#02 グッド・プロローグ
魔王が転移した新しい世界。
さて、ここはどんな世界なのか?
「ここは...!」
ベイアリアが驚いて目の前に広がる光景を見ている。
□□□□もしばし茫然となって、美しい光景に見とれた。
どういうわけか、ベイアリアは騎士の恰好をしていて、美しい緑色のプレートアーマーをつけ長剣を腰に差している。
ルークたちは、色とりどりの小さな花が咲き乱れる野原にいた。
空はどこまでも青く、真綿のような雲が流れている。
「ここがテラ?」
「なんてきれいなところでしょう!」
プリシルとハウェンも驚いて目を瞠っている。
二人も騎士の恰好をしている。
ハウェンはパープル色のプレートアーマーをつけているが、プリシルは黄色のキュイラス、それと腕を防護するアッパーカノンと足はパウレインとグリーブだけという、かなりの軽装で、腰に1メートルほどのソードと背中に弓を担いでいた。ハウェンは2メートルほどの短槍とやはりソードを下げているが、背中に少し大きい盾を背負っている?
ルークは妻と子どもたちが全員無事なのを見てホッと安堵していた。
“あいつは死んだのか…”
常に彼に忠実だった副官の名前を急に思い出した。
そしてその時、ルークは気がついた。
あの世界に魔王として転生する前に創造主と交わした会話で、彼女が「前世で□□さんに忠実だった部下を付けてあげますわ」と言ったことを。
“あいつがその部下だったのだな…”
心の中でルークは忠実だった副官の冥福を祈った。
チュン... チュン...
小鳥が飛び、蝶が舞っている。
「あら、あそこに小さな村がありますわ!」
リリスが指さす方向には、小さな教会の尖塔が見え、その周りを家が囲むようにある。
どういう設定か、リリスだけは水色のドレスを着ていた。
「□□□□さま?」
そのときになって、ベイアリアは後ろにルークが立っているのに気づいた…
□□□□は姿が変わっていた。
真っ黒だった髪は金髪になっており、真っ赤だった目は美しいすみれ色になり、唇の色も赤かったのがピンクになっている。そして黒かった肌の色は白くなっていた。
「□、□□□□さまですよね?」
「□□□□さま?」
「魔王様、肌の色が白くなって...!」
「□□□□さま、その恰好どうされたのですか?」
ルークは白銀色のアーマーをつけ、腰には立派な剣を下げていた。
そして片手にフルフェイスのやはりアーマーと同色のヘルメットを持っていた。
身長は180センチくらいで変わってないが、以前ガッシリとした体格だったのがよりスリムになっていた。
「うん。今から私の名前はルークだ!これからは、この『テルースの世界』で勇者として生きて行く。だから魔王とは金輪際呼ばないでほしい!」
「「「「「ええ――っ、勇者――?!」」」」」
4人の美人妻と2人の子どもはズッコケた。
いや、マイレィは赤ん坊なので、「シェー!」と叫んだだけだが。
「何だかよくわかりませんけど... 魔王、いえ、ルークさまがそうおっしゃるのでしたら... では、私もアマンダと名前を変えます!」
「え?」
「「「「アマンダ?」」」」
ルークがおどろき、プリシルたちも唖然とする。
そのときだった。
「キャ――――――ッ!」
近くの森の中から女性の悲鳴が聞こえた。
怒声と馬の嘶き。
「おのれっ!」
「ぐわっ!」
誰かの叫び声も聞こえる。
間髪を置かず、ルークは叫び声がした森の方向へ全力疾走する-
ガチャガチャガチャ…
武器などの装備を含めると、20キロを超える重量のプレートアーマーは… 重かった!
それでも懸命に走るルークの横を、突風のように通り過ぎた者がいた。
「ル ルークさまっ?!」
彼をふり返って見る緑色のプレートアーマーに包まれた美女ベイアリア、いや、アマンダだった?
アマンダが森の中に飛び込んだと思ったら-
「ギギーィ!?」
「ギーィ!」
「ギギーィ!」
獣のような声が聞こえ
「ガァッ!」
「ゲホッ!」
ギャリン!
「ギャッ!」
ギャリン!
悲鳴と金属が当たる音が聞こえ始めた。
「ルークさまっ、お先にっ!」
また一人、ルークを抜いて行った。
紫の髪の美女― 軽装のプリシルだった。
森から少しはいったところで、女性が二人、周りを魔物に囲まれていた。
イノシシのような恰好の魔物は、頭にツノを生やし、ゾウのような長い牙をもっていた。
イノシシに似てるので、とりあえず『ブタゴン』と呼ぶことにした。
倒れているヤツを含め、30匹くらいいる。
すでに10匹ほどがアマンダに倒されていた?!
ルークがガチャガチャ…と近づき、剣を抜く間に、目にも止まらないような速さでまた斬りかかる。
ズバーッ!
ギャッ!
ズバッズバッズバーッ!
グワッ
ギエッ
ガハッ
ルークもようやく ブタゴンに接近し、上段からの一撃で一匹をたたっ斬る。
返す剣で、そいつの横にいたブタゴンを横払いで斬った。
3匹目を倒し終わったあとで、先ほどルークを追い抜いていったプリシルを素早く探すと...
どこにも見えない?!
「プリシルっ!どこだ――っ、大丈夫か――!」
思わず大声で叫んでしまった。
「は...い 私は ここです... 無事です...」
ちょっと離れた森の出口に青い顔をして呆然と立って戦いを見ていた?
「え? たった今、見たときいなかったけど、どこに隠れていたんだ?」
「なぜか知りませんけど、私の体が見えなくなったみたいなんです...」
“見えなくなった?どういう事だ?”
「ルークさまっ、危ないっ!」
プリシルの方を見ていたら、いきなりアマンダが跳躍して来て― それも7、8メートルも!― ルークを槍で突こうと迫って来たブタゴンを真っ二つにした。
「と、とにかく、プリシルっ、弓だ、弓で援護しろ!」
「は、はいっ... でも、私、弓の扱い方知らないんですっ!」
「なんでもいい、早く援護してくれ!」
「は、はいっ!」
見ると、一匹のブタゴンが大きな剣をふりかざしてすごい形相でルークに向かって来ていた。
ガッ!
一本の矢がブタゴンの革の鎧を貫いた。
プリシルの方を見ると、“え? 私が撃ったの?”みたいな顔をしている。
「その調子だ、プリシル!」
「は、はいっ!」
しばらくすると、あたりが静かになっていた。
あたりを見回すと、もう立っているブタゴンはいないことに気づいた。
倒れていたブタゴンたちは、しばらくすると魔石を残し消滅してしまった。
「あ、ありがとうございます!」
「どこの騎士さまか存じませんが、助けていただいてありがとうございます!」
あらためて二人を見ると、二人とも立派な服装をしている。
ひとりはまだ若く、十代で、水色の髪と水色― 少し緑がかった― の目をしている美少女だった。
もうひとりは中年の女性で、茶色の髪と茶色の目だ。
そして二人とも耳が細く長かった。
「エ、エルフ―――っ?」