#5‐02 ドゥモレ男爵②
ロレアンスロゥプ皇帝主宰の晩餐会は、ヴァニエル・メルダ宮殿で開かれた。
宮殿の大広間で賑やかに開催された晩餐会は、かなり豪勢なものだった。
皇帝は、ルーク王が自分たちの安寧を保証してくれたことに対して、ルーク王の名代として国内問題を解決するために送って来たプリシル王妃に感謝の意を示したかったのだろう。
晩餐会
晩餐会のメニューは
前菜:
-サリレのタルタル
-アバガデとエビのカクテルソース
-キノコとレビット肉のテリーヌ
スープ:
-去勢ガル、コドルナ、ピンタダのブイヨンスープ
メイン・ディッシュ:
-コルンバを使ったパイ
-ガルのシチュー風煮物
-コドルナの肉汁煮
-ピンタダの焙り焼き
-トルッファを詰めた若鶏のワイン煮
-ヒラメのフライパン焼きとキノコのクリームソース
デザート:
-焼きお菓子、ゴーフル(ワッフル)、エッグタルト、イチジクの砂糖煮
魚料理が少ないのは、ナスガアルが内陸部にあるからか、もしくは皇帝があまり好きではないかだろうが、目を見張るほどの豪勢なメニューだ。
それにしても、牛族であるロレアンスロゥプ皇帝の食欲はハンパない。もっとも、身長は250センチを超え、
体重は500キロ近くあるのだから、食欲が旺盛なのも当然だ。
それに、皇帝は正室である皇后のほかに、40人ほど寵妃をもっているらしいから、スタミナもつけなければならない?
「プリシル王妃、食が細いようだが、たくさん食べないと北西部までの旅は長いですぞ?」
皇帝がピンタダの焙り焼きを丸ごと食べながら、トルッファを詰めた若鶏のワイン煮とヒラメのフライパン焼きとキノコのクリームソースを少し食べただけでフォークを置いたプリシルに言う。
プリシルは、メイン・ディッシュの前の前菜とスープだけでお腹いっぱいになっていた。
ダエユーネフ国の住人は、ほとんどが獣人族で褐色エルフが東部海岸地域に少数住んでいる。
したがって、晩餐会に皇帝から招待された貴族たちも、そのほとんどが獣人族なので、みんな食欲が凄まじい。少数民族であるエルフ族貴族たちは、プリシルと同様すでにお腹がいっぱいになって隣りの者とおしゃべりをしている。
ようやくロレアンスロゥプ皇帝の食欲が満たされ、デザートになったが、あいかわらずデザートのお菓子をパクついている皇帝や同じ牛族の貴族たちを呆れたようにプリシルは見ていた。
彼女の横には、皇帝の寵妃の一人である若いエルフ妃が座っていて、いっしょにお茶を飲みながら他愛のない話をしていた。
アイフィとミカエラとアレクは、そのそばにいる。そして、マイレィはアレクの膝に抱かれていた。
そこにやって来たのが、アマンダとのデュエルで名を挙げたドゥモレ男爵だった。
この時間になると、食事も終わったので晩餐会の参加者はテーブルから離れ、酒やエールのカップを手に気に入った相手と雑談などを交わしている。
ドゥモレ男爵はプリシルが彼に気づいたのを見て、左手を胸に当て右手を後ろに回す優雅な礼をする。
「プリシル王妃さま、お久しぶりです!」
「あらっ、ドゥモレ男爵さま!」
となりの若いエルフ妃が、男爵を見て顔を真っ赤にする。
なるほど、ドゥモレ男爵は皇帝の寵妃たちにも人気があるらしい。
「こんばんは、ドゥモレ男爵さま」
「今回、アマンダ王妃さまとリリス王妃さまが来られなかったのは残念です。リリス王妃さまは、お元気ですか?」
「リリス王妃はいたって元気です。アマンダ王妃もリリス王妃もいろいろとご多忙なので、今回はわたくし一人でまいりました」
「そうですか。護衛の方は、あのミカエラさまとアイフィさま、それに新しい方が来られているようですね?」
近くに座っているアイフィたちの中に、膝の上にマイレィを抱いた、長身でネコ耳のアレクを見て聞く。
「はい。あの娘はアレクサンドラと言います。破滅拳バロネスと呼ばれる戦士ですわ」
「ええっ、破滅拳バロネス?!」
アレクが男爵が見ていることに気づいて茶褐色のショートヘアの頭を下げて会釈をする。
ドゥモレ男爵も優雅に、左手を胸に当て右手を後ろに回す礼で返す。
「アレクサンドラ・マリアンヌ・ゼリアンスロゥプです。よろしく!」
「これは恐れ入ります。アルチュセール・エヴラール・ドゥモレ男爵と申します」
「男爵さまとアマンダ王妃さまとの試合のことは、ルークタラス城でもたいへん話題になりましたわ」
「いえいえ。アマンダ王妃さまには逆立ちしても敵いません」
「男爵さまは、ナスガアル一の剣の使い手とお聞きしています」
「なんのなんの。そういうアレクサンドラさんこそ破滅拳バロネスとの異名をもっておられるとか。機会があれば、一度お手合わせしていただきたいものです」
興味深そうにアレクと男爵の話を聞いていたアイフィとミカエラ。
「ドゥモレ男爵さん、アレクとの試合はよした方が賢明よ!」
「はい?それはなぜですか、ミカエラさん?」
ちょっとムッと来た男爵。
「ふふふ。アレクの異名はダテに付けられたのじゃないのよ?」
ミカエラは椅子から立ち上がって、男爵を強く見て言う。
「?」
「彼女と試合をしたら、片腕を失うだけではすまないわよ」
「命があぶないですわ...」
アイフィがミカエラの袖を引っ張りながら言う。
ミカエラにあまりアレクの能力をバラすなと言外に注意しているのだ。
「と、とにかく、命が惜しかったらアレクとは試合をしないことね!」
アイフィの注意に気づいて、椅子に座りながら捨て台詞みたいな言葉を言う。
「あの... ミカエラさま」
「なによ、アレク?」
何かミカエラがドゥモレ男爵に言ったことで、何か言いたいらしい。
「あの... あまり破滅拳バロネス、破滅拳バロネスって言わないでください」
「どうしてよ?」
「わたし... 恐ろしい女って思われるのがイヤなんです...」
「はぁ? 恐ろしい女?」
その時、ミカエラは気づいた。
今回、二度目にダエユーネフ国を訪問して、行く先々で「ミカエラです」「アイフィです」と紹介すると、ダエユーネフ国の者たちは、まるで悪魔でも見るかのように真っ青になったのを。
そして、今、晩餐会のテーブルで、アレクが破滅拳バロネスと聞いて、周りにいる貴族たちや貴婦人たちが、同じような怖いものを見る目でアレクを見ていると言うことに!
「あ――っ、ちょっと訂正しておきます。ここにいるアレクサンドラちゃんは、まだ13歳のライオン族とエルフのハーフです。とても気立てのいい娘だから、みなさん仲良くしてくださいね!」
「そうです、そうです。破滅拳バロネスというのは、彼女のパンチが強いというのでドリアンスロゥプ皇帝が遊び半分で付けたニックネームなのです!」
アイフィも援護をする。
「なーんだ、そうか。ビックリしたよ!」
「また、あの怖い魔術師のお仲間が来たのかと思いましたわ」
「13歳のハーフか。かわいいな!」
「ドリアンスロゥプ皇帝からニックネームをもらったなんて、スゴイわ!」
「今度、そのパンチを見せてもらおうかな!」
ミカエラとアイフィの懸命な宣伝で、アレクの人気が急上昇した?
今度はあまりに注目を浴びすぎて真っ赤になってうつむいてしまうハーフっ娘だった。
「いやあ、破滅拳バロネスなんて言うからビビッてしまいましたよ!」
ドゥモレ男爵が気を取り直して言う。
「わたし... そんなに怖い女ではないです...」
「そうでしょう、そうでしょう。それでも、ドリアンスロゥプ皇帝には大層お気にいられたようですね?」
「はい。わたしの家はドリアンスロゥプ皇帝陛下とは、かなり遠いのですけど血が繋がっていることもありますので、わたしのことを孫娘のようだとおっしゃってくださいます」
「ほお... 皇帝陛下のご親族ですか。と言うと、ロレアンスロゥプ皇帝とも遠い親戚関係と言うことになりますね?」
「...... かなり遠いですけど、一応、そうなります」
その会話を近くで聞いていた貴族たちが騒ぎはじめた。
「おい、聞いたか? あのネコ耳のエルフ娘、ロレアンスロゥプ皇帝の縁続きだと行っているぞ?」
「おう、聞いたぞ。凄いな!」
「あなた、聞いた? あのかわいいハーフのエルフっ娘、ロレアンスロゥプ皇帝さまのご親戚ですって!」
「ええ、聞きましたわ!」
ワイワイガヤガヤ...
そんな話を聞いた者が、ヒソヒソ声で隣りの者に耳打ちし、その者がまた隣りに耳打ちし―
いつの間にか、『伝言ゲーム』のように内容が変わってしまった。
「あのハーフ娘、ロレアンスロゥプ皇帝の孫娘だそうだ!」
「なんと!皇帝の孫娘?」
「あのネコ耳娘はロレアンスロゥプ皇帝さまのお隠し子ですって!」
「ええっ?皇帝陛下の隠し子?」
「隠し子ですって?」
そして―
ついに、ロレアンスロゥプ皇帝の耳にはいってしまった?




