#5‐03 ドゥモレ男爵③
アレクがロレアンスロゥプ皇帝の孫娘か隠し子かも知れない
と言う噂が、とうとうロレアンスロゥプ皇帝の耳にはいってしまった。
「なに?あのネコ耳娘が、我輩の孫娘?」
「はい。アデライダがそう申しておりました」
皇后が、皇帝の寵妃から聞いたことをロレアンスロゥプ皇帝に伝える。
「なに、あのかわいいハーフエルフのネコ耳娘が、我輩の隠し子?」
「はい。ブナワナさまがそう申しておりました」
近くの席にいた ディアマトマム大統領が、皇帝の寵妃から聞いたことを伝える。
「アレクサンドラとやら... ちこう寄るがよい!」
ロレアンスロゥプ皇帝が椅子から立ち上がって、アレクを呼んだ。
「え?」
突然、皇帝から名指しで呼ばれて戸惑うアレク。
「皇帝陛下がそばに来なさいと言っているのです」
ディアマトマム大統領が皇帝の言葉を分かりやすく言う。
「は、はい」
椅子から立ち上がり、恐るおそる皇帝に近づく。
「うむ... そちは、我輩の孫娘か、それとも隠し子か?」
「え? 皇帝さまの孫娘か、隠し子ですかって?!」
「孫娘でないことは確かだが...」
「わたしは、皇帝さまの孫娘でも隠し子でもありません!」
「なんと?」
「わたしは、ドリアンスロゥプ皇帝陛下の血筋の者です」
「ほう。どのような縁柄になるのだ?」
アレクはロレアンスロゥプ皇帝に説明をした。
彼女の父親―ボンガゥル侯爵の何代か前の祖先が、初代のゼロアンスロゥプ大王の血筋の王女を妻にもらったらしく、その時にライアンスロゥプと言う家名をゼロアンスロゥプ大王さまから授かったということを。
「ふむふむ...」
「ほう、そんなことがあったのか...」
まだ何かをムシャムシャと食べながら相槌をうっていたロレアンスロゥプ皇帝は、獣人族国の初代ゼロアンスロゥプ大王の血筋の王女をアレクの祖先が嫁にもらったと聞いた時―
ガタン!
と音を立ててテーブルに手をついて立ち上がった。
手をテーブルについたのは、食い過ぎてお腹が重くなりすぎて前に倒れそうになったからなのだが。
「では、そちは我輩の祖父の祖父の祖父の玄孫と言うことか!?」
「陛下、玄孫ではなく、来孫か昆孫です。
もしかすると仍孫か雲孫かも知れません」
博学らしいディアマトマム大統領が訂正するが、大統領もよくわかってない。
「あの... 申し訳ございません。そこまでは知りません」
“やしゃご”まではわかるが、“らいそん”とか“こんそん”とか“じょうそん”、“うんそん”など、聞いたこともない。
「ああ、よい、よい。ディアマトマムは物知りすぎる。今日からそちは我輩の玄孫だ!」
「え?皇帝さまの玄孫?」
「そうだ。ほれ、もっとちこう寄れ!」
アレクが近寄ると、皇帝は軽々と抱え上げて自分の膝の上に乗せた。
「えっ?」
突然のことにアレクは、かなり戸惑ってる。
「ふむ。 そちはエルフのハーフと聞いたが、なかなかふっくらしておるの!」
なんと、皇帝がアレクのボインを揉みもみしていた?
アレクは父親のボンガゥル侯爵がライオン族の血を引いているので、かなりボインなのだ。
「そちさえよかったら、我輩の妃になってもよいのだぞ? そうすれば、安い賃金で護衛などをする必要もなく、このナスガアルで幸せに暮らせるぞ?」
今度はアレクのオシリを揉みもみする。
さすが何十人も寵妃がいるだけあって、皇帝はかなりの女好きのようだ。
皇后もなれているのか、何も言わずにほかの寵妃たちとおしゃべりをしている。
「こ、皇帝さま、わたしはもう結婚していますっ!」
真っ赤になって、既婚であることを告げるアレク。
「ナニっ?そちは結婚しておるのか?」
「はい。ルークさま、いえ、ルーク王さまの妻ですっ」
「ゲゲッ!」
「あいたっ!」
驚きのあまり、ロレアンスロゥプ皇帝はアレクを落してしまい、アレクは尻もちをついた。
しかし、胸と同じようにふっくらとした大きなオシリのおかげで何ともなかった?
「も、申し訳ないことをした。許してくれ、アレクサンドラ王妃よ」
皇帝が平謝りだ。
皇后も寵妃たちもディアマトマム大統領も驚いている。
「ご、ご心配いりません、皇帝さま。わたしも身分を明かしていなかったのですから」
アレクが身づくろいをしながら言う。
「それに、ルーク王さまの妃はプリシルさまとわたしだけではありません。そこに座っているミカエラさまとアイフィさまもルーク王さまの妃なんですよ!」
「あちゃ~!」
「アレクちゃん、バラしちゃいましたわね!」
ミカエラとアイフィは、やれやれと言う顔だが、しかたがない。
二人は椅子から立ち上がると、ルークタラス城で教え込まれた作法にしたがって優雅に自己紹介をした。
「紹介が遅れましたが、ミカエラ・アイウェンディル・モリオダ・シルバーロード王妃です。よろしくお見知りおきを!」
「アイフィ・ウィンテル・テフ・シルバーロードです。よろしくお見知りおきを!」
恐怖の魔術師、ミカエラとアイフィがルーク王の王妃と知って、ロレアンスロゥプ皇帝や貴族たちの驚いたのなんのって...
「さすがルーク王殿の王妃さまだ。あれだけの魔法を凄まじい魔法を使われるわけだ!」
「まことでござるな!それにしても、大したものだ!」
「わたくしもそうじゃないかと思っていましたのよ!」
「ただの魔術師にしてはお美しすぎましたものね」
ミカエラとアイフィの評価が一変してしまった?
「それでは諸君。ルーク王の美しい王妃殿たちに乾杯!」
「「「「「「「「「「カンパ―――イ!」」」」」」」」」」
ロレアンスロゥプ皇帝の音頭で乾杯が行われ
それから二次会が始まった!
葡萄酒やエールや蒸留酒を際限なく飲むのだ。
肴は炒って塩をふった豆や、冬の寒風にさらして熟成させたサリレの薄切り、サリレのカルパッチョ、コドルナにタレをつけて焼いたものなどだ。
プリシルやアイフィはもっぱらフルーツジュースで酒は飲まなかったが、ミカエラは葡萄酒から始まって、エール、そして蒸留酒まで飲み、くだを巻きはじめた。
「わたしはね... 今でこそ“火神竜”って言って、みんなに怖がられているけどね。魔法デュエルではジョスリーヌに負けたのよ!」
「聞きましたわ。すごい勝負だったそうですね」
酔っぱらった黒髪の美女魔術師の相手をしているのはアイフィだ。
「でもね... ヒック... 負けたのよ!負けたの!」
「勝負はどちらか一方が勝ち、もう一方が負けることになっていますからね」
「でも、口惜しいじゃない!ヒック... わたしは、ヨガヴィッド魔術学校の中でも一番成績が優秀だったのよ!
その私が... 魔術学校に行ったこともないジョスリーヌに負けたのよ!ヒック...」
ミカエラはかなり酒癖が悪いらしい。
「でも、そのおかげでルークさまとお会いになり、ルークさまの奥さんになったのでしょう?」
「そう!そうなのよ!それを言いたかったの。そして、あのマイレィちゃんにオデコをツンと... フガフガっ」
ミカエラがプリシルに抱かれて眠ってしまったマイレィを指さして、ルークドゥル勇者王国の最高機密をバラしそうになったので、アイフィが急いで口を塞いだ。
「フガフガ... 手を... 話してェ... なんだか胃の中から何かがこみ上げて...」
ゲエエエエ――――ッ!
ファイアーブラストならぬ、ゲロを巻き散らかした!
プリシルが侍女を呼び、侍女二人に担がれて寝室へ連れて行かれるミカエラ。
その姿を見ながら、プリシルのそばにまたやって来たのがドゥモレ男爵。
「いやあ、ミカエラさんは魔術もお強いですが、お酒もお強いようですね!」
酒で少し赤くなった顔でにこやかに言う。
「ミカエラちゃんは、超一流の魔術師ですわ。というか、アイフィちゃんもそうですし、アンジェリーヌちゃん、ジョスリーヌちゃん、それにヴァスマーヤちゃんも、いずれもミカエラちゃんに勝るとも劣らない魔術師です」
「ほう... まだまだミカエラさんやアイフィさん並みの魔術師が、ルークドゥル国にたくさんいると聞いて驚いています」
「まさに無敵のルークドゥル国ですね!」
「無敵かどうかは知りませんが、ルークドゥル勇者王国はルーク王さまのおかげで立派な国になりましたわ」
ドゥモレ男爵は空になったカップをしばし見ていたが、目を上げてプリシルを見ると告げた。
「北西部への旅行の道案内は、私がクルフォルム侯爵さまから仰せつかまつりました」
「あら、そうですの。それは心強いですわね!」
「プリシル王妃さまは、この私が命に代えてでもお守りします!」
男爵は片膝をついて、ナイトとして誓った。
「見て、見て!ドゥモレ男爵さまが、膝をついて何かをプリシル王妃さまにお誓いしているわ!」
「まさか、永遠の愛を...?」
「ええっ?でも、プリシル王妃さまはルーク王さまの王妃さまでしょう?」
「でも、ほら、あるじゃありませんか。旅のアバンチュールって」
「そうねぇ。ドゥモレ男爵との禁じられた逢瀬... ああ、なんてロマンティック!」
「プリシル王妃さまが男爵さまをふったら、私が代わりに!」
「ブランディーヌ、なにを行っているの?あなたには、カミーロ子爵という立派な旦那さまがいるじゃない?」
「ふふふ。禁じられた逢瀬は、皇族や王族だけの特権ではないのよ!」
「じゃあ、わたくしも!」
「わたくしの方が若いわ」
獣人族や褐色エルフの貴婦人たちが姦しい。
ともかく、心強い護衛となるかどうかはわからないが、
ドゥモレ男爵がプリシル一行に加わることになった。




