 食べてもおいしい魚だと料理人のタイユヴァンが教えてくれた。
どうもこの世界では、寝室でするアレの時に女性は歌を歌うらしい。
歌が大きくリズミカルであればあるほど、カップルは幸せだということのようだ。
“そう言えば... ソフィエッタもアンジェリーヌも、昨日は農園中に響くような声で歌っていたな。いや、農園中どころか、大湿原にまでとどいたのか?”
などとルークは思い出して驚いていた。
「ト、トニかク ワタシ ハ ニンシン なンカ シテいないワ! 一度、歌ヲ 歌っタ クラい デ ニンシン なンカ スるハズ ナいデしょ?!」
「そりゃわからんぞ? 婿殿のタネが元気よくて、フィフィの畑が肥沃だと一度で子どもが出来るかも知れんからのう!」
「まあ、焦ることはないわね。フィフィ姫も若いんだし、ルークさまもお若いから、毎日毎晩励んでいれば、すぐに可愛い孫の顔も見れるわね!」
まあ、こんなところで立ち話も何ですからと言って、ルークはドジョーネル王とナンシーネ王妃を応接間に案内した。お供の親衛隊ドワーヴァリと侍女ドワーヴァリたちはさっさと帰したようだ。
フィフィはナンシーネ王妃と話しながら遅れて応接間にはいって来た。
たぶん、初歌の詳細でも訊かれたのだろう「ソんナ コとハ イくら お母サマ デも 話セませン!」とかいう声が聞こえた。
ちょうど昼食の時間だったので、ドジョーネル王とナンシーネ王妃を昼食に招待するとよろこんだ。
たぶん、降嫁した姫の訪問云々は言い訳で、本当は昼食をよばれたかったのだろう。
ウルバンたちの話しによれば、別邸のエルフたちとドワーヴァリたちの関係は良好で、ドワーヴァリたちが沼や川で捕る魚と農園でとれる果物などをいつも物々交換しているそうだ。
だが、フィフィがルークの妻になったことで、ドジョーネル王たちも、ルークたちとの関係をより強める口実が出来たと思っているのだろう。
ドワーヴァリたちは、彼らに害を加える者に対しては容赦なく立ち向かうが、そうでなければ極めて友好的な種族なのだ。ルークにとっても、農園にとっても、ドワーヴァリたちとの関係強化はメリットが多いのだ。
ナンシーネ王妃が持って来たツルッタをタイユヴァンが塩焼きにして、楽しい昼食となった。
農園の支配人になったことから、ゲオルグもルークたちといっしょに食事をとることになった。
ゲオルグは最初、辞退したが、食事を通してルークの妻たちを知ってもらい、また、農園の状況などについても妻たちの前で難しい話はしても意味がないのだが、ざっくばらんな状況などを話してもらって、妻たちだけでなく屋敷で働くメイドたちなどにも知ってもらいたいというのがルークの考えだった。
「ほほぅ... 婿殿は、ここの農園を拡大されると申すか? それで、どの程度拡大するつもりなんじゃ?」
意外にドジョーネル王は農園拡大に関心を示した。
ルークは、まだこれから新たに支配人になったゲオルグ、別邸管理人のウルバンと詳細を詰めていくつもりだが、農園経営で利益をあげることを目指すと話した。
「ふむ... それで、農園を拡大するのに必要な労力はどこで調達するつもりなのかな? 現在、30人ほどいると言ったが、単純計算でも規模を5倍にすると150人は必要になるが...?」
「そうですね... O村かM町あたりが一番近いんですけど、それでもO村までは二日半、M町となるとさらに遠いので、農夫用の宿舎を増築するしなければならないでしょうね」
「......... ものは相談じゃが、婿殿はドワーヴァリを農夫として使って見るつもりはござらんかな?」
「!」
「!」
「!」
ルークもゲオルグもウルバンもドジョーネル王の提案にはおどろいた。
なるほど。ドワーヴァリたちだったら、別邸の目と鼻の先の大湿原に住んでいるので、別に宿舎を作る必要はない。それにドジョーネル王の部下たちであれば、身元もしっかりしている。
「でも、ドワーヴァリって、一日に何回か水を浴びないとダメなんじゃないですか?」
ゲオルグが、沼を棲家としているドワーヴァリの体質について質問する。
「いや、それは心配ない。一日くらい水がなくても問題ないし、もし、水が欲しければ昼メシのときにでも水を浴びればいいんじゃよ!」
「ドジョーネル王さん、そのご提案、受けさせていただきます。作地の拡大が始まったら、すぐに必要な農夫数をご連絡します。賃金などは、現在のこの農園の農夫と同じで、それに将来、利益が出るようになれば利益分配もします!」
まさしく、願ったり叶ったりのドジョーネル王の提案だった。
「おお!そうか。利益分配もあるのか。それは楽しみだな!それで、農園拡大の資本金はどうするのかな?」
「倉庫に貯まっている穀物などを販売して資金を作ろうと考えています」
「ふむ。それもいいと思うが、ワシにも資本金を出させんか?」
何とドジョーネル王はルークの農園拡大計画に資本参加もしたいと言いはじめた。
例のフィフィ姫に持参金の代わりに持たせたのと同じ宝石類を、ドジョーネル王はかなり蓄えているようで、この際、その一部をルークの事業に投資したいと言うのだ。
もちろん、ルークは即断でオーケーした。
ただし、農園経営には口だしはしないという条件つきで。
農園経営のことはゲオルグとウルバンに任せるつもりなのだ。
ルークにせよ、ドジョーネル王にせよ、農園の事に関しては門外漢なのだ。
一方、ナンシーネ王妃はプリシル、リリス、ジョスリーヌたちとフィフィを交えて、例のファッションの話しに花を咲かせていた。
そして、何とナンシーネ王妃は、プリシルたちが前の世界で着ていた服や下着を見せると、目を輝かせた!
「それは素晴らしい考えですわ!さすがフィフィ姫、私の娘だけあります。美的感覚に優れていますわね!」
ナンシーネ王妃が、フィフィ姫が裁縫職人を雇うための資金を提供することを決めた娘を褒める。
「ママ、恥ズカしいカラ、ソンナに褒めナイデ... 決メタのハ私だケじゃナクテ、アンジェリーヌさまトジョスリーヌちゃんモヨ!」
「そうなの? さすがルークさまが、妻にすることをお認めになられた王女だけありますわね!」
ナンシーネ王妃、だてに歳はとってない。フィフィ姫が王女たちとも仲良く暮らしていけるようにと、王女たちを持ち上げる。
「いいえ、私はただ姉上の考えに従っただけですわ」
ジョスリーヌが褒められて、顔を真っ赤にしながらもうれしそうだ。
「歳はフィフィ姫の方が、ジョスリーヌさんより少し上ですけど、エルフ社会での人生経験はジョスリーヌさんたちの方がずっとありますので、これからも未熟なフィフィ姫をよろしくお願いしますわ」
そう言うと、わずか14歳のジョスリーヌに深々と頭を下げた。
昼食後、お茶やワインを飲みながらの話は3時間にもおよび、帰りにはドジョーネル王夫妻は手土産にルークがもたしたワインや果物をよろこんで持って帰った。




