#5‐01 ドゥモレ男爵①
すべてが順調に行っていた。
ルークドゥル勇者王国の農業、商業、製造業は順調に利益を上げはじめており、経済は発展をしていた。
ルークを信じて多額の投資をしてくれたドジョーネル王とナンシーネ王妃も
「やはりワシの目に狂いはなかった!ルーク殿は、いや、ルーク王殿には将来性があると思っておった!」
「この調子では、あと4年もしたら投資の回収も始まるでしょうし、楽しみですわ。それにフィフィも妊娠していますし!これであなたの跡継ぎも心配ありませんわ!」
「おい、ナンシーネや。ワシの跡継ぎはちゃんとアンギューネルがおるではないか?」
「アンギューネルは、ドワーヴァリ族をまとめるリーダーの素質がありませんわ。立派な婿であるルークさまとフィフィの子どもこそ、ドワーヴァリ族の王にふさわしいですわ!」
ドコデモボードで、ひと月に一度、ヴァン大湿原で獲ったツルッタとサリレを手土産にソフィエッタを訪ねて来るドジョーネル王夫妻は、投資はうまく行っているし、初孫は出来るしでご機嫌だった。
ルークドゥル勇者王国、ミタン王国、ボードニアン王国に、ダエユーネフ共和国とワチオピア地方を加えたルーボードタン連邦は、西ディアローム帝国、東ディアローム帝国並みの経済圏になった。
ダエユーネフ国を“連邦”に組み入れてから、最初にルークが行ったことは、ダエユーネフ国の全貴族を集めて『ルーボードタン連邦政策』を知らしめることだった。
ルーボードタン連邦政策は―
① ダエユーネフ国のすべての貴族が所有する領地は、連邦政府の所有地となる。
② ダエユーネフ国の貴族諸侯が所有する屋敷や建物、それにその周囲の菜園などの土地は、
10エーカーまでは私有地としての所有を認められる。
③ ダエユーネフ国の貴族は、連邦の所有地となった領地の管理責任者となり、その領地において
利益を出す事業を実施・管理する。
④ ダエユーネフ国の貴族の利益は、その管理する領地の事業であがる収益に比例して、
連邦政府から報酬が支払われる。
⑤ ルーボードタン連邦は、それらの領地において事業の利益が出るように指導をし、
必要であれば投資をする。
⑥ 上述のルーボードタン連邦政策にしたがわない者は、王族、貴族に限らず、ルーボードタン連邦綱紀に定めるところの罰則により、爵位剥奪、全財産没収等の厳しい処罰が課されることとなる。
の6項目からなるものだった。
この政策は、すでにミタン王国とボードニアン王国でも実施されはじめており、かなりの効果が出はじめていた。
ディアマトマム大統領たちは、|スティルヴィッシュ伯爵《外務大臣》から、5項目の政策について知らされた時、唖然となった。
だが、間髪を置かずにクール・ゴールデンロード大公がふたたびルーク王の代理としてやって来て、ナスガアルに集められたダエユーネフ国の全貴族の前で説得をすると、全員、大公の言葉を信じて受け入れた。
…… ◇ …… ◇ ……◇ ……
ダエユーネフ国がルーボードタン連邦に加盟してから、約三ヶ月月後。
ディアマトマム大統領から、気になる報告があった。ダエユーネフ国の北西部の貴族たちに不穏な動きが見られるというのだ。
報告は、ダエユーネフ国の駐留軍の司令官となったゾロワリン伯爵からマデンキでルークタラス城に伝えられた。
「ルーク王さま。ゾロワリン伯爵は、ディアマトマム大統領がダエユーネフ国北西部の貴族たちは、二ヵ月前のクール・ゴールデンロード大公殿の説明会にも参加してないと報告して来ております」
会議室でスティルヴィッシュ伯爵が、少し心配そうな顔で言う。
「それでディアマトマム大統領は、ダエユーネフ国の北西部に使者を送ったのか?」
「はい。二回送ったそうですが、けんもほろろの対応だったそうです」
「ふむ。たかが地方の貴族を説得するために、軍を派遣するのも大げさか...」
「これから先のこともありますし、なるべく武力を使わないで交渉した方がいいと思います」
「うむ。アマンダの言う通りだな。戦いは戦い。多少の死傷者がでることもしかたないが、戦いが終わったあとで政府の意向に従わない貴族を片っ端から処刑するのも、今後のことを考えれば好ましくない...」
「そうですね。ルーク王さまが、元ブレストピア国のゲネンドル王一族に対してとられた寛大な処置は、東ディアローム帝国や傀儡国でもかなり評判になっていると聞いております」
プリシルが、西ディアローム帝国の関係者やラーシャアグロス王国の関係者などから聞いたことを言う。
「それに、ゲネンドル王の娘まで妻にしていますからね!」
「ハウェンの言う通りです。だから、ワチオピアの太守たちもこぞって娘をルークさまの妻にと申し入れたのでしょう」
リリスもルークドゥル軍の強さを知った者は、戦うことより、婚姻などでルークドゥル国との友好関係を築くことを望んでいると言外に言っている。
…… ◇ …… ◇ ……◇ ……
ボルランド侯爵家とコリニャック公爵家。
この二つの貴族が、ダエユーネフ共和国がルーボードタン連邦にほぼ無条件で加盟したことに反発し、何やら不穏な動きをしているダエユーネフ国北西部の有力貴族らしい。
両家は領地が隣同士であり、コリニャック公爵家の当主なきあと、コリニャック公爵夫人の娘をボルランド侯爵家の長男の嫁に迎えたことから親族関係になり、さらに絆が深まり、今回も協調してナスガアルで決定されたことに反対しているらしい。
ボルランド侯爵家とコリニャック伯爵家との交渉には、外務大臣であるスティルヴィッシュ伯爵が名乗り出たが、わざわざ外務大臣が出向くことはあるまい、ということでプリシルがルーク王の代理として赴くことになった。
プリシルは3歳のマイレィをいっしょに連れて行くことにした。
プリシルはイインヴィジブルと聴音&遠視スキルをもっているので、情報収集に都合がいいし、
マイレィは“予知能力”をもっているので、プリシルに危険が迫った時に知らせることができる。
今回のプリシルの護衛は、ミカエラとアイフィとアレクの三人だ。
アンジェリーヌやジョスリーヌも護衛として行きたがったが、やはり王女として育てられた二人は、いくらかくそうとしても言動で王族出身であることがバレてしまうので、平民出身であるミカエラとアイフィとアレクが選ばれたのだ。
三人のほかにガバロス戦士が5人、名目上の護衛として付き添い、さらに10人の侍女や従者が付けられた。
プリシルたちは、ドコデモボードでイシルレン湾に停泊していたルークドゥル艦に移動し、そこからナスガアルへ向かった。
一行は、王室馬車のほかに三台の馬車を連ね、前後をガバロス騎士に守られながら街道を進み、三日かけてナスガアルに到着した。
実際は十日ほどかかるのだが、面倒なので毎晩、町や村から離れた街道に来ると持参したドコデモボードで200キロほど跳んだのだ。
プリシル王妃一行がナスガアルに寄ることは、すでにゾロリワン伯爵を通してディアマトマム大統領に伝えてあったので、ナスガアル城ではディアマトマム大統領やクルフォルム侯爵、ギルレウム伯爵たちが仰々しく迎えてくれた。
「これはこれは!プリシル王妃さま、長旅さぞお疲れになられたことでしょう。ミカエラさまにアイフィさまもお元気なようで!」
「ディアマトマム大統領、それにクルフォルム侯爵さまにギルレウム伯爵さま、わざわざのお出迎えありがとうございます」
「我々が至らぬばかりに、ドゥ・ガノ侯爵とコンニャック伯爵にルーボードタン連邦の政策の理解を得ることが出来ずに大へん申し訳ありません」
「いえいえ、やはり急にルーボードタン連邦に入ってくださいと言われても、よく説明を聞かないとご理解できない貴族が出てもいたしかたないと思います」
「ルーク王さまもプリシル王妃さまも、とてもご理解があり、また仁愛あふれる方であることはよく存じ上げております。ふつうであれば叱責を受け、厳しい処罰を受けても仕方のないことです」
ディアマトマム大統領も平謝りだ。
クルフォルム侯爵やギルレウム伯爵たちも頭を下げっぱなしだ。
彼らはルークドゥル軍の恐ろしさとミカエラたち魔術師の恐ろしさをよく知っているのだ。
その夜は、ヴァニエル・メルダ宮殿でロレアンスロゥプ皇帝による晩餐会が開かれた。
皇帝は、ルーク王が皇帝一族の安泰を保証したことに安堵していた。
しかし、ルークはダエユーネフ国の皇族全族の維持を保証したわけではなかった。
彼が保証したのはロレアンスロゥプ皇帝の直宮だけに限定し、残りは臣籍― 公爵に降下したのだ。
ルークは前世で住んでいた東洋の国の皇族が、やはり占領軍によって天皇の直宮以外はすべて臣籍に降下されたということを歴史で習って知っていた。
“価値をまったく生み出さず、国民の税金ばかり浪費している皇族など必要ない!”というのがルークの考えだった。
ロレアンスロゥプ皇帝の親族たちは当然、臣籍に降下されたことを快く思わなかったが、表だって抗議や文句を言う者はいなかった。戦いに負けた国の人間は基本的に何の権利もないし、要求もできないのだ。




