#4‐23 太守の申し出
ドコデモボードがある陣地に向かって馬を進めながら、アマンダが大公に訊く。
「ルークさま。あのワチオピアの太守たちからの申し出、いかがいたしますか?」
「ああ。あの件か。受け入れた方がいいだろうな」
陣地の中に入り、ダルドフェル公爵の司令部テントに向かう。
途中で会う兵たちは、ルークたちを見て敬礼する。
アンジェリーヌとジョスリーヌは司令部テントの前にいた。
そのそばには、スーラとラリイとドロッテたちもいた。この5人はドコデモボードの警備をしているのだ。
スーラとラリイとドロッテの3人は、ミカエラの友だちで、みんなヨガヴィッド魔術学校の出身だ。
ドコデモボードはルークドゥル軍の最高機密だ。なので外部に持ち出される時は厳重な警備がつけられるのだが、兵だけの警備では足りないと魔術師も警備の任務につけることをアマンダがアドバイスしたのだ。
ルークがクール・ゴールデンロード大公になりすまして交渉に行く時は、任意の場所に跳ぶことができる セヴァラルボードと呼ばれるドコデモボードをもって行く。
ドコデモボードは、跳びたい地点の緯度と経度さえあれば、魔素をこめるだけでゲートが開くが、その場合は一方通行オンリーとなる。
ルークは“王”として遠く離れた場所に跳ぶ時は、万一の場合に備えてドコデモボードをもって行く。
そうすれば、急に対処しなければならない事態が起こったとしても、アンジェリーヌたち魔術師が一人でもいれば、どこへでも跳ぶことができるからだ。
司令部テントの前には腰に手をあてたジョスリーヌがふくれっ面で立っていた。
「あーん!もう、ルークさまったら、何でこんなに時間がかかったんですかぁ?」
「そう怒るな、ジョスリーヌ。ダエユーネフ一国を連邦に加盟させるための交渉だ。5分や10分ではすまない」
「そんなこと言って! 誰でもルークさまがちょっと睨んだら、みんなハイハイって了承するんでしょう?」
「皇帝と大統領だけじゃないのよ。貴族たちや兵たちにも“信頼”してもらわないと、あとがたいへんなのよ」
アマンダが“これだから甘えん坊の王女さまは手がかかるのよ...”と言いたげな口調で説明する。
「それに、わたしも負傷した兵たちの治療もしましたし」
リリスももどるのが遅れた理由を言う。
だが、アマンダがドゥモレ男爵とデュエルをしたことは言わない。
「ジョスリーヌ、あんまり駄々をこねたらだめよ」
アンジェリーヌが姉らしく、妹に注意する。
「だってェ...」
「あなたもルークさまの王妃なのですから、もう少し分別のある言動をとりなさい」
「... わかったわ...」
さすがにジョスリーヌもだまってしまう。
ルークは馬から降りると、アンジェリーヌに近づいた。
彼女の腰に手を回して、ぐっと引き寄せるとチュッと口づけをした。
「警備、ご苦労さまだったね」
「いえ。これくらいは当然のことです」
ポッと頬を赤らめるアンジェリーヌ。
ルークはアンジェリーヌから離れると、今度はジョスリーヌに近づき、
その細い腰に腕を回してギュッと抱きしめて、その可憐な唇にチューをした。
「あふ~ん...」
ジョスリーヌもルークの肩に手をかけてキスを受け入れる。
アンジェリーヌの時よりもチューの時間が長い?
ミカエラやアイフィたちが、少し羨まし気に見ている。
1分ほどかかっただろうか。ルークはジョスリーヌから離れると言った。
「さあ、続きはルークタラス城だ!」
「「「「「はいっ!」」」」」
ドコデモボードの警備をするアンジェリーヌたちを残して、ルークはアマンダたちとドコデモボードでルークタラス城にもどった。
アンジェリーヌたちは、交代の魔術師たちが来るまで持ち場を離れることができないのだ。
ルークタラス城には5つドコデモボードがある。
城の中にあるドコデモボードの部屋も厳重に警備されている。
ルークはドコデモボードの部屋から出ると司令部に向かった。
司令部に着くと、そこにいたギャストン伯爵やスティルヴィッシュ伯爵たちにダエユーネフ共和国が連邦に加盟したことを告げた。
「おお!ダエユーネフ共和国が加盟しましたか!」
「これで、ルーボードタン連邦構想は実現しましたな!」
「おめでとうございます。ルーク王さま!」
「おめでとうございます!」
みんな口々に祝福する。
「それで、例のワチオピアの3太守からの申し出についてだが... 私は受けてもいいと考えている」
「受けられますか!太守たちもよろこぶことでしょう!」
スティルヴィッシュ伯爵が顔をほころばす。
「婚儀の手続きを進めてくれ」
「かしこまりました」
「で、太守の娘たちはどんな娘だ?」
「それについては、わたくしがお話します」
プリシルが後ろから言う。
「そうか。では、また湯につかりながら話しを聞こう」
そう言うと、ルークは司令部の部屋を出て通路を通って宮殿に向かった。
大理石の浴場に着くと、ルークはすぐに湯に入る。
アマンダたちも服を脱いではいる。少しするとアガリとルナレイラ、それにヴァスマーヤもはいって来た。
アマンダが浴場に来るように伝えたのだ。エリゼッテたちはお勉強の時間なのでただいま授業中だ。
ルークはお湯の中でミカエラとアイフィを、それぞれ片膝に座らせてスキンシップをしている。
二人ともまだウブなので真っ赤になっているが、ルークはお構いなしだ。
ミカエラとアイフィへのスキンシップの手を休めずに、プリシルに訊く。
「で、太守の娘の話だが...」
「はい。ひとりはガリュベン太守の五女で、ヤシュタラ・アディラ・ガリュベンと言う名前で16歳です
もうひとりは、ナーカダル太守の妃の姪でラゥパニ・スワミィ・ナレンナス・ナーカダル。年は18歳です」
「長い名前だな?」
「はい。わたしが会って見た感じでは、とても美しく、かなりしっかりした娘です」
プリシルはスティルヴィッシュ伯爵といっしょに、ワチオピア地方の太守を公式訪問した時にヤシュタラ と会っていた。
「ナーカダル太守は一応、自分の養女にしてから結婚させると言って来ています。
そして三人目が、アバドワル太守の4番目の妃の娘で17歳のナーリミア・ シヴァンシカ ・アバドワル。
すでにアバドワル州の有力貴族の息子と婚約していたのを解消して嫁がせるそうです。
いずれも、ワチオピア地方ではかなり有名な美しい娘だそうです。」
「そうか。またこの浴場にはいる者の数が増えるな...」
「ああ... ルークさま ルークさま!」
アイフィがルークの首に腕を回して苦しそうな顔をして喘いでいる。
が―
それは決してルークがアイフィを絞め殺しているのではない。
浴場のお湯の中での、いつも通りの夫婦の行いの真っ最中なのだ。
ミカエラは、すでにたっぷりと愛されてグッタリとなって、プリシルとリリスに抱えられて床の上に寝かせられている。
「では、太守たちに“結納”を送る手配を進めさせます」
「うむ。たのむぞ... さあ、今度はプリシルだ!」
「え? は、はいっ」
プリシルがうれしそうにルークのそばに寄る。
アイフィは気を失ったようになっていた。
リリスとハウェンが、抱きかかえるようにして湯の中から出し、ミカエラの横に寝かせた。
ルークはプリシルを膝の上に乗せ、スキンシップをしながら、新しく妻となる太守たちの娘のことを考えていた。
“いずれも美しい娘か... ふふふ。テルースの世界での人生は、さらに楽しいものになりそうだな...”




